「今日はちょい出かけるわ」
黒いタートルネックの上にロングコートを羽織るurは、腕時計をしめながら、スマホをいじるyaにそう言った。
「そうなん?待って、準備する」
「いいって。俺ももうこの目に慣れたし、ひとりで行けるよ」
「夜には戻るしゆっくりしときな」
「…どこ行くの?」
「どこでもいいだろ。世話焼きも度を越すと引かれるぞ〜」
「…」
背を向けたままのurにyaは黙ってしまった。
urへの気持ちを理解して数日。
理解したからこそ寂しさは身に染みるし、突き離されるとくるものがある。
urは驚いたように振り向いた。
「え?言い返してこねーの?」
口を結んだまま俯いているyaは、なんだかいつもより小さく見えた。
「…言いすぎた、ごめんな。」
そう言いながら顔を覗き込んできたurは優しく微笑んだ。
「今日はひとりが良いんだ。ちゃんと戻るから、心配しないで」
「な?」
「、、ん」
顔をあげたyaをあやすように頭を撫でると、urは手を振り出ていった。
…パタン
どこに行くの?
誰と行くの?
もしかして、、女
不安で耳の奥がつまるような感覚がした。
あの時のttの言葉の意味が今はわかる。
これはやきもちで、俺はurに恋しているから不安なんだ。
でもurからすれば俺はお子ちゃま。
そもそも男なんだ。
素直になれたのに、素直になれたからこそ、どうしても取り除けない障壁に絶望を感じていた。
ーjpとttの家ー
「お前らはさ、自分が男を好きなことに抵抗ないの?」
「へ?ないよ」
「俺もないな」
あっさりと答えた2人に拍子抜けする。
相談する人間違えたかな。
「そもそもtt女の子よりかわいいからなー」
「おいやめろや〜」ニヘ
しかも惚気だして…なんなのこの2人?
ニコニコしているttを、目を細くして見つめながらjpが言った。
「それにさ、よく聞くじゃん。好きになった人が人妻だった、とか」
「あれと同じだよ。好きになった人がttで、ttがたまたま男だった」
「人妻は好きになってあかんやつや、、、まあ止められへんもんな。それと一緒やないかな。jpも俺も男だけど、好きな気持ちは変えられへんし」
yaもなんとなくわかる。
不安だし悩むけど、結局はurが好きなのは変わらないし、変えられそうにない。
「不安にならなかった?相手は女が好きかもって。隠し通そうとか、忘れようってならなかった?」
「俺らの場合はまぁ色々、、あれやったからなぁ…」
しゅんとするjpの頭をttが撫でた。
おずおずとjpが話し出す。
「俺の場合…ttがどこかに行ってしまうかもってとにかく怖くて不安であぁなっちゃったんだけど、、」
「それはお互い男だからって不安もあったのかもしれない。素直に気持ちを伝えれば良かったんだけど、伝えて拒否られて結局離れていかれたら、、て我慢してたのが爆発したんだと思う」
「自分が好きになった相手は普通に異性が恋愛対象かもしれん。それはどうにもできひんもんな。遺伝子に刻まれてる事やから…。」
「相手にドン引きされるかもしれん…そう考えると気持ちに蓋を閉めたくはなるわな」
二人の話を聞いて、yaは行き詰まったように、諦めたように、ソファに体を沈めた。
窓の外に見える碧空を見つめ、ポツリと呟く。
「…そっか、、、関係を壊したくないなら、蓋するしかないんだよな…」
「yaくん、好きな人できたの、、?もしかして人妻、、?」
黙っとけ、とでもいうようにttはjpの口を塞いだ。
「でもな、yaくん。奇跡って信じるか?」
「世の中にはどうにもならない事も確かにある。それが叶えられたらそれを奇跡てゆうんやと思う」
「男同士やけど俺とjpは奇跡的に思い合えた」
「yaくん、俺から言えるのはここまでやけど」
「お前は奇跡を起こせる」
「奇跡…」
思わず顔をあげたyaにttは歯を見せて笑った。
そのときttの腕の中で、jpがバタバタと暴れ出した。
「、、ッ!tt!ひどいよー!」
「すまんすまん、あんまりアホなもんやから」
「どゆことー!?」
わぁわぁとじゃれつく2人を呆れ笑いで見つめたyaに、jpは微笑んだ。
「俺察し悪いからよくわかんなかったけど。ya くんには幸せになってほしいから、俺も奇跡を信じてるよ!」
「でもyaくんは俺のようにならないでね」
パチン⭐︎
「ならへんて笑」
「ふざけんなお前ほんとに反省してんのか笑」
外はすっかり日が落ち、yaはひとり家路を歩いた。
来る時は気づかなかったけど、ひとりで歩くのは久しぶりだな…
いつも右側にいたurを思うと胸が苦しかった。
遺伝子に刻まれたものは変えられない…
関係性を壊したくないなら蓋をするしかない…
でもこのままだとurはいつか、違う誰かと…
逃げ場のない暗い路地裏にたどり着いたような、そんな重苦しい思いを抱いたyaに、奇跡を起こせるような気はしなかった。
…
週末の電車はかなり混雑していた。
この時間に乗ることがほとんどないyaは、真っ青な顔で電車から吐き出された。
改札を出たところで、体が跳ねる。
人混みの向こうに、urの後ろ姿が途切れ途切れで見えた。
yaは歩幅を広げる。
(あいつ、こんな人混み歩いて大丈夫か?)
もう少しで追いつける、というところでyaの心臓は凍りついてしまった。
urの右隣には、女の子。
urを見上げるその横顔はあのコンビニ店員だった。
逃げ場のない暗い路地裏。
足元が崩れ、更に深いところに落ちていくような、そんな感覚がした。
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