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洞窟の中。ムツキは全員分の【ライト】を出した後、最初に出た1チームについていって最下層へと向かっていた。
洞窟は茶色や灰色のごつごつとした岩や砂利の混ざった様な土などで床、壁、天井が構成されている。道は、思ったよりも広く大人が横並びに4人は何の苦労もなく歩ける程度だ。
探検隊が歩みを進めてみると、なだらかに下っているかと思いきや少し上り坂になっていることもあり、下へ向かっているのか、上に向かっているのか分からなくなっている。時折、水が滲み出ているのでピチョンという音が出ているため、洞窟全体が湿り気を帯びており、おどろおどろしい雰囲気で度胸試しに十二分に向いていた。
「にゃ! にゃあ、にゃ!」
「わふわふ……わん!」
先頭に立っているのはムツキの家にいるクリーム色をした少し大きめの仔猫だ。それどころか、このチームは全員、ムツキの家にいる仔猫や仔犬だった。普段から一緒にいる大人と組合せているようで、ムツキはほかのクマやシカとも一緒に歩いてみたいなと少しだけ思っている。
「しかし、いつもながら、何を言っているか、さっぱり分からないが、これがかわいいというのだけは確実に言えるな……ヘルメットにリュック、最高だよな……。最高以外の言葉が見つからない。最高だな……」
ムツキは真剣な眼差しでひとまずモフモフをべた褒めしていた。周りにツッコミを入れる人がいないので、ただただモフモフポンコツ暴走状態である。
「にゃー、にゃ? にゃー……にゃ……」
「わふ……わんわん……ばう……わんわんわん!」
「くぅーん」
「みぃ、みぃ」
「にゃー……にゃ、にゃー?」
「ん? どうした? かわいいけど、どうした? かわいいな……」
「子どもたち……道……どれか……考える……決める……」
赤茶色をした大人の猫が咄嗟に通訳をしてくれる。まだこの猫も10歳程度というところで、動物だと長寿の領域に踏み込もうとしているが、妖精だとまだまだ若い方である。
「おぉ、そうなのか。大人だけど、君もかわいいね、ありがとう。どっちに行きそうだ?」
ムツキがそう聞くのは理由がある。彼には魔力の道筋が見えており、その道筋は最下層に最短で行けるルートになっている。それと照らし合わせて、どの程度正しく進めているかを判断していた。
この最初のチームは結構重要で、魔物の露払いができるようなチーム構成になっている。
「多分……大丈夫……ちゃんとできる……」
「にゃー!」
「わんわん!」
「道……決まった……ついてこい……言ってる……」
仔猫と仔犬が選んだ道は、最短ルートではなかった。しかし、ムツキは余計なことを言うつもりもなく、首を縦に振った。
「よし! わかった! どこまでもついていくぞ!」
その後、しばらくすると、仔猫や仔犬の緊張がほぐれてきたのか、鼻歌交じりから、声を出した鳴き声に変わっていく。
「にゃー、にゃー、にゃー♪」
「わん♪ わん♪ わん♪」
「にゃっ、にゃっ、にゃっ、にゃっ、にゃっー♪」
「あおーん♪」
「お、歌かな……かわいいなあ……」
ムツキは録音機があればセットしたいくらいだった。顔が崩れた笑顔から戻ることがない。
「今……みんなで……歌……歌う……ている……楽しい感じに……」
「おー、やっぱり、リズミカルだから歌か何かと思っていたが、みんなで一緒に歌かあ。洞窟の音楽隊だな! いや、合唱隊だな!」
ムツキが興奮気味にそう言うと、大人猫が気を利かせて歌までも訳そうとしてくれる。
「……死ぬ……覚悟で……進む……!」
「え、いや……えっ? なに? ええっ?」
ムツキは衝撃を受けた。その言葉は彼にとって、何よりも衝撃的だった。
「……いや……いやいやいやいや……待ってくれ……違う……違うだろ……そうじゃない……そんな歌詞じゃ……そんな歌詞じゃないだろ……にゃー、にゃー、わん、わん、って言ってるのに、そういう歌詞じゃないだろ……楽しいとか……嬉しいとか……ウキウキの……ハッピーとか……とかだろ? 絶対……信じたくない……俺は信じないぞ……嘘だと言ってくれ……」
ムツキはあまりの衝撃にいまだ受け流すことができずに狼狽えている。その中、仔猫と仔犬がピタリと歌を止め、行進も止め、静かに耳を澄ませている。
「にゃ……にゃ」
「わん……」
「……っと、気付いたか。たしかにこの感じは魔物だな。あぁ……鳴き声で判断したのか。あんなに楽しく歌っていたのに、ちゃんと気付けて偉いな。みんな、花丸満点だな。いや、存在の時点で花丸満点か。最高だしな」
ムツキは変なことを呟きつつも魔物気配を察知し、さらに、仔猫たちがそれに勘付いたことを素直に称賛した。
「これなら……私……先に行く……ムツキ……さん……手を出すない……」
ムツキは頷く。彼は基本的に最終手段であり、強敵でない限り、出てはいけないことになっている。今回出会いそうな敵は、気配からして決して強い部類ではない。
「あおーんっ!」
近付く魔物の気配に、全員が陣形を組み始めた。