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ゼンティとリィラとアレンの一行は、馬車から降りると徒歩で森の中へと入る。
ここはアディール王国の城下町からは離れた場所で、リィラの故郷である毒の里・ポワゾンに近い。
リィラにとっては、この周辺の森の中は馴染みがある風景で迷う事もない。
「ねぇ、ゼンティが見せたい場所って、この先にある小山?」
「うん、そうだよ」
森の中に開けた場所があって、そこには大きな土の山がある。人工的に作られたのかは定かではないが、リィラが幼い頃からあった気がする。
その場所に着いて改めてその山を見上げる。高さはそれほどでもないが、横幅は貴族の豪邸くらいはある。
なんとなく触れてはいけない気がして、リィラはその山を見る事はあっても近付いた事はなかった。
「リィラちゃんは、この山が何か知ってる?」
「知らないけど、なんか……ずっと不思議な感じがしてた」
「そうだろうね。これは墓地なんだよ」
「……え?」
リィラが驚いてゼンティの方に顔を向けると、ゼンティは山に一歩近付いてその茶色の土に手で触れる。
その瞳は憂いを帯びて悲しげに揺れていて、ゼンティのこんな表情は初めて見る。
「もう何十年も前。人間による魔物の大量虐殺があった」
「虐殺……!?」
という事は、この山は殺された魔物が埋葬された墓地。山の大きさからして、どれだけの数の魔物が死に至ったか……想像を絶する。
ゼンティは山を見上げて昔話のように語り続ける。
「それはアディール王国が仕組んだ毒殺だったよ。森を切り開いて領地を広げるには、人間を捕食する魔物は脅威だからね」
「でも獣魔は毒が好物なんじゃ……?」
「うん、自然の毒ならね。だから人間は、獣魔にも有毒な毒を開発した」
ここまで聞いて、リィラは嫌な予感がして恐怖に震えてくる。
アディール国での毒の開発、毒の里ポワゾンの消滅、ゼンティの復讐。毒に関わるこれらの件は、全てが繋がっているように感じる。
ゼンティがどこまで話してくれるのか分からない。でもリィラには確かめたい真実がいくつも思い浮かぶ。
「じゃあ、ゼンティが復讐したいのは、毒殺を仕組んだ人たち……?」
「いや。そいつらはもう殺した。だから僕は、そいつらの意志を継ぐ人間に復讐する」
おそらく、それはレンティの事だろう。だがリィラはその名を口に出してはいけないと思った。
魔物の大量毒殺を実行させたのは、おそらく先代のアディール国王と王妃。センティとレンティの両親だ。
レンティは両親は死んだと言っていた。獣魔の復讐によって殺されたのだろう。
そうなると両親を殺されたレンティは、獣魔への復讐の目的で毒を開発していると思われる。
(ゼンティの復讐と、レンティさんの復讐……私は、どうしたらいいの?)
復讐と復讐。リィラは二人の復讐の狭間に立たされている。
リィラはセンティの遺志を継いでレンティを守りたい。だがそれは、レンティを殺したいゼンティへの裏切り行為となる。
センティとゼンティ、どちらの願いを叶えるべきなのか。リィラは自分がどうしたいのか、その答えを出せない。
「あぁ、でも王子……僕の今の体ね。こいつは平和主義だから、毒とか復讐には反対してたよ」
ゼンティが墓地の山から離れて振り返ると、後方に控えるアレンと目が合う。
リィラもゼンティに合わせて振り返ると、後方のアレンのさらに後ろに信じられない光景を目にした。
いつの間にか、周囲を何十人もの武装した兵士に囲まれていた。剣を構え、今にも斬りかかってきそうな空気に息を呑む。
それでもゼンティは動じない。殺気立つ兵士たちに向かって微笑んだ。
「ふふ、ほらね。だから僕、ずっと命を狙われてるんだよね」
その言葉を合図に、兵士たちの剣先が一斉にゼンティに向かって襲いかかってくる。
狙いはゼンティ一人らしく、アレンとリィラには目もくれない。
だが剣先がゼンティに届くよりも先に、アレンが腰に携えていた長剣を鞘から抜いた。今のアレンは近衛兵の武装をしている。
「アディールの兵たちよ。来い。オレが相手をしてやる」
アディール王国の近衛隊長・アレンを目にした敵勢は一瞬怯むが、その隙を突いてアレンの長剣が次々と容赦なく兵を斬り捨てていく。
「リィラちゃんは危ないから下がっててね」
ゼンティもまた腰に携えていた剣を鞘から抜いて参戦する。アレンの太くて大きい長剣とは対照的に、ゼンティが構えるのは細身の長剣。
その剣をゼンティは軽々と振り上げ、素早い動きで相手を斜めに斬り下ろし倒していく。刺し殺さずに、わざと致命傷を外している。
やがて全ての兵が地に伏せると、その血の匂いに引き寄せられた獣魔が次々と周囲に集まってきた。やがて熊や犬の姿をした大型の獣魔たちに囲まれた。
戦いを終えたゼンティは、清々しく額の汗を拭う仕草をして獣魔たちに笑顔で呼びかける。
「ほら、好きなだけ食べなよ。早くしないと、こいつら死んじゃうよ」
獣魔は生きた人間を捕食して体を得る。だからこそゼンティもアレンも、兵たちに致命傷までは与えなかった。
リィラの目の前で、餌となった兵たちに魔物が群がっていく。咄嗟にゼンティはリィラの腕を掴んで歩き出し、その場から離れさせる。
「リィラちゃんは見ない方がいい。帰ろう」
リィラは残酷な捕食の場面を見るよりも、残酷な真実と現実を受け止めきれずに意識が遠のきそうになる。
ゼンティとリィラの後ろでは、二人の背中を守るようにしてアレンが息一つ乱さずに歩いている。
ゼンティはリィラの片手を握りながらも、いつもの爽やかな笑顔と口調で一切の闇を見せない。
「ふふ、本当にバカだよね。人間なんて格好の餌食なのにね」
魔物に成り果てたゼンティにとっては、命を狙う刺客は逆に都合が良かった。
評判や世間体を重んじる貴族は、人目に付かない森くらいにしか暗殺の刺客を送らない。
センティ王子を森で殺してしまえば、魔物に襲われて死んだと捏造する事なんて簡単だからだ。