私と9Sは任務のため工場廃墟へと入っていた。
普段から喋りっぱなしの彼がいつもより静かなことに私は少し恐れていた。
もしかしたら…彼はまた気がついてしまったのかもしれない…と。
9S「…あっすみません2B」
喋らないと思ったら急に声をかけられて少し驚いたが私はいつも通り淡白に返事をした。
2B「なに」
9S「ここは電波状況が悪いので少し外に出ませんか?」
2B「任務中…任務放棄はしてはいけない」
9S「……それは…僕が貴女に処刑されてしまうから…ですか?」
私はその言葉を9Sから聞いた瞬間理解してしまった。
私は振り返り9Sを見る。
ポッド042「…9Sの処刑を実行」
そう告げるポッド。
彼は言葉を紡ぐ。
最期の言葉を囁くかのように。
9S「やっぱり……」
9S「そうだったんですね」
2B「……」
9S「あーあ…また巻き戻るのかぁ」
彼は私に背向ける。
まるで今殺してくれ、とでも言うかのように無防備な姿を見せる。
9S「それにしても僕は本当に酷いやつですよね」
9S「次はちゃんと殺してね…なんて死に際に頼んで」
2B「っ…」
9S「これじゃあ断れないですもんね」
私は静かに彼の背後に近寄る。
9S「ねぇ2B…いや……2Eというべきかな」
9S「最期に僕の我儘…聞いてくれませんか?」
ポッドは私に9Sの処刑を催促してくる。
焦ったように彼は言葉を付け加えた。
9S「一応言っときますけど逃がしてくれとかそういうことじゃないですよ」
私は少し考えた後最後の返事を彼に返した。
2E「…私に……できること…なら」
9S「ふふっ…やっぱり2Bは優しいなぁ……」
彼はそう言って振り返りにこりと笑った。
そして私を見てゴーグルを外した。
9S「じゃあ目を瞑ってください」
私は言われるがまま瞳を瞑った。
足音が近づいてきて彼の手が私の頬を撫でてゴーグルに触れた。
彼は私についているゴーグルを外すとガラスを扱うように優しく私の頬を包み込んだ。
彼の吐息を肌で感じる。
次の瞬間だった。
私の唇に何か柔らかいものが触れ私は思わず反射的に瞳を開いてしまった。
そこには私に接吻をする整った顔の9Sがいた。
何秒…何十分経っただろうか。
私は彼に見惚れていた。
彼がゆっくりと私の唇から離れ私を抱き寄せる。
9S「ありがとうございます…2B」
それが彼の最期の言葉だった。
私の腕の中でぐったりと倒れる彼。
信じたくなかった。
信じられなかった。
信じざるおえなかった。
彼が私の足元に倒れる。
ポッド042「機体9Sのブラックボックス停止」
2B「…どう……して…………」
息が詰まる。
ポッド153「機体9Sは2Bとの合流直前にあらかじめ自身に破壊プログラムを仕込んでいたと推測」
苦しい。
2B「そ……んな……………………」
考えられない。
ポッド042「早急な義体の回収とバンカーへの帰還」
呼吸を忘れる。
私は9Sだったものを抱きしめる。
嗚咽に似たような叫び声が出る。
もう2度と失いたくなかった。
2B「なんでなの……どうしてっっ……」
生きて欲しかった。
私は9Sだったものを抱き上げ彼の唇にそっと接吻を落とすとバンカーに持ち帰り801Sに見せた。
眼を開いた801Sが私を見る。
S型の801Sは所々に彼の面影あってそれを目にするたび胸が張り裂けそうになる。
息を忘れた私はこう言った。
2B「私は9Sを忘れたくない」
2B「だから__________」
その後私は9Sと再び出会う事になるだろう。
君ではない君にまた出会って。また殺して。また君に愛されて。また君を愛して。また君が生まれる。
そんな鎖に囚われ続けている。
だから私は君を忘れないように…君とまた出会う為に……身体の一部に君だったものを取り込んだ。
801S「S型の運動機能は…E型どころかB型にも劣りますよ」
801S「そこまでしなくても……」
801S「彼は貴方にそんな風になって欲しかったわけではないと思いますよ」
801S「それでも…それでも彼の事を忘れたくないんですか…?」
私の答えはとうに決まっていた。
9S「初めまして、えーっと…」
2B「私が……2B…だ」
9S「あ…ありがとうございます……」
9S「僕は9Sです、今回貴方の地上降下作戦のアシストをさせていただきます」
2B「……」
9S「あの…どうかしましたか?」
私はまた君と……。
2B「なんでもない、気にしないで」
9S「そう…ですか……ではよろしくお願いしますね」
9S「“2Bさん”」
ありがとう…ナインズ。