※このSSには未成年飲酒の表現が含まれます。また、本作品は未成年飲酒を推奨するものではございません。ご理解いただけますと幸いです。
時計の短針が北北東を向き、太陽の陽射しは夏日の訪れを表す。暑さは変化を現し、部屋は冷えることを知らない。
「あっついですね……。」
私は仰向けで天井を見る。一分ばかりの細目をして、身の置き所のない退屈に辟易する。
「………。」
分娩後の犬が立ち上がるような頼りない起き方、そこから靴下を履いて玄関に向かった。しみじみと大きい欠伸をして、戸の先にある眩しさを想像する。
“やあ、イロハ。”
「やってきましたよ。」
シャーレの涼しい室内。快適なこの場所は、私の休息にはもってこいの場所だ。
「今日は当番が無くなったそうですね。」
“仕事はあるんだけどね……”
パソコンのキーを手慣れた動作で打つ先生は、微笑みつつ私に答える。
「……この空き缶は?」
手が刹那、静止する。
“バレちゃうかやっぱ。”
「キヴォトスでの流通は少ないのですがね〜…。」
ビール缶が普遍な光沢感を持って、机に置かれている。それにまた、先生は平静を重ねる。
“仕事頑張った自分へのご褒美だよ。”
「そうですか………。」
「……。」
少しの水音、揺らめく缶底の黄金。空き缶と言うには、それほど物寂しいものでも無かった。
“……ごめん、それ飲みかけだった。”
「………少しだけ。」
“ちょっ…!?”
私は、そのビールを口にした。
麦芽の味は口中に広がり、生暖かさは喉を劈くように撫でる。苦さは理不尽の味で、脳内に虹が架かった。
「ぉぇッ……」
“イロハッ──!!?”
“…だ、大丈夫…?”
「はい……一応……。」
ふとして、私は口を拭って顔を上げた。何故だろうか、少しの感情と混沌を混ぜ合わせた歪みが、目の前で躍っているような感性。
「(この少量で……?)」
“イロハにはキツかったか……。”
意識が、少し揺らめく。まるで四肢が溶けているような感覚だった。小脳でも麻痺したか、バランスが取りにくい。
“……なんか、凄い酔ってきてるけど。”
呂律が、少し不平衡になっていくのが分かった。意識の不安定さと事態の違和感に、少し戸惑っている私のみがいた。
「……。そこまでは酔ってないですよ……」
少し、見栄を張ってみた。先生の顔が、今の私の状態を映し出している。
“……依頼ミスしたっけ…”
「先生〜……」
千鳥足気味に倒れ込み、私は軽く先生に倒れ込んでいた。ぼんやりとして、意識はまだあることを再確認しようとしていた。
“もしもしウタハ、特注のやつについてなんだけど──”
静かな空気が部屋中に濃く満ち、息をひそめる。
私が、先生に抱きついている。それを再認識して、顔が朱色にでもなりそうだった。
“生徒にだけ効く仕様のになったって事?”
脳内で思考が蠢く。それでも、意識の表層は常に混濁していた。瞼が鉄みたいに重くて、多少の吐き気と温かみを喉元に抑え込む。
“大体分かったよ、ありがとう。………”
「……どうかしました…?」
“……?イロハ?”
多少の視線と困惑を感じて、ふらつき気味に離れた。
「す、すみません…先生……」
“とりあえず、座ろっか。”
「学籍がアリウスでまだ良かったです……。」
“そうだね。”
少し、酔いが解けてきている。次第に押し寄せる睡魔に囁かれて、私は目を閉じていた。
「──せんせ…い……」
“……寝ちゃったか。”
“──ウタハ……?”
「……私は何も知らないよ。」







