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妖怪面白いですよね〜!!
あかまるの雰囲気と妖怪の不気味さがいい感じにマッチしててすっごく感情移入できた‼️司は狐狸、類は餓者髑髏なのでそれぞれ動物や髑髏に関わりがあった的な、ね🤤🤤(語彙ゼロ) 私らの近くにも妖怪がいるのかもしれないってことか…… あかまるの作品全コンプの民なので、少しは妖怪に詳しくなってる気がする()
妖怪パロ好きぃぃぃ😇😇😇 見進める度に「フゥッ⤴」とか言ってしまった(?)
「…なんか、また怪しい所に着いてしまったな、、」
目の前には、生い茂る草木に覆われた大きな古い屋敷がある。
「勝手に入るのは気が引けるけれど、このままじゃ凍死してしまうかもしれないからね。」
外は酷い雨が降っていて、気温がとても低い。
「扉は…おっ、鍵開いてますね。」
彰人が扉を開けた。
「けれど…やはり、勝手に入るのは良くないのでは無いでしょうか?」
冬弥が不安そうに言った。
「背に腹はかえられないよ。このままじゃ、全員死んでしまう可能性もあるからね。家主には事情を説明して、謝ろう。」
類が冬弥を優しく諭した。
「だな。家主には申し訳ないが、お邪魔させてもらおう。」
「てか、こんなにボロボロならもう廃屋なんじゃねぇの?」
彰人の言う通り、たしかにボロボロで人の気配はない。
「いやぁ、案外住んでるかもよ?ほら、人じゃなくても別の何かとか…」
類がそう言った瞬間、俺の首筋に何か冷たいものが当たった。
「ギャァァァァ?!?!?!」
俺は思わず悲鳴をあげた。
「ふっ…あははっ。ごめんね、僕だよ。」
どうやら類の手だったようだ。
「全く…!!心臓が飛び出るかと思ったぞ!!!」
「いや、俺らはあんたの声にビックリしましたよ。」
彰人が耳を抑えながら言った。
「む、す、すまん!!!」
「「「「?!」」」」
俺たちは一斉に音のした方を向いた。
見ると、彰人がさっき少しだけ開けていた扉が、完全に開いている。
「これは……歓迎されているのかな?」
類が苦笑いを浮かべながら呟いた。
「だ、誰かいませんか?!」
俺は大きな声で聞いたが、返事は無かった。
「…とりあえず、寒いし入りません?お邪魔しまーす!」
彰人がそう言って屋敷に入っていった。
「…そうだね。お邪魔します。」
類もそれに続いて入っていってしまった。
「…冬弥、」
俺は動こうとしない冬弥に声をかけた。
「すみません…やはり勝手に入るのは気が引けて…」
育ちが良いからだろう。俺も気は引けるが、類の言う通り背に腹はかえられん。
「後で一緒に謝ろう。ほら、風邪を引いてしまう。中に入ろう。」
俺は冬弥の手を引き、屋敷へ入った。
俺と冬弥が屋敷に入った瞬間、扉が勢いよく閉まった。
「な…ッ?!」
急いで、扉を開けようとするが、扉はビクともしない。
「あ、開かない……!!?」
類や彰人も扉を開けようとしたが、開かなかった。
「駄目だね。出られそうにないよ。」
「そうっすね。鍵…とかじゃ無さそうだし、出るなら他の場所からですね。」
「…駄目です、窓も鍵が掛かってます。」
冬弥が諦めてこっちへ戻ってきた。
「なるほど…閉じ込められてしまったわけか。」
屋敷の中は意外と綺麗だった。少し荒れたり劣化はしていたが、最近まで誰かいたようだ。
「とりあえず、屋敷なら裏口もあるはずだ。そこから出られないか試してみよう。」
類の提案に皆頷き、俺たちは裏口を探すことにした。
屋敷の廊下を進むと、少し不思議な感覚がした。
「…なんか、この廊下長くないか?」
外観よりも遥かに広く感じる。
外から見た時は、こんなに広くなかったはずだ。
「たしかに…おかしいね。廊下が終わらないなんて。」
「このまま歩いても何も無さそうなんで、近くの部屋とか入ってみます?」
彰人がそう提案し、一番近くにあった障子を開けた。
その部屋はとても薄暗かった。
また障子が勢いよく閉まった。
「どうやら、この部屋を探すしか無さそうですね。」
冬弥がそう言った直後に、赤子のような泣き声が聞こえてきた。
「む、何か泣き声が聞こえないか…?」
泣き声はどんどん大きくなっていく。
「…どうやら向こうからだね。行ってみようか。」
「は?!いや、たしかに泣いてんのは気になりますけど…」
