テラーノベル
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夜は浜辺の近くの、風の弱いところで過ごすことにした。
今回ここを訪れた人数は100人を超えているため、テントの数も多く、何とも壮観な光景だ。
そんな中、私はジェラード曰くの『アイナちゃん一派』のみんなで焚き火を囲んで食事をとっていた。
「……どうにも、落ち着きません」
不意に、クラリスさんがそんなことを口にした。
「ん? どうしたの?」
「あ、すいません……。
アイナ様たちと一緒に食事をするのが、少し慣れなくて……」
「ふふっ。クラリスは根っからの奉公人じゃからのう」
グリゼルダはクラリスさんの言いたいことを早々に察したようだ。
確かに歓迎会などの一部を除けば、私がメイドさんたちと一緒に食事をすることは無い。
私が食べている間、メイドさんは給仕をしてくれているのだから。
「まぁまぁ、今回クラリスさんは視察のために来てもらったわけだからね。
メイドの仕事は忘れて、今は気楽にして過ごして?」
「……視察、ですか。
そういえばアイナ様、この場所では何をするのですか?」
ちなみにクラリスさんには、私がここで何をしようとしているのかは教えていない。
ここまでの道中で多少は耳にするかと思っていたが、そういうことも無かったようだ。
……それもそうか。ずっと私の近くで、私たちの世話をしてくれていたわけだから。
「実はね、ここに街を作ろうとしているの」
「街、ですか……!?」
当然のことながら、それはクラリスさんの予想を軽く超えた話のようだ。
本当はそのあと国も作ろうとしているんだけど、ひとまずそこは内緒にしておこう。
「そうそう。まずは私の家とお店を作って、そこを中心に発展させたいの。
そのうちクレントスから引っ越すから、そのときはクラリスさんたちにも一緒に来てもらいたいなー、って」
「かしこまりました。
まったく、アイナ様と一緒にいると色々なことが起きてしまいますね」
「あはは。クラリスさんの受け止めるスピードも、なかなかのものだと思うけどね」
クラリスさん、まさかの即答である。
断られる気がしなかったのは本音のところだが、それにしても即答してくれるのは気持ちが良い。
「ちなみに、引っ越しはいつ頃になるのでしょう?」
「私の家とお店が出来てからだから、2か月後くらいかな?」
「は、早いですね!?」
「私もばっちり手伝うからね!」
建築資材の加工であれば、私の錬金術が活きる場所もある。
例えば|煉瓦《れんが》作りだとか、壁材の作成だとか。
それ以外にも、実は掘削なんて作業もできたりするのだ。錬金術の射程に入る場所であれば、バチッと一瞬でね。
「……アイナ様の職業って、何でしたっけ?」
「い、一応……錬金術師……?
ああいや、もう魔女の方が良いのかなぁ……」
そもそも『世界の声』は私に『神器の錬金術師』の称号をくれていたのに、私は『神器の魔女』を名乗っているのだ。
それならもう、私の職業は魔女なのかもしれない。
「職業、魔女……ですか。
そうすると差し詰め、私は魔女様に仕えるメイドですね」
クラリスさんは手元のコップの中を眺めながら、少し嬉しそうに呟いた。
魔女に仕えるメイド――それはそれで、ファンタジックな響きがある。
「それならわたしは、魔女の仲間の聖職者ですね!
