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科目女子のヒミツの時間
~シアワセな瞬間~
私たちは和船で降りた後、川原で自由に時間を過ごしている。
松倉くん達や、サマーキャンプに参加しているみんなの賑やかな声が、この川原に響いていた。
私はそんな中で1人、ある人物を探していた。
(兄さん……まどかちゃん達といないなんて……。)
私が兄さんと呼ぶのは、容姿が瓜二つのエイト。
まどかちゃんやカンジくん達に聞いたけど、一緒にはやってないって言われたんだよね。
そうなると……どこか遠くから1人でぼんやりとしてるって考えて良さそうね。
「そうなると……奥の木に座ってるのかな。」
あくまで憶測にすぎないけど……。
一応行ってみようかな……。
そう思って、木の方へむかおうとした時__
「ララちゃんせんぱーい!」
「せんぱーい!」
「ん?小鞠ちゃんに菜摘ちゃん?どうしたの?」
だれかとおもったら、松倉くんと武智くんの妹達だった。
2人はコマツナコンビと呼ばれている。
まぁ、お兄さん達がマツタケコンビってなってるから、2人の妹達らしいなとは思うけど。
「ララちゃん先輩は、誰が好きなのー?」
小鞠ちゃんは目を輝かせて私に聞く。
「え、私は……」
私が返事に困っている間も、2人は何故か褒めてくれる。
「ララちゃん先輩、綺麗だし可愛いからきっと誰かとすぐに付き合えるよね〜!」
「ね〜!」
「え、あ……ありがとう…?」
なんだか、褒められ慣れてない人みたいな反応になっちゃったな……。
決してそういうわけじゃないんけどね。
私は、学校等で黄色い声をあげられている兄さんと瓜二つで、容姿については褒められたりすることだってある。
でも、大体が男子に照れながら言われるため、こうやって年下の女の子に堂々と褒められることがそもそもないからね。
違和感というか、反応に困るというか……。
それに___どう答えていいのかわからない。
だって、私は……私が好きなのは__
「それで、誰が好きなの〜?」
「やっぱりケイ先輩たちの中の誰か?」
相変わらず目を輝かせてる2人。
私はそんな2人とは違って、頭を悩ませていた。
「うーん……」
(困ったな……さすがに、”あの子”のことが好き…なんて、言えないからな……)
仮に言ったところで、小鞠ちゃんと菜摘ちゃんにわかってもらえるかと言うと……正直無理があるような気がする。
わかって貰えたとしても、私が上手く話せるかというと……。
私がどう言おうかと、迷っていると___
「ララちゃん!」
「……!」
明るい笑顔でこちらに駆け寄ってきたのは、まどかちゃんだった。
あまりにもタイミングが良くて……まるで、救世主が来てくれたかのように私は感じた。
小鞠ちゃん達は、わぁ!と声をあげて、まどかちゃんの近くへ。
私は少し後ろに下がって、3人を微笑みながら見守っていた。
(……また君に助けて貰っちゃったな。私はどんなに恩を返そうとしても、返しきれないのかもしれない。)
……でも、そういうものなのかもしれないと、最近思うようになった。
まどかちゃんの場合は特にそうなんだろうな。
貴方は……誰よりも優しくて、人のために頑張ってしまうのだから。
心のどこかでキュッと締め付けられたような感じがして、私は胸にそっと手を当てる。
すると、まどかちゃんが「あっ!」思い出したように声をあげる。
「エイトくんが『笹舟レースをしよう』って誘ってくれてるんだった!ララちゃん、行こう!」
私が「わかったよ」と言おうとした、その時__
まどかちゃんが私の手をぎゅっと握った。
「……え?」
私は唖然としながらまどかちゃんのことを見ていると、彼女はニコッと笑いかけてくれる。
「コマちゃん、ナッちゃん、また後で!」
小鞠ちゃん達に手を振って、そのまま河原の方へまどかちゃんに手を引かれて走り出す。
私はまどかちゃんの後ろ姿を見ながら、どこか惚れていた。
(__幸せだな。心がとても暖かい……出来れば、この心地良さを感じていたい。)
でも、それは……この瞬間でしか感じられないんだろうな。
そう思うと、心がズキっと痛くなる。
私は……まどかちゃんのことが好き。
この思いはきっと、まだ誰にもバレていない。
それはケイ達にも……まどかちゃんも知らない。
だけど……この思いをつたえても、私の願いは叶うことはないんだから。
なんとなく俯いていると、「おーい!」と誰かに呼びかけた。
「エイトくん、みんなー!ララちゃんを連れてきたよー!」
「まるまる、ラッちゃん!」
「おっ、これで全員揃ったね〜!」
こちらを見て嬉しそうな表情でわたしたちを呼ぶヒカルくんと、やる気満々な表情でこっちを見るレキくん。
みんなのいるところに着くと、カンジくんが私たちに笹舟を渡してくれた。
まどかちゃんの言う通り、これから笹舟レースをするみたい。
ふふと笑みをこぼしていると、まどかちゃんが笑顔でカンジくんに近づこうと、歩き出して__
「カンジくん、ありがとう!」
その言葉と同時に、彼女の手がスルっと離れた。
(…離れちゃったか……。なんだか、寂しいな。)
私はそっと手を見つめる。
彼女に握られていた手はあたたかく、あの “幸せな瞬間” がここにこもっている。
そんな手をそっと握って、改めてまどかちゃんのことを見る。
私は貴方から、とてもあたたかい幸せを貰った。
なら、私は__
貴方の幸せを守りたい。
それが、今の私にできることだから。
『ララ、笹舟レースをやるよ。準備はいい?』
兄さんが私に微笑みながら聞く。
「……もちろんです。ふふ、負けないよ。」
さて、気持ちを切り替えて頑張ろう。
私の気持ちはすっかり勝負モードへと変わっていった。
〜fin〜