「彰人…怖いのか?」
「べ、別に怖くねぇから!!」
騒がしい会話の裏で、どんどん泣き声は大きくなっていく。
類が泣き声のする方へ歩き始めた。
「類!!待ってくれ!」
慌てて俺も追いかける。
「は?!ちょ、待って下さいよ!」
彰人と冬弥も俺たちを追いかけてきた。
「あれは…」
そう呟いた類の視線の先には、泣いている赤子と、その赤子を抱いている女性がいた。
しかし、女性の姿はとても不気味なもので、全身血のようなもので濡れていた。
すると、女性はこちらに気が付いたようで、近付いてきた。
『お願い…この子を抱いてあげて下さいまし…』
そう言って女性は赤子を俺たちに差し出した。
俺たちがどうすればいいか分からず、動けずにいると類が動いた。
「はい、分かりました。」
そう言って類は女性から赤子を受け取り、抱いてあやし始めた。
「え、ちょ、センパイ?!」
彰人や冬弥も驚いている。
もちろん、俺だって驚いた。しかし、赤子を抱く類が思ったよりも様になっていて、不思議な気持ちになった。
しばらく経って、赤子はすっかり泣きやみ、キャッキャと楽しそうな声をあげだした。
その声を聞いた女性は類から赤子を受け取り、『ありがとう…』と言って、どこかへ消えてしまった。
何が何だか分からない状況に、俺たちが何も言えないでいると、類が話し出した。
「さっきのは恐らく、産女という妖怪だね。道行く人に赤ん坊を抱いてくれと頼んで、満足するまで抱いてあげたら消えていく妖怪だよ。」
おお、なるほど…ん??
あまりにスラスラと流れてきたものだから、聴き逃しそうになったが…今、妖怪って言ったか???
「え、いや、あの…今、妖怪って言いました??」
彰人が何が何だか分からない様子で類に聞いた。
「ああ、言ったよ。君たちも分かるだろう?あれは恐らく、生きている人間ではないと。」
たしかに、あの女性は人間ではないような気がした。それにしても、妖怪など非科学的な…
「産女…少し聞いた事あります。姑獲鳥とも言いますよね。」
冬弥が何かを思い出しながら言った。
「そうそう。ただ、姑獲鳥は中国から来た妖怪で、赤ん坊を攫っていってしまう妖怪なんだ。読みは同じ「うぶめ」だけど、少し違うんだ。」
「そうなんですね。確かに、本にもそんな事が書いてあった気がします。」
類と冬弥はスラスラと会話している。
一方で、俺と彰人は訳が分からず、ただポカンとしていた。
「な、なぁ2人とも……その、妖怪ってのは、冗談か何かか?」
「冗談なんて言うわけないだろう?」
類にそう言われると、それ以上何も言えない。
「けど、妖怪なんて本当にいるんすか?ただの昔の人が作った話なんじゃ…」
「そうだね。昔は科学なんて無かったから、不思議なことはみんな妖怪のせいにしていたんだよ。もちろん作り話かもしれない。けれど、信じる人や信仰する人がいると、更にその人数が増えると、作り話も本物になってしまうと思わないかい?」
たしかに、そんな話を聞いたことがある。
「例えば…ほら、鎌鼬(かまいたち)って妖怪いるだろう?1匹が人を転ばせて、もう1匹が足を鎌で切り付け、最後の1匹は薬を塗るっていう。」
「あぁ、たしか咲希と一緒に読んだ本に書いてあったような…」
咲希が見た目が可愛いと言っていた気がする。
俺は古い記憶を必死に手繰り寄せていた。
「あれも、今は乾燥した肌が何らかのきっかけで裂けているだけって言う結論になっているんだよ。まぁ、そう考えるのが自然だからね。」
「へぇ、そうなのか。面白いものだな。」
昔の人は何でも妖怪のせいにしていたのか。
けれど、何故ここに妖怪がいるのか理解が出来ない。
ゴォォォォ
突然、上の方から音がした。
上を見てみると、巨大な顔がついた牛車が火を噴きながら宙を走っていた。
※牛車…牛に引かせる車
「な、ななな、なん…??!?!」
俺は驚きと、その異形な姿への恐怖のあまり声が出なかった。
「あぁ、朧車(おぼろぐるま)だね。平安時代の車争いが妖怪になったものだと言われているんだ。」
「車争いとは確か…祭りを見るためなどによく見える場所に牛車を止めようと争うことでしたよね。」
冬弥が類の説明を補足した。
「へぇ、現代で言うと花見の場所をレジャーシートで取るみたいな感じか。」
彰人も何故か納得している。
「いやいや…お前ら、何故そんな平然としていられる??怖くないのか?」
