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「なんだったんだ…。」
思わずため息が出てしまった。シャルルが絡んでくるシーンなんてもってのほか、ゲームにそんな場面などなかったのに。
「やっぱり…何かバグでも起こってるんじゃないのか…?」
(生徒会なんて入るわけ無いだろ…、攻略対象に接する機会も抜群に増えてしまうし。)
イアンは額を抑えながら自分の教室に入った。広々とした空間。生徒がもうちらほら座っており、貴族のあいさつも交わしている。
ドアの開く音に気がついたのか、何人かの生徒が目線をやった。そんな目線を避けるため、目を伏せて素早く歩く。どこに座っていいのだろうか。ふと見渡すと、窓際にぽつんと机に伏せている人を見かけた。
(あの人、金髪だ…。この世界でもなかなか珍しいな。)
意識を取られると、不思議とそちらに足が向いた。
(こんなときでも寝ているんだ。面白いやつかもしれないな。)
彼から何席かあいたところに腰を掛けた。それというもの、彼の半径2、3メートルの席には誰も座っていない。さすがに避けられているのか、かわいそうに思ってしまう。
椅子を引くと、その音にピクッと無造作な金髪が跳ねた。遠目で分かるようなさらさら具合。珍しい金髪もあいまって、階級の高い人なのではないかと焦る。今からでも席を離れるか迷った瞬間、彼が顔を上げ、ゆっくりと見てきた。
(あ、凄い…、目合ってるよな…。)
彼の目がイアンの目をとらえて離さない。
(き、気まずい。)
無理やり目を背けようとすると、彼が席を立った。そして隣までやってきて、イアンの顔に影を作る。
(なんだこの人…?)
窓から入ってくる逆光で彼の顔は見えず、目を細めて見返す。イアンにのしかかる影がさらに彼の190cmはありそうな身長を際立たせていた。彼はそのまま隣の席に座り、顔をこちらに向けながら再び伏せた。
(怖…いけど…。)
彼の顔を見る。
(なんて綺麗なんだろう。)
顔の横の伸びた髪を三編みし、耳にかけている。まつ毛まで金髪で、まるで絵画から飛び出してきたようだ。と言ってもゲームの世界だから説得力がある。
気まずい空気が流れ、教室に生徒が全員集まると、続けて真っ白いコートを羽織った先生が入ってきた。
「やあやあ皆様、ハジメマシテ。私のことはイヴンズコート先生とでもお呼びなさい。コンニチから皆様の担当をさせていただきますよ。」
少し癖がありそうだ。細い縁の丸眼鏡と身長が2メートル以上ある姿から只者ではない雰囲気が漂っている。
イヴンズコート先生がこの学園の歴史について長く語りだすと、少し癖っ毛の彼が新着である制服の袖を引っ張ってきた。
「…お前、名前。」
かなり驚いて何事かと思ったが、名前を聞きたいらしい。アンドリュー伯爵家だとは言いたくなかったため、悩んだ末に言った。
「イアンです。あなたは?」
「……。」
彼は黙ってから、また顔を伏せてしまった。なんて不思議な人なのだろう。金髪の名前が分からないため、キンちゃんとでも呼ぼうか。
一通りの説明を聞いたあと、学園の案内をされた。キンちゃんはイアンの真後ろについて回る。なぜか懐かれたようだが背後を取られているみたいで怖い。
「おぉ。」
うっかり声が出てしまった場所は、図書室。かなり広く、天井は30メートルもある。本は長くゆがんだ本棚にギチギチに詰まっており、たくさんある窓からはいる光にきらきらと照らされている。
(まるでハリー・ポッターの世界観だ。なんて…。)
「気に入ったのか?」
「あ。」
声に驚いて上を見ると、キンちゃんがイアンの顔をのぞいていた。髪が顔にかかって少しくすぐったい。
「あっ、と、うん。綺麗だよね。 」
「…。」
キンちゃんは再び黙り、顔を背けた。
(なんだろう?)
イヴンズコート先生が生徒の間をくぐるように説明を続ける。
「さぁて、ソロソロ退屈になってきましたか?私も疲れてしまったので、自由に歩き回っていただいても構いません。ただし、2時間後にはキッチリここへ戻ってきなさい。皆々様、分かりましたね?」
「「はい。」」
生徒が自由に学園内を歩き始めたが、イアンはこの場から動けなかった。なぜならこの図書室がイアンにとって最も魅力的であるからだ。
図書室にある細くくねった階段を登り、古びた本の香りを感じる。なんていいところなんだろう。ずっとここに閉じこもっていたいような。だがイアンの気は少し散っていた。後ろからずっとキンちゃんが後をつけてくるからだ。ラファエルの行動には慣れきっていたが、他の誰かと行動なんてしたことが無い。かなりソワソワして、キンちゃんに話しかけることにした。
「…あの、ほかのところは見なくて良いのですが…?」
キンちゃんは優雅に髪をかき上げながら一言、「あぁ。」と言った。
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