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樹海のとある洞窟の入り口。樹海にはいくつか地下へと続く洞窟があり、魔物が発生することもあって少しおどろおどろしい場所である。
その洞窟の入り口に、リュックを背負い、ヘルメットを被っている猫、犬、ウサギ、そのほかに、クマ、シカ、キツネなど様々な妖精たちがいていくつかの列を作って並んで座っている。ほとんどが生後半年から1年の大人になる前の妖精たちだ。
100匹近くおり、さながら遠足である。
「最高だな。こんなにモフモフがいるなんて、ここは天国だなあ……」
「こんニャ辛気臭い場所が天国ニャんて嫌ニャ……」
ケットがムツキに冷静にツッコミを入れる。その後、100匹いる妖精たちの前にケット、クー、アルが立って説明を始めた。
「みんニャ、よく集まったニャ。みんニャも大人やお兄さん、お姉さんから聞いたことあるかもしれニャいけど、みんニャにはこれから、大人になるための試練を受けてもらうニャ! その名もモフモフ探検隊ニャ!」
モフモフ洞窟探検隊。年に1度の恒例行事であり、大人への通過儀礼とも大人になる前のレクリエーションともいえるものだ。
ちなみに「モフモフ洞窟探検隊」と命名したのはムツキであり、それまでは「大人になるための度胸試し」と呼ばれていた。要は真夏の夜の肝試しと遠足が合体したようなものである。
次にクーがケットの代わりに説明を始める。
「よく聞け、ルールは簡単だ。予めこちらでチームを決めている。チーム分けは配られた葉っぱを見ろ。そのチームでどんなルートでもいいから今日明日中に最下層にある泉の水を汲んで戻ってくるんだ。いいか、チームだからな。勝手に1人で別行動したり、誰かを置いて行かないこと。途中、途中で各自点呼を取れ」
クーが一呼吸おいて、さらに話す。
「泉と聞いて気になっている奴もいると思うが、そこにいるニドや毒蛇たちには既に話を通してあるから、下手なことをしなければ噛みつかれることはない。ただ、刺激はするなよ? 同じ妖精族だから会話はできるが、話が通じるかは分からんからな」
クーはさらりと脅しを入れておく。クーは厳しいことを言う役割のようだ。
「基本的には、安全なルートを辿っていけばいいと思います。多少引き返すのも勇気ですよ。早くて半日、どんなに遅くとも丸2日で行けるでしょう。一応、探検ということなので、最下層までのレポートもあると嬉しいですね。ただし、必須ではないので、それで時間を掛けないようにお願いしますね」
アルが丁寧に補足する。普段樹海の警護をしている彼からすれば、安全第一であってほしいと願うばかりだ。
「ニャにか質問はあるかニャ?」
「にゃ!」
「ニャんニャ?」
「にゃー、にゃ、にゃー?」
「……かわいい光景だなあ」
ケットと仔猫がやり取りをしている。ムツキは妖精の言葉が分からないので、探検家のコスプレをした仔猫とケットのやり取りが可愛いなあくらいにしか思っていない。
「いい質問ニャ。ニャにか遭った時のために、どのグループにもご主人やオイラたち、そのほか、おとニャの妖精がついているニャ。それでも対応できニャい時、たとえば、強い魔物が出てきちゃった時は、ご主人とおとニャたちは常に連絡取り合えるようにしているので、安心してほしいニャ」
「任せてくれ。モフモフは俺が守る!」
「にゃー」
「わふわふ」
「うが」
ムツキが急に話に出てきたので、妖精たちが一斉に、横でこの光景を眺めている彼を見た。彼は嬉しそうにガッツポーズを取りながら、力強く答えた。
「主様が張り切っているとはいえ、それ以上に頑張るのはお前たちだ。できるだけ大人の手を借りずに達成すること。これはただの遊びではない。お前たちが大人になるための試練と思え。魔物が出た場合もな。後は大人と一緒にうまく連携してみろ。それと、大人の妖精たちも遊びだと思って中途半端にしていると……どうなっても知らんぞ」
クーの発言にそれまでのんびりと聞いていた大人の妖精たちの姿勢がピンとなる。
「わん! わふぅ?」
「ん? 特にルートに指定はない。最初は迷路のように無数の穴があるが、最下層に行くにつれてルートも絞られてくるだろう、というのがヒントだな。後は、予め立ち入り禁止にしているルートはあって、そこは既に塞いでいるから大丈夫だろう」
クーはこの日のために、事前にルート確認をして、危険そうな道を先んじて塞いでいたのだ。彼もまたこの試練には思い入れがあるのか、やる気が漲っている。
「それと言い忘れていましたが、これから、マイロードより【ライト】の支給があります。あと、リュックにはご飯や水が2日分、ロープやナイフなどのグッズなどもあります。極力失くしたりどこかに置いて帰ったりしないように。出したゴミもちゃんと持ち帰ってくださいよ。なんなら、来た時よりも綺麗にして帰るつもりでゴミなどを拾ってくださいね」
「ぷぅ」
「わん」
「ぐるる」
「ぴぃ」
アルはひたすら遠足の注意事項を話す学年主任の先生のような立ち位置だった。
「他に質問はあるかニャ?」
ケットの言葉に、しんと静まり返る。全員が準備万端という合図でもある。
「それじゃ、順番に出発ニャ!」
こうして、モフモフ洞窟探検隊が始まった。