「もちろん怖さもあるけれど…あれは人間に何も害は無いからね。」
「いや、害があるないでは無くてだな…そもそも、妖怪なんているのか?」
「いたじゃないか。明らかに、さっき見たろう?」
「いや、そうだが!なんと言うか…現実味がないんだよな…」
「もう…司くん。この前、君は動く彫刻を見たんだろう?あの美術館で。なら、妖怪がいてもおかしくないんじゃない?」
「む…なるほど、それもそうだな。」
類の説明を、何故か俺はすんなりと受けられた。
「しかし…害が無いのはいいが、害のある危険な妖怪もいるだろう?」
「あぁ、そうだね。けれど、大抵は対処法があったりするから問題ないと思うよ。まぁ、海難法師のように見たら死ぬような妖怪は無理だけれど。」
「類…お前、妖怪の分野にも詳しいのか…」
類が博識なのは知っていたが、まさかこんな分野までとは知らなかった。
「ああ、まぁね。冬弥くんも中々詳しいよね。本で読んだりしていたのかい?」
「はい。色んなジャンルの本が読みたくて、妖怪の本や怪談なども読んでました。」
「へぇ、意外だな。こういうオカルトには興味無さそうだけど。」
「信じる信じないとかでは無く、話が単純に面白くて好きだったからな。しかし…さっきの朧車や産女を見てしまうと、信じざるを得ないが。」
類や冬弥は妖怪に詳しいらしい。
俺と彰人はそういうものにあまり興味が無くて、ほとんど無知だが…
「とりあえず…別の部屋に行きたいね。扉を探そうか。」
類が歩き始め、俺たちもそれに続いた。
しばらく進むと、地面に手ぶくろが落ちていた。
「む…類、手袋が落ちているぞ。これも妖怪か?」
「いや、それはただの手袋だね。だけど…ふむ、持っていた方がいいかもしれないね。」
「え、何でですか?」
「使う時が来るかもしれないからだよ。一応、司くん。持っていてくれるかい?」
類に手袋を差し出され、それを受け取った。
「あぁ、分かった。」
しばらく進むと、また扉を見つけた。
「よし…入るか。」
俺は扉に手を掛け、扉を開いた。
目の前には特に何も無い空間が広がっており、俺たちは前へ進んだ。
……が、進めない。
「なんだ?風が吹いてるわけでもないのに、前に進めんぞ。」
「いや、それどんだけ強風なんだよ。」
彰人が呆れたようにツッコんだ。
「けど、本当に進めませんね。まるで壁があるみたいな……」
「壁…そうか、なるほど。」
そう言って類はキョロキョロと辺りを見回し始めた。何かを探しているようだ。
「類?何を探しているんだ?」
「あぁ、何か手頃な棒を探しているんだよ。」
「手頃な棒?そんなもの何に……ふむ、まぁ、俺も探すか。」
類の行動は読めないが、何か意味があるのは確かだ。
「この棒とかどうだ?」
俺は丈夫そうな長めの棒を見つけ、類に渡した。
「あぁ、それいいね。ありがとう。」
そう言って類はさっき進めなかった見えない壁のような所に行き、しゃがんだ。
「…類?何を……」
すると、類は下の方で何かを棒で払うような動きをした。
「る、類?一体何を……」
すると、彰人が声をあげた。
「うわっ、通れるようになってる!」
俺も確認してみると、さっきまで進めなかったはずの場所が進めるようになっていた。
「…なるほど、塗壁(ぬりかべ)ですか。」
冬弥がようやく分かったように声をあげた。
「あぁ、恐らく塗壁だったんだろうね。」
類はやはり気付いていたようだ。
「しかし、類。さっきの棒は何してたんだ?」
「あぁ、塗壁を追い払ってたんだよ。塗壁は、壁のある所の下の方を棒で払うと消えるのさ。」
よくもまぁ、そんな知識を……
「さぁ、出口はないか探してみよう。」
「ああ!」
俺がこの部屋をもっと良く調べようとして、歩き出した瞬間…
スリスリ…
何かふわふわしたものが、足にすりついてきた感覚がした。
「どわっ?!?!なんだ?!?!」
下を見ると、犬のようにも猫のようにも見える生き物がいた。
「なッ!!?こ、これは……何という愛らしい見た目…!!!」
目が大きく、ふわふわとしていて可愛らしいその生き物は、しきりに俺の足にすりついてくる。
「おや、これはすねこすりだね。人のすねにすりついて驚かせるだけの、害のない可愛い妖怪だよ。」
類も微笑ましそうに眺めていた。
「センパーイ。さっきなんか叫んでましたけど…」
