次の日も、その次の日も、ひよりは桐生と一緒に登校しなかった。
教室でも話しかけることはなくなり、昼休みも別の友達と過ごした。
まるで――最初から、そんな関係じゃなかったみたいに。
けれど、それが「普通」になっていくのを、桐生はどこか落ち着かない気持ちで見ていた。
「高坂、最近どうしたの?」
昼休み、クラスの男子に声をかけられる。
「……何が?」
「なんかさ、橘が避けてるっぽいけど。喧嘩でもした?」
「別に」
桐生はそう言って、食べかけのパンを置いた。
そう――別に。
別に、避けられたって困ることはない。
別に、ひよりが誰と仲良くしてようと関係ない。
だって、もともとひよりが勝手に懐いてただけで――
「……くそ」
苛立つように前髪をかきあげる。
何に苛立っているのか、自分でもよくわからなかった。
放課後。
桐生は、ふと目に入ったひよりの姿を追っていた。
彼女は校門のそばで、別の男子と話している。
――誰だ、あれ。
よく見ると、隣のクラスのやつだった。
ひよりは楽しそうに笑って、何かを話している。
その笑顔が――自分には向けられなくなったんだ、と思い知らされる。
「……はぁ」
深いため息がこぼれる。
猫は気まぐれで、誰にも縛られないはずなのに。
なのに、懐いてきた犬が離れたら、こんなにも落ち着かなくなるなんて。
その時だった。
ひよりが男子から何かを渡され、驚いたように目を瞬かせるのが見えた。
それは――小さな袋に入った、犬の形をしたクッキーだった。
「え、これ……?」
「この前、犬好きって言ってたからさ」
男子が照れくさそうに言うのが、かすかに聞こえた。
桐生の眉が、わずかに動いた。
――犬が好き、か。
それって、つまり……。
桐生は無意識に、足を踏み出していた。
「――おい」
低い声が、二人の会話を遮る。
ひよりが驚いたように顔を上げた。
「……桐生くん?」
彼女の名前を呼んだのは、ほぼ一週間ぶりだった。
自分でも何を言うつもりなのか、わからない。
ただ、ひよりの隣に知らない誰かがいるのが、ひどく気に入らなかった。
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やっほやっほ🖤