コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──ラウンジのカウンターに隣り合って座ると、彼は何事かを話し出そうと短く咳払いをして、
だけど、いつまでも何も話すようなことはなく、締めているブルーの斜めストライプ柄のネクタイの位置をしきりに片手で直した。
「……あの、どんなお話が……?」
話しづらいようなことなんだろうかと、そう尋ねると、
「あっ……」
と、弄んでいたネクタイから顔を上げて、
「……うん」
と、また顔を下へ向けた。
「もし話しにくいようなことでしたら、無理には……」
「……ああ、いや……」
声をかけた私に曖昧に返して、目の前のカクテルグラスを手持ち無沙汰につかんだ。
「……。……さっきも話したが、息子は、家族が増えれば嬉しいだろうと思うんだ……」
「……はい、そうですよね」
彼の話の真意がつかめずに相づちだけを打つ。
「……。……息子も、家族が多くなることを、どうやら望んでいるようだしな……」
さっきと同じようにも繰り返される、どこか独り言のようにも聞こえる呟きに、
(……もしかして、蓮水さん自身にはあまりその気はないのに、周りから無理にくっつけられそうにもなって、実は辟易しているのかも……)
元々ネガティブな思考回路になっていたこともあり、そう考えを巡らせた──。