彰人はそこで言葉を止め、俺の足元を見た。
「ひっ、い、犬……?!?!?!」
すぐに彰人は冬弥の後ろに隠れてしまった。
「犬のように見えるけれど、これはすねこすりっていう妖怪だよ。害は無いから大丈夫だよ。」
類が彰人に説明するが、妖怪でも犬のような見た目をしているものは無理らしい。
俺はすねこすりを抱き上げた。
とてもふわふわしていて可愛らしい。
すねこすりは俺の腕にもすりついている。
「ふふ、どうやら司くんに懐いたみたいだね。」
「うむ……中々に可愛らしいな。こんな妖怪もいるのか。」
「せ、センパイ!!?それ持ってこっち来ないでもらっていいですか…?!」
彰人は非常に焦っているようだ。
「はっはっは。心配いらんぞ、彰人!ちゃんと抱いているから安心しろ!」
そう言った瞬間、すねこすりが俺の腕から飛び降りて、彰人の方へ走っていった。
「うわぁッ?!?!ちょ、!センパイの嘘つき!!!」
彰人は走りながら俺に叫んだ。
「すまん!!!すぐに捕まえるから!!」
俺はすねこすりを追いかけながら彰人に言った。
「…全く、何をやっているんだろうねぇ。」
呆れたようなため息をつきながら呟いた。
「ふふ、楽しそうですね。」
「そうだね。…待って、東雲くんの足速すぎじゃない?」
「あぁ…犬に追いかけられてる時は、いつもより足が速くなるんです。」
「ただでさえ速いのに…すごいねぇ。」
「や、やっと捕まえたぞ!!!」
俺はすねこすりを持ち上げ、抱き抱えた。
「はぁ、はぁ、はぁ…ふざけんな…」
彰人は青ざめ、息を切らしている。
「いや、それは、その…本当にすまなかった…!!!」
「あっ!!?」
すねこすりがまた彰人の方に飛んでいこうとし、それを阻止しようとしたが、バランスを崩して彰人の方に倒れてしまった。
壁がカラクリ扉のようにクルッと回った。
「司くん?!東雲くん?!」
類の声が聞こえる。
「痛たた…すまん!!彰人、大丈夫か?!」
「痛ってぇ…」
どうやら頭を打ったりはしていないようだ。
「む、それにしても…何が起こったんだ??」
類と冬弥の姿はなく、あるのは壁だった。
壁の向こうから、類の声が聞こえる。
「司くん!聞こえるかい?!」
「ああ、聞こえるぞ!一体、何が…」
「分からない、あまりにも突然だったから…多分、司くんがバランスを崩して倒れた時に、壁が回転して、隣の部屋に行ってしまったみたいだ。」
「何ッ?!?!」
俺は必死に壁を押してみるが、ビクともしなかった。
「ぐっ…!!全く動かんぞ!!?」
「ちょっと待ってね、こっちもやってみるよ。」
類もどうやら壁を押しているようだ。
「……駄目だ。ビクともしない。」
類は何かを考えているようだった。
「……司くん、仕方ない。ここからは別行動だ。」
「何ッ?!いや、まぁそれしか無いが…!!」
俺には漠然とした不安があった。
「俺や彰人は全く妖怪に詳しくない!それがとてつもなく不安なんだが!?」
俺たちは類のようにどんな妖怪かも、対処法とかも知らない。
それがとても不安だった。
「それは…僕も不安だ。」
類の声はか細かった。
「そうだ…スマホは使えるかい?メッセージでその妖怪の情報をくれたら、どんな妖怪かとか伝えることができるかもしれない!」
「スマホ…」
俺は画面を開いてみる。こんな所に電波なんかあるのだろうか…
そう思ったが、奇跡的にも電波はあるようだ。
「類!電波がある、使えるぞ!!」
「そうか!なら、それで何とかしよう!後で必ず合流するから、君たちも、どうか無事でいて。」
「ああ!!分かった!」
類はどこかへ行ったようだ。俺も、ここから出る方法を探そう。
「彰人、立てるか?」
俺は座り込んでいる彰人に手を差し出した。
「いや…あ、あの…こ、腰が抜けて…」
彰人は涙目だった。
近くにすねこすりが座っている。
恐らく、原因はこれだろう。
「仕方ないな…ほら、彰人。」
俺はしゃがんで、背を彰人の方に向けた。
「は…?いや、何すか…?」
「見たら分かるだろう。おぶってやる。から乗れ。」
「は?!?!」
彰人は相当動揺しているようだ。
俺としても、先に進みたいからおぶるしかない。
「早くしてくれ、足が痺れてしまう。」
「いや、けど流石に……」
まだ彰人は渋っている。
「いいから、ほら。」
「……」
数秒の沈黙の末に、彰人は大人しく俺におぶさった。
