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#先生と生徒
「はんちゃん、めっちゃ心配してたで? 大丈夫やったん?」
「うん。告白されただけ。デートしたいんやって。秀太も一緒がいいってさ」
淡々としたものやった。普通の男子高校生なら、女子に囲まれて告白されたら飛び上がって喜ぶはずやのに。でもまぁ俺も好きじゃない人から告白されても、そんなもんやしな。
「……可愛かった?」
「まあ、まあまあかな。でも、これだけ男だらけの学校やったらモテるやろな、とは思ったよ。自信に満ち溢れてたからな」
ふふっ、と少しだけ口角を上げて、元がやっと俺を見た。あんなに不機嫌そうな顔は初めて見たから、正直、ずっと緊張はしてた。
「……ついて行こうか? デート」
「いや、いい。ハルクにボコされるから」
「なんで俺、優人次第やねん」
俺が笑い飛ばすと、「俺が行ったら、はんちゃんにもボコされるしな」と上重も笑い返した。はんちゃんのせいで逃げてるようにも見えるし、はんちゃんの為に逃げてる気もする。上重のほんまの気持ちはどこにあるんやろう。
♢♢♢
テニス部の今期ラストは練習試合。
俺は当然、対戦相手に上重を選んだ。散々あいつにプロレス技をかけられ続けたんや。得意なテニスでボコボコにして、日頃の鬱憤を晴らしてやる。
試合の噂を聞きつけた女子たちがコートの周りに集まり、黄色い声援が飛び交う。
その声に紛れて『新先生』が来てくれないか、と密かに期待していた。秘密の友達のカッコいいところを見て、少しは見直してくれへんやろうか。
「おら、くらえ! 日頃の恨みや!」
「カッコつけんな、秀太。パワーで俺が負けると思うなよ」
元のサーブは重い。まさに力技や。それなら、俺はテクニックで翻弄してやる。
「おっしゃあ!! 見たか、プロレスバカ!」
「……くっそ、次は絶対勝つからな!!」
試合終了の合図とともに、お互いの掌をパチンと合わせる。
熱い。けれど、楽しい。本当に、高校生活は楽しい。
「元!! カッコよかった!!」
「秀太くんも! 流石、肉球ついてるだけあるわ!」
コートの隅に座り込むと、取り囲む女子たちをかき分けて、はんちゃんと優人が飲み物を持って駆け寄ってきた。
知らない女子の声援より、この二人が見ていてくれたことの方が、純粋に嬉しかった。
俺はそっと、新校舎の屋上を見上げる。
地上からは高すぎて確認できないけれど、タバコの煙らしきものは見えない。
もし、新先生が今の試合を見てくれていたとしたら。
あの人は、なんて褒めてくれたやろう。
「え、上重……はんちゃんたち、待たんでええの?」
「まあ、あの二人仲ええし。大丈夫ちゃう?」
上重の様子が明らかにおかしい。
さっきもジュースを持ってきてくれた二人に対して、「ありがとう」とは言ったものの、一度も視線を合わそうとしなかった。
そのまま逃げるように俺を自主練に誘い、練習が終わるなり、まだ来ていない、二人を置いて自転車置き場へと歩き出した。
カシャン、と音を立てて元が自分の自転車を引き出す。
……なぁ、もしかして。
「……あれ。もしかして、見てた?」
「……は?」
振り向いた上重の顔を見て、確信した。
眉間に深く皺を寄せて、あの時と同じ顔をしてる。明らかに、何かを「目撃」してしまったあとの顔や。
「……はんちゃんが優人のほっぺに、ちゅーしたの」
「……はぁっ!?」
あまりの動揺に、上重の手が滑って自転車がガタンと倒れそうになる。
おもろ。絶対見たし、思い出して烈火のごとく怒ってる。
こっちもこっちで、はんちゃんのこと大好きなんやん。というか、あれ、したふりで実際は唇触れてなかったけどな。俺、間近で見てたし。
「あれの前さ、俺のほっぺにもしてくれたで? はんちゃん」
「はぁあ!? ……なんで、どんな流れでそんなことになんねん!」
夕闇が迫る中、元の耳の先まで赤くなっていくのがはっきりと見えた。
「やば。めっちゃキレてるやん」
「……はんちゃんは、そんなこと絶対せんと思ってた。好きでもない奴に、そんなこと……っ」
低い声が震えている。こんなに恋してるのに、こんなに無自覚な奴っておるか?勉強そこそこできるのに、恋愛になったら偏差値0になんのなんなん。
俺はわざとらしく、上重の顔を覗き込んだ。
「……じゃあ、上重もしてもらったら?」
「……いや。それはちゃうやん。俺ら、ただの幼馴染やし」
「ただの」という言葉に、自分に言い聞かせるような必死さが滲んでいる。
「俺らもただの友達やけど、やってもらえたで?」
「……え、そうやけど、え? ……やってもらえるの……?」
あかん。上重が完全にパニクって、酸素不足みたいに口パクパクさせてる。
はよ気づけよ。お前、はんちゃんに恋してるから! 完全に嫉妬してたからな!
「秀太くーーん! 待ってぇ!」
「元! 置いてかんといてよ!」
校舎から駆け寄ってくる、二つの影。
夕陽を背負ってニコニコと笑うはんちゃんと、その後ろを大きな体で追いかける優人。
その姿を認めた瞬間、上重の肩がびくっと跳ねた。
「……どうしたん?」
「上重もはんちゃんに、ちゅーして欲しいんやって」
「アホか秀太! そんなん一言も言うてへんやろ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ上重。そのあまりの慌てっぷりに、はんちゃんがポカンと口を開ける。
「うわぁ。え、もしかして両想いやったりする?」
背後からやってきた優人のニヤニヤ顔が、さらに追い打ちをかける。
「お前、ハルク!! 今は勝てへんけど、いつか絶対倒したるからな!!」
自分の恋心を否定する余裕もなく、全力で言い返す上重にクスクス笑いが止まらなくなる。
……否定しないってことは、認めたってことでええんやな。
「ほら優人、帰るで。俺ら邪魔やし」
「えぇー、次の電車までもうちょっと時間あるのにぃ」ぼやく優人に「早く!」と促して、俺は最後に一度だけ振り返った。はんちゃんは恥ずかしそうに俯きながらも、死ぬほど幸せそうな顔で笑ってた。
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