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第二十四章 測られる時間
翔太💙「失礼します」
返事はない。
机に向かったままの蓮の背中。
ペンの走る音だけが、静かに響いている。
外科外来の一室。
蓮の部屋は、薄暗かった。
西日を遮るように閉じられたカーテンの隙間から、
わずかに橙色の光が差し込んでいる。
俺は一歩、足を踏み入れる。
その瞬間、
蓮🖤「無理だぞ」
視線は上がらない。
翔太💙「まだ何も言ってません」
短く答えながら、
無意識に壁の時計へ目をやる。
――あと十五分。
胸の奥が、少しだけざわついた。
廊下で呼び止めたとき、頭ごなしに再び〝ダメだ〟と言われた。どうして許可してもらいたくて……
だから、ここに来るしかなかった。
でも――
時間が、ない。
蓮 🖤「聞いても無駄なことに時間を使いたくない」
翔太💙「あの……でも聞いてください。お願いです」
言葉を選ぶ。
急ぎすぎないように。
でも、止まりすぎないように。
蓮は無言のまま、ただ目線だけが俺を見ていた。
翔太💙「佐久間さんの外泊、許可できませんか」
ペンが止まる。
ほんの一瞬。
蓮🖤「無理と言っている」
即答だった。
蓮🖤「理由は分かってるだろ」
視線が上がる。
逃げ場のない目。
翔太💙「……あの人」
一歩、言葉を探す。
翔太💙「猫が待ってるんです」
沈黙。
翔太💙「ツナとシャチっていうんですけど……」
少しだけ、声が柔らぐ。
翔太💙「すごく可愛くて。写真もらってて……」
そこまで言って、
ふと、時計が目に入る。
――あと、十分。
言葉が一瞬だけ詰まった。
蓮🖤「……それが理由か?」
低い声。
翔太💙「え……」
翔太💙「あっ見ます?めっちゃ可愛いんですよ?きっと目黒先生もメロメロになっちゃいます」
蓮🖤「お前なぁ……」
椅子が引かれる音。ゆっくりと立ち上がった蓮は呆れたように深く長いため息をついた。
蓮🖤「命の話をしてるんだ」
翔太💙「ごめんなさい」
またやっちゃった――
一歩、近づく。
蓮🖤「遊びじゃない」
空気が変わる。
翔太💙「そんなこと、分かってる」
小さく。
でも、逸らさない。
翔太💙「大事なものなんだと、思います。家族だから」
蓮🖤「……」
視線が落ちる。
一瞬だけ、翔太の胸元へ。そして――
蓮🖤「さっきから気になるんだが」
低く、静かに。
翔太💙「……え?」
蓮🖤「時計」
ドク、と心臓が跳ねた。
蓮🖤「時間、気にしすぎだ」
言い逃れできない声音。
翔太💙「……すいません」
蓮🖤「どこ行く気だ」
翔太💙「……っ」
言葉が詰まる。
蓮🖤「最近、夜いないこともあるな」
視線が外れない。
見透かされている。
翔太💙「……」
答えられない。
蓮🖤「中途半端な覚悟で口出すな」
一歩、距離が詰まる。
蓮🖤「責任、取れるのか」
空気が、重く沈む。
蓮🖤「――その間に倒れたら?」
翔太💙「……」
蓮🖤「誰が責任取る」
言葉が、落ちる。
逃げ場はない。
翔太は、視線を落とした。
胸ポケット。
雪うさぎが、小さく揺れている。
指先で、そっと触れる。
――少しだけ、息が整った。
大きく吸って、短く吐く。
握った拳に、力を込める。
顔を上げる。
翔太💙「僕が付き添います」
一瞬、空気が止まる。
翔太💙「何があっても、目を離しません」
喉が乾く。
でも、止まらない。
翔太💙「だから――」
ほんの少しだけ、
言葉を選ぶ。