「……すみません、」
と一言、小さな声で言ってきた。
「いいんだ。それに、俺にも原因があるからな。」
俺が前へ進むと、すねこすりも後ろから着いてきた。
懐かれてしまったのだろうか…俺としては可愛らしいので構わないが、彰人がこうでは困ってしまう。
とにかく、すねこすりは気にしないようにして先に進んだ。
《……枚、二枚…三枚…》
奥の方から、か細い女性の声が聞こえてきた。
その声は今にも泣き出してしまいそうで、震えていた。
何かを数えているようだ。
「あれも妖怪なのか…?」
前へ進んでいくと、声が段々近くなって来た。
「とりあえず、類に連絡するか…」
俺は彰人に類にメッセージを送ってもらうように頼み、返信を待った。
《七枚……八枚……九枚…………》
そこまで数えて、声は止まった。
俺は十まで数えないのか?と思い、思わず
「十!」
と言ってしまった。
すると、一瞬で空気が軽くなった。
そして、さっきの声が聞こえた方からは、
《あぁ、嬉しい……》
と聞こえ、それ以降は何も聞こえなくなった。
「む……何だったんだ?」
「あ、センパイ。メッセージ届いてますよ。」
彰人が俺にメッセージを見せてきた。
「む、なになに……えっと、『それは恐らくお菊という妖怪だね。昔、お菊という女性が雇い主の家宝の皿十枚の内一枚を割ってしまったんだ。雇い主は大変怒り、お菊の中指を切り落とし、体を縛られて部屋に閉じ込められてしまった。お菊はなんとか外へ逃げ出し、井戸へ身を投げたそうだよ。』」
「『対処法:お菊が九枚と数えた後にすかさず十!と数えてあげると、お菊は喜んで消えるそうだよ。』ふむ、なるほどな。」
「うわ……皿一枚割っただけで、中指切り落とされて縛られて閉じ込められるとか…怖…」
彰人がメッセージを覗き込みながら言った。
「可哀想な妖怪だな……というか、俺が「十」と言ったのは正解だったみたいだな。」
俺は彰人をおぶったまま、更に先へ進んだ。
「…お菊は特に何もしてこないから、大丈夫そうだね。」
僕はメッセージを読み、少し安堵した。
「それにしても、不安ですね…けど、2人が無事みたいで良かったです。」
青柳くんも少しホッとしているようだ。
「そうだね。僕らも、できるだけ2人とも合流出来るように頑張ろう。」
「はい。」
先へ進んでいくと、微かに「痛いよぉ…」と泣く声がした。
「おや…今、何か聞こえなかったかい?」
「たしかに…聞こえました。」
耳の良い青柳くんが言うんだから、きっと聞き間違いではないだろう。
僕は声の主を探すことにした。
しばらく歩いて探していると、1つの頭蓋骨が落ちていた。
よく見ると、目の部分にススキが生えている。
もしかして、これが痛がってるのかな?
可哀想に思って、ススキを抜くことにした。
「ちょっと待ってね、今抜いてあげるから。」
僕はススキを引き抜こうと試みた。
ススキはしっかり根付いていて、抜くのには苦労したけどなんとか抜くことが出来た。
きっと、声の主はこれだろう。
僕が青柳くんの所へ戻ろうとすると、後ろに何か大きな気配を感じた。
後ろを振り返ると、巨大な骸骨がこちらを見ていた。
「君は…もしかして、餓者髑髏(がしゃどくろ)?」
僕の問いかけに、骸骨は頷いた。
そして、何かを伝えようとしている。
どうやら、ススキを抜いたお礼がしたいようだ。
「気持ちは嬉しいけれど…僕、大切な人を探さないといけなくて、急いでるんだ。」
すると餓者髑髏は考えるような仕草をし、僕にジェスチャーで何か伝えようとしてきた。
「何何…?えっと…もしかして、危ない時に助けてくれるって事?」
なんとかジェスチャーを解読し、餓者髑髏は頷く。
助けてくれるのはとてもありがたい。
妖怪にも、対処しきれないものはあるから、ここは厚意に甘えた方がいいだろう。
「それは助かるよ。ぜひお願いしたいな。」
すると、餓者髑髏は喜ぶ動きをして、そのまま消えてしまった。
妖怪は義理堅くて、約束は守る存在だ。
きっと、あの餓者髑髏も僕らが危ない時に助けてくれるだろう。
「青柳くん、すまないね。先へ進もうか。」
僕が青柳くんと合流し、歩き始めてしばらくすると後ろから足音が聞こえてきた。
どうやら、青柳くんも気がついているようだ。
「神代先輩……後ろ、何もいませんよね?」
たしかに、僕らの後ろには振り返っても誰もいない。