……良い人なんだか悪い人なんだか、よく分かりませんけど」
「そうですね、エミリアさんはそろそろ賢者に転職を――」
「アイナさん、まだそれを言いますか!」
「いやいや。魔女に仕える賢者っていうのも、ときめきませんか?」
「それはそれで、やっぱりミスマッチ感があるんですけど……!」
エミリアさんはいまいち納得してくれていない。
確かに魔女という言葉自体、魔法使いのイメージがあるからね。
それに仕える賢者というのは、上下関係がよく分からなくなってしまう。
ゲームで言えば、賢者は魔法使いの上位職業みたいな感じだし。
「まぁそれはそれとして、こっちの家ができるまではクレントスとここを往復しようと思ってるの。
建物が完成したらみんなを呼ぼうと思ってるから、それまでに準備をしておいて欲しいな」
「かしこまりました。
それにしても、2か月ですか。食材を調達するルートも確保しておかなければ……」
「それなんだけど、ポエール商会の方でもある程度は手配してくれるみたい。
さすがに100人以上が、ずっとここで仕事をするわけだからね」
「なるほど……。うーん……」
私の言葉に、クラリスさんは何か考えこんでしまった。
「な、何か問題あったかな?」
「いえ、アイナ様がこちらに滞在するのであれば、私も最初から一緒にいたいなと思いまして……。
これから引っ越す先でもありますし、他の4人もそう考えると思いますよ」
「え? 家とか、まだできてないよ?」
「主人の一世一代の大開発とあれば、やはり使用人としてはできるだけ目にしておきたいな、と。
クレントスのお屋敷に全員がいなくなるのは避けたいですが……」
「なるほど……。確かに私たちがお屋敷にいないと、メイドさんの仕事も減っちゃうもんね。
それじゃ3人くらいずつ、一緒にこっちに来るようにする?」
「本当ですか!?
それではお屋敷に戻ったとき、みんなに話してみます。街作りの話もしてしまって問題ないですか?」
「うん、大丈夫。
実際に動き始めると、そういう情報はどこかから漏れちゃうだろうし。
むしろ早く言ってあげた方が良いかも」
……今にして思えば、せめてメイドさんたちには先に話しておいた方が良かったかもしれない。
でも何だか、言うタイミングが無かったんだよなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさん、少しよろしいでしょうか」
焚き火の側でまったりしていると、ポエールさんが申し訳なさそうに話し掛けてきた。
「あ、今日はお疲れ様でした。どうかしましたか?」
「すいません、先ほど作ってもらった『水』がもうなくなってしまいまして……」
「やっぱり無くなるのが早いですね。それじゃ、補充しておきます」
「お休みのところ、申し訳ありません……!」
私の返事を聞くと、ポエールさんは安心したように去って行った。
「……アイナさん? 水って、何の話ですか?」
「この辺り、海はあるんですけど水源が無いんですよ。
だから海水から真水を作って、急ごしらえの貯水池に入れておいたんです」
「それも錬金術なのか……。
何だかもう、妾の知っている錬金術ではないのう……」
私の良い仕事っぷりに、グリゼルダは感心したような、微妙そうな、そんな表情を浮かべてきた。
「やってることはいつもと変わりませんよ?
海水をどばーっとアイテムボックスに流し込んで、貯水池のところでバチッと……」
「アイナさん。やってることは同じかもしれないですけど、壮大というか、ワイルドになってきてますよ」
「それも今さらですよー。私の錬金術には、もうツッコんだら負けです!
神様と竜王様から頂いたありがたい力なんですから、ここはみんなのために、何も気にせず使わせて頂きましょう」
「そうじゃな。しかしアイナも『神竜の卵』から良いスキルを引いたのう。
ルークもなかなかのものじゃったし――
……そういえば、エミリアは何を覚えたのじゃ?」
グリゼルダの言葉に、エミリアさんはぎくっと身体を震わせた。
何だか見ていて、とてもコミカルな動きだった。
「す、すいません、まだ覚えてません……。
でもきっと、運命に導かれてこれから素晴らしいものを覚えるような気がします……!」
「……ふぅむ? これからそんな機会が訪れるかのう……」
「そ、そんな!?」
グリゼルダのつれない言葉に、エミリアさんは目に見えて慌てた。
私の『神竜の卵』が発動したのは、呪星ランドルフに襲われて、すべてに絶望しながらルークとエミリアさんを助けようとしたときだ。
ルークの『神竜の卵』が発動したのは、私が倒れて、自身を不甲斐なく思ったルークが心の底から絶叫したときだ。
つまり『神竜の卵』の発動には、精神的なところでかなり厳しい条件がある。
逃亡生活も終わって前向きに進んでいこうというときに、そんな出来事がこれからあるのかと言われれば――
……無いんじゃない? いや、あって欲しくないし。
ひとまず私はそのことを噛み締めながら、エミリアさんの肩を優しく叩いた。
「……大丈夫です。
エミリアさんは、今後も無限の可能性を秘め続けるんですから……」
「ちょ、ちょっとアイナさん!
それっぽくまとめないでくださいよ!?」
……でもだって、それ以外には言いようが無いし……。
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