翔太💙「行かせてあげてください」
沈黙。
秒針の音だけが、やけに大きく響く。
――試されているみたいに。
蓮は、何も言わない。
ただ、じっと見ている。
――測るみたいに。
やがて、小さく息を吐いた。
蓮🖤「……条件がある」
翔太💙「……!」
顔が上がる。
蓮🖤「外泊は一日」
蓮🖤「行動は全て報告」
蓮🖤「異変があれば、その場で中止」
淡々と、一つずつ、区切るように。
そして、少しだけ間。
蓮🖤「判断は俺がする」
視線が刺さる。
蓮🖤「お前じゃない」
翔太💙「……はい」
強く、頷く。
蓮🖤「――それでも行くか」
翔太💙「……行きます」
少しの沈黙。
視線が、外れない。
何かを測るように。
そのまま、ゆっくりと距離が縮まる。
分かってる。
これ以上、近づいたら――戻れない。
逃げる理由はあったはずなのに、
足は、動かなかった。
逃げなきゃいけないのに、
逃げる理由が、分からなかった。
ただ、ほんの一瞬だけ、目を細めた。
――それが、許可だった。
蓮 🖤「昨日はすまなかった。些か意地悪が過ぎた」
翔太💙「へっ?」
一瞬、何の謝罪なのかが分からなかった、蓮の視線が俺の足元
に落ちる。鋭い眼光でジリジリと近付いてきた。
腰を掴まれ蓮との距離が縮まる。
息が頬にかかるほどに、近い距離。
翔太💙「目黒先生?」
蓮🖤「……呼び方、違うだろ」
翔太💙「え……」
蓮🖤「あいつは名前で呼ぶくせに」
〝――リョウヘイって〟
顎を掴まれ、優しく指で唇をなぞった蓮は、その指を辿るように視線は唇に向けられていた。
そっと重なった唇は柔らかく触れた。
強くはない。
でも、逃げられない。
一瞬、何も分からなくなる。
次の瞬間、深く、引き寄せられる。
優しいのに、逃がさないキスだった。
翔太💙「めぐろ……せ」
蓮🖤「……分からないやつだな」
低く呟いた声のあと、もう一度、唇が重なる。
さっきよりも、深く。
逃がさないように、少しだけ、乱暴に。
カチ、カチ、と時計が鳴る。
一瞬、視線が逸れた。
その瞬間、強く引き戻される。
蓮🖤「……余所見すんな」
低い声。
少しだけ、苛立ったみたいに。
息もするのがやっとで、弱々しく押し返す手を掴んだ蓮。
壁に追いやられ、太腿を撫でた。
蓮 🖤「誰に履かせてもらった?」
翔太💙「ラウ子さんです……離れてください」
蓮 🖤「アイツにはあまり近づくな」
翔太💙「えっ?――っちょっ……ンンンッ」
スカートの中に侵入してきた手がお尻を撫でる。
蓮は軽く首を傾げるとニヤリと意地悪く笑った。
蓮 🖤「色気のある下着くらい付けとけよ?」
勢いをつけて蓮の足を踏み付ける。
蓮 🖤「痛った!……お前なぁ」
翔太💙「少しくらい反省しろよヤブ医者」
逃げるように蓮の部屋を出る。
〝エロ医者は許せてもヤブ医者は許さないぞ〟
背中に降り注いだ蓮の声は、楽しそうで、
――どこか、さっきよりも柔らかかった。
それが、
余計に、離れられなくなる。
西陽に照らされた窓に映った自分の顔は、少しだけ嬉しそうで頰は赤く色付いていた。
翔太💙「馬鹿じゃないの」
きっと夕陽のせいだろうと、小走りで走ると、ドキドキ高鳴る胸もそれのせいにした。
sona
コメント
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久々に甘い🖤💙ご馳走様😋 それにしても舘は痔なのに、さっくんは、、、格差あり過ぎて笑っちゃう🤭🤭