「そうだね。まぁ、この妖怪は害はないけれど…青柳くん、ちょっとこっちに寄ってくれる?」
僕は青柳くんを通路の端に誘導し、僕も端に移動した。
そして、
「べとべとさん、先にお越し。」
と言った。
何かが通り過ぎる気配がして、それ以降はもう足音が聞こえることはなかった。
「神代先輩…今の…べとべとさんって?」
どうやら青柳くんは知らないようだ。
「夜道を歩いていると、後ろからついてくる足音だけがする、音だけの妖怪だよ。ついてくるだけだから特に害は無いのだけれど、『べとべとさん先にお越し。』というと、先に行ってくれるんだ。」
ここは無害な妖怪ばっかりで安心する。
けれど、どこに危険な妖怪がいるか分からない。
餓者髑髏だって、本来ならば人を襲う妖怪だ。
「とりあえず…このまま無事に合流出来ることを祈ろう。」
「あの、センパイ。そろそろ大丈夫です。」
そう言って彰人が俺の背中から降りた。
「む、もう大丈夫なのか?」
「はい。その…ありがとうございました。」
珍しく素直に礼を言ってきた。
「いや、構わんぞ!また疲れたら、いつでもおぶってやるからな!」
「い、いや!もういいです!!」
すると突然、潮のような、磯のような香りがした。
「む…?なんだか、海のような匂いがするな。」
「うわ…本当ですね。」
と、這うような音が聞こえてきた。
「む?何の音だ?」
奥の方をよく見ると、何かがこちらに向かってきている。
「な、なんか近づいて来てません…?」
「と、とにかく類に連絡…!!」
すると、目の前に巨大な蛇の体をした女が現れた。その髪は濡れている。
『ねぇ…この子を抱いてくれない…?』
そう言って、女はこちらに赤子を差し出した。
もしや、産女に似た妖怪なのか?
となると、これは抱いてやった方が良いのだろうか?
しかし、赤子はとても濡れていた。
潔癖という訳では無いが、濡れている赤子を素手で抱くのは抵抗があった為、ポケットに何かないかと探ると、類に渡された手袋があった。
類は使う時が来るかもと言っていたが…とりあえず、手袋をはめて赤子を抱く事にした。
抱く前に類に連絡したかったが、女は早くしろと言わんばかりに睨みつけてくる。
「彰人、類に連絡しててくれ。」
「え、は、はい…!」
俺は手袋をはめ、女から赤子を受け取った。
赤子を抱いていると、段々とその赤子が重くなってきた。
「ぐッ……!!!?」
降ろそうとするが、強くくっついていて離すことが出来ない。
そうこうしてる内に、女は這いながらこちらへ近づいてきている。
本能で感じた、この女は俺を食べる気だと。
俺は仕方なく、手袋ごと赤子を降ろし、彰人の所へ走った。
「彰人!!このまま走って逃げるぞ!!!」
女は後ろから這いながら追いかけてきたが、降ろした赤子が気になるようで、赤子に気を取られている隙に逃げ切る事ができた。
「はぁ、はぁ、はぁ……なんか、とりあえず逃げてきてしまったが…」
俺は息を整えながら、彰人の方を見た。
「あ…神代センパイから、メッセージ来てました。」
彰人にスマホをもらい、メッセージを読む。
「なになに…『それはもしや、濡れ女かい?!その妖怪は危険だ。絶対に近寄らない方がいい。もし、気づかれてしまったら濡れ女は〔赤子を抱いてくれ〕と頼んでくるはずだ。断れば、その場で食べられてしまう。けれど、その赤子を抱いても、赤子は段々と重くなり、降ろそうとしてもくっついて取れなくなってしまって、その間に濡れ女に食べられる。』」
「『対処法は手袋をはめて赤子を抱き、重くなったら手袋ごと捨てて全力で走ると逃げられるよ。気をつけて。』か。ふむ…絶対に先に見た方が良かったな。」
奇跡的に俺は手袋をはめて赤子を抱いたから良かったが…もし、判断を間違えていたら、今ごろ喰われていただろう。
「これからは…不用意に近づかん方がいいな。」
「そうですね…てか、センパイ、1人で何とかしようとしないで下さいよ。」
彰人は少し怒り気味に言った。
「む、何故だ?彰人まで危険な目に遭わんでいいだろう。」
「アンタのそういう所が…駄目なんですよ。もし、センパイが俺の前で死んだりなんてしたら、寝覚めが悪くなるじゃないですか。」
彰人は怒っているのではなく、心配してくれているのだろう。
「ふむ…それもそうだな。すまん、配慮が足りていなかった。」
