それから月日は流れ…この日は休みだったので、寮で活動の計画を練っていた。その時目に入ったカレンダー。
カスミ「そう言えば…今日は私の誕生日か..」
誕生日と言っても特に記念することはない。もちろん記念日を軽んじてる訳では無いが..自分を労う暇なんて無かった。時計が夕方の6時を回った頃。メールから音が鳴る。送り主は先生だった。
「カスミ、この後時間はあるかな?無ければまだ後日作れたら良いなとは思ってるんだけど…」
先生からのお誘いとは珍しい。…時間はなくとも行かない手は無いだろう。資料をまとめ、指定の場所へ向かった。
言われた通りの場所はムードに溢れる夜のレストラン街。こんな所に呼んで何の用なのだろうか。…心の何処かで私は何かに期待していた。薄暗く灯る街灯の下で先生は待っていた。こちらに気付くなり、
先生「こんな時間にごめんカスミ。」
カスミ「私は構わないぞ?それより今回はどんな用だ?」
先生は嬉しそうに
先生「今日は..カスミの誕生日、だよね?事前に言ってなかったんだけど..予約したお店があるんだ。…着いてきてくれるかな?」
まさかこの様な形での祝福を垣間見る事になるとは。だが当然この誘い、断る訳には行かないだろう?
カスミ「ハッハッハ、何もそこまでしなくて良いのだがな…だが、有難くその気持ち、頂戴するとしよう。」
用意してくれたのであろう煌びやかなレストラン。それは私にはあまりにも場違いで。
カスミ「それにしてもこれ程の店..私には少々不似合いでは無いか?」
先生「気にする必要なんてないさ。少なくとも私はそう思わないよ?」
すぐにコースが運ばれてくる。子羊の柔らかい肉に舌鼓を打つ。一体幾らするのか..楽しい時間はあっという間に過ぎて最後のデザートとなった。白桃の乗ったパルフェと言うべきものか。ここまで高貴なレストランにこの様なものまで用意されているとは思っていなかったが。
カスミ「..!甘味を摂るのは久しぶりだが..それ抜きにしても絶品だなぁッ!」
先生「ふふ、私のセンスを侮っては行けないよ?」
先生が嬉しそうにドヤっとする。その顔もまた童心に返ったようで愛らしい。すると先生が、
先生「あ、カスミ。クリームが..」
指ですくいそれを舐める。ベタに見えるだろうがいきなりの出来事だったので少し動揺してしまった。
カスミ「あ、あぁ!ありがとう先生。」
そのまま時間は過ぎて…
先生「さて、そろそろ行こうか?」
楽しい時間は本当に短いものだ。温泉開拓に通ずるものも..いや、今は比喩などしないでおくべきか。
カスミ「今日は世話になったな先生っ!この恩はまたいつの日か返すからな?」
先生「はは、私の勝手でした事さ。気にしなくていいよ。そうだ..公園でも行こうか。」
街灯に照らされる街を一歩ずつ進み、丘の上の公園へ。その丘からは満点の星空の元に人々の生活感溢れる、綺麗な街並みが広がっていた。
先生「ふふ、どう?滅多に私は一人で来ないんだけどね..」
カスミ「中々の景色じゃあないかッ!それにしても、先生は小洒落た場所をいくつも知っているのだな?」
先生は少し黙って、
先生「..ま、私もこう言う場所に来ること自体慣れてないんだけどね。大切な生徒..いや、今は愛する人と言うべきかな?そんな人に相応しい景色を慣れないながらに用意しただけさ。」
の言葉に思わず頬が赤くなる。
カスミ「ま..全く、そう言う言葉を贈る相手はもっと選ぶべきだぞ?先生!」
先生「選んでるつもりだよ?」
少し不思議そうな顔をこちらに向け、悪びれもなくそう言う。そう言えばそんな人だったな。それこそ皆に慕われる先生なのだが。
カスミ「あぁッ..君はそう言う人だったな!!」
恥ずかしさに顔を背けるが嬉しい。ただ嬉しい。
カスミ「…なぁ、先生?」
先生「ん、どうしたのカスミ。」
カスミ「その…今日は私の誕生日だったからこう言う場所に来れた訳だが…私としてはもっとこの様な機会を増やしたくてな?..これからも色んな場所に連れてってくれないだろうか、」
先生「…何を言うかと思ったら…当然でしょ?それにあの日君は言ったじゃないか。1人の男性として私を後悔させたくないってさ!」
あの日の告白の時の記憶を持ち出され更に恥ずかしくなる。
カスミ「あ、あの日の話は今はタブーだろうっ!..だが、まぁ…これからも末永く頼むよ、先生。後悔しても遅いぞ?」
先生「ははっ、カスミからそう言われるとはね?」
そのまま優しく私を抱き止める先生。
今宵22時。
おしまい
コメント
6件
なんだこの先生何か良いな それはまるで語彙力がなくなるほど
ウマウマ…くーちゃんの作品は私と違って起承転結がちゃんとしていて解りやすいんよねぇ…私も作品を書かなきゃ
ふい〜...これを見た諸君。カスミの新作を描きたくならないかい?私は何時でも待っている。