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#先生と生徒
「え~。僕、強引に連れ出されたから、てっきり秀太くんに告白でもされるんかと思ったのにぃ」
「アホか。なんでこのタイミングやねん。ずっと一緒におるんやから、言うならいつでも言えるやろ」
「……え、それって『いつかしてくれる』ってこと?」
返事を間違えた。「いつでも言える」なんて、まるでいつか言う予定があるみたいやん。けれど、今はそんなことを気にしている余裕はなかった。
無理やりドラムの前から引き剥がし、手を引いて部室の外へ連れ出してきた優人は、相変わらず飄々として俺をからかってくる。
「優人、元のこと取り返してきて! 一生のお願い!」
隣で不安げに揺れるはんちゃんに、そんな可愛らしい顔で「一生のお願い」なんて言われたら、優人やって断れないはず――そう思っていたのに。
「……条件がある」
「はぁ!? この際なんでも聞いたるからはよして!」
「じゃあ、ほっぺにちゅーして」
「…………は?気持ち悪っ! 」
はんちゃんの前やぞ!?
けれど、背後からはんちゃんに「ちゅーでもなんでもいいから!」と強引に背中を押された。勢い余って口に当たりそうになり、慌てて顔を逸らす。はんちゃん、マジで容赦ないな。
「……んっ!」
この際、早くやったもん勝ちや。ぎゅっと、優人の厚みのある頬に唇を押し付けた。
「秀太くん、色気ないな~。肉球押し付けられたみたいやった」
「うるさい、肉球は肉球で気持ちええやろ」
「あ……はんちゃんも、こっち」
「えっ……俺は流石に……」
「するフリでいいから! ほら、早く!」
はんちゃんは首を傾げながら、「……しゃーないか」と、触れるか触れないかのギリギリで『ちゅっ』と可愛い音を立てた。
その破壊力たるや凄まじく、俺と優人は同時に「……可愛すぎるやろ」と膝から崩れ落ちた。……待て、俺ら今、何をしに来たんやっけ。
「もうええから! 早く元のところ行こう!」
「そうや、上重!!」
「……いや。もう、助かったみたいやで」
ふふ、と笑った優人の目線の先を追う。
そこには、上重が立っていた。けれど、その表情は、眉間に深く皺を寄せ、凍てつくような視線で、じっとこちらを射抜いている。
「……元! 大丈夫やった? 変なことされてへん?」
「今から助けに行こうと思っててん。このハルクを連れてな」
「誰がハルクやねん」
優人がガハハと大口を開けて笑っているのに、上重はぴくりとも頬を動かさない。
「……秀太。部活、始まってるんちゃう? 今日でラストやから、行こう」
「う、うん……。じゃあ、上重は無事やったってことで。はんちゃんと優人も、楽しんでな!」
無理やり笑顔を作って手を振り、俺は上重に促されるままその場を後にした。
別れ際、はんちゃんが酷く寂しそうな、置いてけぼりにされた子供のような顔をしていたのが、胸の奥に小さく刺さった。
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