足に、何かふわふわしたものがすりつく感覚がした。
「む、お前は…すねこすり!まだ居たのか。」
すねこすりはしきりに俺の足にすりついている。
「ひっ…」
彰人はやはり苦手なようで、青ざめた。
「彰人、こいつは噛まんぞ。ほら。」
「う……や、やっぱ無理です…」
すねこすりは少しシュンと悲しそうにした。
「うっ……」
彰人も少し罪悪感を感じたのか、恐る恐るすねこすりに手を伸ばした。
すねこすりは彰人の手に嬉しそうにすりついた。
「はは、可愛らしいな。」
「…たしかに、可愛いっすね。」
彰人もすねこすりが噛まないと安心したのか、すねこすりを撫で始めた。
すねこすりは嬉しそうにしている。
「癒されるな…これがアニマルセラピーというやつか。」
「妖怪ですけどね…」
妖怪には、本当に色々な種類がいると思った。
このすねこすりのように愛らしい妖怪もいれば、さっきの濡れ女のように人を食う妖怪もいる。
すると突然、すねこすりがどこかをじっと見つめ、歩き出した。
「すねこすり?」
俺が呼ぶと、すねこすりはこっちを向いて、また歩き出した。
まるで着いてきて、と言っているようだ。
俺と彰人は顔を見合わせ、すねこすりに着いて行ってみる事にした。
しばらく歩いた後、すねこすりが突然走り出した。
「すねこすり?!」
俺と彰人も走って追いかけた。
曲がり角で、何かにぶつかった。
「い、痛たたた…」
聞き慣れた声がし、顔をあげると…
「おや、司くんに東雲くんじゃないか!」
「類っ!!!」
俺は思わず、類を抱きしめてしまった。
「ふふ、苦しいよ。けど、無事で良かった。」
「彰人!!無事だったか!」
「おう、何とか。」
冬弥と彰人も再会し、全員合流する事が出来た。
「ありがとう、すねこすり。」
俺はすねこすりに礼を言った。
すねこすりは嬉しそうに俺の足にすりつき、そのまま消えてしまった。
「あっ…消えてしまった…」
「彼らは気まぐれだからね。きっとまた、姿を現すよ。」
そう言った類の背後に一瞬、骸骨のようなものが見えた気がした。
…が、恐らく気のせいだろう。
「さぁ、全員揃ったし、出口を探そう。」
と音がして、巨大な骸骨が現れた。
「ど、どわぁぁぁぁあ?!?!?!」
俺は驚いて悲鳴をあげた。
「おや、餓者髑髏…どうしたんだい?」
類は平然と骸骨に話しかけている。
餓者髑髏と呼ばれたその骸骨は、類に向かって必死に何かを伝えようとしている。
「…え、もしかして、出口まで案内してくれるのかい?」
餓者髑髏はコクコクと頷いた。
「それは助かるな。じゃあ、お願いしてもいいかい?」
餓者髑髏は嬉しそうに頷き、歩き始めた。
「な、なぁ類。いつの間にあの骸骨と仲良く…?」
「ああ、さっき色々あってね。助けた…まではいかないけど、お礼がしたいって言われたんだよ。」
「そ、それはすごいな…」
「司くんだって、すねこすりと仲良さそうだったじゃないか。」
「あれは人懐っこかったからな。ふむ…卒業したら、犬を飼ってみるのも悪くないかもしれんな。」
「へぇ、いいね。もしも飼ったら、僕も君の家にお邪魔して会いに行っていいかい?」
「え?一緒に住むんじゃないのか?」
「へ?」
お互い何を言ってるか分からないといった風に顔を見合わせた。
「あのー、そういうのは他所でやってもらえません?」
彰人が呆れたように言った。
「む、彰人。お前……随分仲がいいんだな。」
冬弥と彰人は手を繋いでいた。
「いや、これは冬弥がどうしてもっていうから…!!」
「もうはぐれたくないので、手を繋いでます。」
冬弥は彰人の手をしっかり握り締めながら言った。
「へぇ…ふふ、いいね。僕らも繋ぐ?」
類がこちらに手を差し出す。
「なッ、い、いいのか?!」
俺は戸惑いながらも類の手を取り、しっかりと握った。
「……これ、結構恥ずかしいね。」
類は頬を赤く染めながら恥ずかしそうに言った。
あまりにもその仕草が可愛くて、俺もつられて頬を赤くした。
「そ、そうだな!!?」
と餓者髑髏が音を鳴らした。
目の前には扉がある。どうやら、出口についたらしい。
「おや、扉だ。ふふ、ありがとうね。」
類は餓者髑髏に向かって微笑み、餓者髑髏は満足そうに消えていった。
「よし…じゃあ、帰るか。」
と音を立て、辺りは眩い光に包まれた。
目が覚めると、森で倒れていた。
