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パチパチと弾ける線香花火。
「良いよね、これ」
話しかけるも隣にいるはずの彼女からの返事は無い。集中しているんだろうと思い、僕も黙り込んだ。
線香花火の音だけが、暗い夜の中に響いている。
集中したいという気持ちもわかるのだけど、やっぱり人の声がないのは心細い。
だから思い切って声をかけてみた。
「あのさ――」
次の瞬間、近くの光が消える。
「あっ」
「ちょっと、いきなり声かけてくるから驚いちゃったじゃん」
暗闇の中、彼女の怒る声だけが聞こえる。
「ごめん」
「いいよ、まだあるし」
咄嗟に謝ると、彼女は意外にもあっさりと許してくれた。まだ線香花火が残っているからというのが理由みたいだ。これがもし最後の一本だったらどうなっていたんだろう。想像したら少し怖くなった。
「ところで、君はやらないの?」
「うん。僕は見ているだけで充分」
ハッキリ聞こえる彼女の溜め息。その直後、いきなり手を掴まれ何かを渡された。触ってみて理解する。これは紛れもなく線香花火だ。
「一本位付き合いなさい」
「そんなタバコみたいに」
「いいから一緒にやるの。割り勘で買ったんだから、花火セット」
言われてみればそうだった気がする。いまいちよく覚えていない。なんせその時の僕は彼女が花火をしている姿を想像し、その様を目の前で見たいと考えてしまっていたから。
彼女が花火を楽しんでくれたらそれで良いと僕は思っていた。けれども彼女は違ったらしい。
「それじゃあ、火、つけるよ」
赤くなった線香花火の先端は、やがて丸くなる。そしてその周りに小さな火の花が咲く。
少しでも長く彼女の方を見ていたいと思う僕としては、この時間はなんだかじれったい。
「長持ちしないかなぁ」
不意に彼女が呟いた。
「なんで?」
「君の横顔、ずっと見ていられるから」
「なっ!?」
思わず身体を動かしてしまい、その拍子に光が落ちる。
「ちょっと、動揺しすぎ。一本追加で」
「……わかったよ」
僕は仕方なく二本目を受け取った。