「類…類、いるか?」
俺は辺りを見渡して、類を探した。
「司くん、ここにいるよ。」
後ろから声がし、振り返ると類と彰人と冬弥がいた。
「…あの、屋敷は、、、」
屋敷があったはずの場所には何もなく、ただ雑草が生い茂っていた。
「…夢?な、訳ないよな。」
「あぁ、夢じゃないよ。きっと。」
いつしか雨は止み、雲の隙間から太陽が顔を出している。
その後は無事に山から降り、家に帰ることが出来た。
ふと、足にふわふわしたものがすりつく感覚がした気がした。
が、足元を見ても何もいない。
「……」
きっと、見えないだけでまだ俺たちの身近にいるんだろう。
きっと……
・━━━ ℯ𝓃𝒹 ━━━・
登場妖怪
・産女(うぶめ)
・朧車(おぼろぐるま)
・塗壁(ぬりかべ)
・すねこすり
・お菊(おきく)
・餓者髑髏(がしゃどくろ)
・べとべとさん
・濡れ女(ぬれおんな)
名前だけの登場
・鎌鼬(かまいたち)
・海難法師(かいなんほうし)
登場はしていないけど、個人的に好きな妖怪一覧(登場させたかったけど時間ないし大変だしで登場させられなかった子達)
・土蜘蛛(つちぐも)
・女郎蜘蛛(じょろうぐも)
・牛鬼(うしおに)
・大嶽丸(おおたけまる)
・犬神(いぬがみ)
・茨木童子(いばらきどうじ)
・酒呑童子(しゅてんどうじ)
・玉藻の前(たまものまえ)
・ねねこ河童(ねねこがっぱ)
・刑部姫、もしくは長壁姫(おさかべひめ)
・岩魚坊主(いわなぼうず)
・うわん
・送り犬、もしくは送り狼
・蟹坊主(かにぼうず)
・キジムナー
・コロポックル
・ケセランパサラン
・件(くだん)
・鞍馬天狗(くらまてんぐ)
・座敷わらし(ざしきわらし)
・七人ミサキ(しちにんみさき)
・二口女(ふたくちおんな)
・雪女(ゆきおんな)
・ぬっぺぷほふ
・夜刀神(やとのかみ)
・八岐大蛇(やまたのおろち)
・ミントゥチ
・夜行さん(やぎょうさん)
・輪入道(わにゅうどう)
まだまだいっぱいいるけどこのくらいにしとくね。(疲れたから)
___あとがき___
お疲れ様でした!!現在13000文字を超えております…💧
なんかヤバいですね(?)
多分、誰も知らないとは思うんですけど、私ってすごい妖怪好きなんですよ。
幼稚園の時に買ってもらった妖怪の本格的な図鑑を熟読して、ほぼ丸暗記してるので暗唱できるくらいですw(生息地や説明や過去などなど)
最近は鳥山石燕の画図百鬼夜行全画集が欲しいなーって思ってて、買うか迷ってます。(多分誰も分からん)
マジでそんなに好きなの?ってくらいの妖怪好きなんですよ((
これだけは誰にも負けない自信あります()
今回は妖怪の話ずっと書きたいなーって思ってたので、大好きな妖怪を題材にお話書かせてもらいました!
もう大好きな妖怪×プロセカ(推し)の小説なんて私にしか需要ないですよね???(((
妖怪って、周りに知ってる人がいないから、語りたくても語れないのが悲しい…。
みんなに妖怪の事をもっと知って欲しくて、今回の小説書いたって言うのもあります!
もし良かったら、気になった名前の妖怪とか調べてみて!面白いしみんな魅力的だから!
本当は全妖怪の説明とか書きたいんだけど、多分みんなが読む気無くなっちゃうから辞めとくね……
すねこすりみたいな可愛くて無害な妖怪もいれば、濡れ女や登場してないけど夜行さん、海難法師みたいに襲ってきたり見ただけで死んでしまうと言われてる妖怪もいるのが良いよね…👍
本当に変な奴だと思われるかもしれないけど、あかまるといえば妖怪っていうくらい好きだから!(?)
妖怪と日本の神話が好きで、そこら辺ならめちゃくちゃ詳しいし負けない自信しかないです(さっきから誰と張り合ってるんだ)
前垢連載の「狐神のお嫁さん」やこの垢連載の「太陽のない世界で君を探す」は妖怪と神話モチーフにしてるよ!
けど本当はもっとガッツリ妖怪出したいな…
これがきっかけでみんなが妖怪に興味持ってくれたら嬉しいし、語れる友達が出来たらいいな〜って思ってます((
まぁ、とにかく言いたいのは私が妖怪大好きだってことです!!
これは本当に幼稚園の時からだから、古参だわ(?)
というか、気付けばもうすぐ15000文字なんだが。
ここまで皆さんお疲れ様でした!
読んだあとはゆっくり目を休めて休憩してね!
じゃあばいまる!