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食後のデザートは友人の血の味

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食後のデザートは友人の血の味

1 - 食後のデザートは友人の血の味

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2025年01月01日

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「ルーシィ誕生日おめでとう!ついに俺たちが最年長だな!」

「そうだね。リタも誕生日おめでとう」

遂にこの日がやってきてしまった。

リタの純粋な笑顔を見る度、あの日の事を思い出す。

君は何も知らず純粋のままでいて欲しい。

最後は君の手で___

「ルーシィ何ボーッとしてんだ?朝ご飯食べに行くぞ」

「あ、うんごめん今行く!」

そこからなんだかんだ気が抜けてしまっていて、気づけば家庭教師が僕の名前を呼んでいた。

「ルーシィ!大丈夫か?」

「あ……ごめんなさい」

「珍しいな、ボーッとするなんて。そんなんじゃリタに学力テスト1位取られるぞ?」

「そうでしたね、すみません」

「でも」

「たまには早く終わろうか」

「えっ」

この先生は努力家で、休むということを知らない人だったのでその言葉に少し驚いた。

「いつも頑張ってるご褒美」

ニカッと笑い、退出の準備をする。

「もしバレそうだったら、超特急で終わったとでも言っとくわ」

この先生は本当察するのが上手い。

時々怖くなるぐらいに。

「ありがとうございます」

「……先生、最後に質問いいですか?」

この孤児院では知ることが出来ないこと。

ずっと疑問だったこと。これの答えが知れれば僕は楽になれる。

「おう、なんだ言ってみろ」

「死ぬってどういう感覚ですか?」

「……えっとすまん、分からない」

「そうですかありがとうございました」

先生との壁を作るように扉を閉める。

扉にもたれかかり虚空に向かって話しかける。

「敢えて教えないってことか__」



お昼遊びの誘いを断り、部屋に1人で考える。

ルーシィは何かを隠している。

いつから、や何をなど具体的なことは何も分からないが以前とは違うという事だけは確実だ。

ボーッとしている事が増え、森にもよく行くようになった。前より下の子と遊ばなくなったし、愛想笑いがほとんどだ。

夜は寝言で俺の名前を呼ぶことがあった。

何かに耐える様に。

込み上げる何かを抑え込む様に。

小さい頃からそうだった。肝心なことは教えてくれなくて、自分で制御出来なくなるまで我慢する。そういう所、俺は嫌いだった。だってそんな悲しそうな顔__

「リタ?」

扉が開き、ルーシィが心配そうにこちらを見ていた。

「ルーシィ!びっくりした……」

改めて見てみてもやはり昔のようなキラキラした瞳ではなく少しモヤがかかってる。

何か変化があるのに何の助け舟も出せない自分が腹立たしい。

「皆遊んでるよ行かないの?」

「今日は調子悪いからさ」

「ルーシィはどっか行くの?」

「いや、行かない」

「リタと一緒にいる」

「えっ」

予想外の言葉だった。てっきり森へ行くとか、読書をしに図書室へ行くと言うと思ったのに。

「調子悪いリタをほっとけないし」

「隣いい?」

甘くて、安心する様な声だった。母親のようで、悩んでいることをルーシィの胸で告白したい。本当に悩んでいるのはルーシィのはずなのになぁ。

「うん」

「大丈夫?リタ」

「うん……ううん大丈夫じゃない」

「ルーシィが……どこかへ行っちゃうんじゃないかって心配、だったんだ」

顔に熱が集まり、自然と涙が溢れてくる。制御出来ない涙をルーシィが抱きしめながら隠してくれた。君は泣いてなんかいないとでも言うように。

「僕はここにいるからね」

熱が引いた俺の手を自分の頬に当てながら、しっかりと目を合わせて言い聞かせてくれた。

その手は震えていた。

自分もちゃんとルーシィが実在している事を確認し、喜びが溢れる。

「うん、うん!」

しばらくして涙が引いてきた頃にルーシィが話し始めた。

「リタは僕がいなくなったら寂しい?」

「あたり前じゃん」

「そっかぁ、僕も愛されたものだね」

「ここは皆ルーシィのことが大好きだよ」

「ふふ、ありがとう」

「僕もリタの事愛してる」

おでこをくっつけながら囁くように言われた言葉は真実だった。

ちょっとこそばゆい感じもするが純粋に嬉しかった。愛してるなんて初めてだったから。

そんな時夕飯の鐘が鳴り、久しぶりの2人での会話は終わりを告げる。

いつもの様に夕飯の準備をし、全員で席に着く。

「いただきます」

「ねえリタ、今日シチューだったんだね」

「知らなかったのか、ちなみに今日は肉が沢山入ったヤツだぞ。やったな!」

「すっごい美味しそう!」

ルーシィは肉がめちゃめちゃ大好きなわけじゃなかったからそこまで興奮しないと思っていたから予想外の反応だった。

「どうしたのリタ、食べないの?」

「あ……ああ、うん食べるよ」

疑問を抱えながら食べ進め、ふとした時に

ルーシィの爪が長いことに気づいた。

「ルーシィ爪長くなったね、切ったら?」

その瞬間、一気にルーシィの顔が青ざめ、今にも悔しくて泣きそうな顔で一瞬こちらを見た。急いで席を立ち先生に「トイレに行ってくる」とだけ言い、裏口から外へ出た。

これは追いかけなければ行けない。そう本能が叫んだ気がした。裏口から外へ出て、ルーシィの背中を追いかける。途中先生が俺を止める声が聞こえたがそんなもので今の俺は止められない。

案の定ルーシィは森へ入った。今だと思いルーシィを呼び止める。

「ルーシィ!なぁ大丈夫?」

「リタ、ごめん……大丈夫」

「嘘つくな、今のお前の顔酷いぞ」

何かに耐える様に、本当の感情を表に出さないように顔が引き攣っている。それでも眉は正直だった。

「そう……かな」

「ルーシィ、お前俺に秘密にしてることあるだろ」

「……」

俯き、表情が読み取れない。

「なぁ言ってくれよ、俺らずっと一緒だったじゃん」

涙声になる。ダメだ。今泣いていいのはルーシィだけだ。そう自分に言い聞かせ、涙を止める。

「僕はっ……」

決心したように顔を上げる。

「病気で今日のうちに処刑される」

「えっ」

嘘だろ。衝撃の事実に頭が真っ白になる。

「見てこの爪、元々は切り揃えておいたんだけど今はこんなに伸びてきてる」

「経口感染型野獣化病」

「なに……それ」

聞き覚えの無い文字並びに鳥肌が立つ。

「正式な名前じゃないらしいけどね」

「ある日僕のカルテを図書室で見つけたんだ。カウンターの引き出しの隠し扉でね。そこには経口感染型野獣化病にかかった僕の事が乱雑に書かれていた」

ルーシィは淡々と話し、質問の隙を与えてくれない。

「〈6月25日午後5時36分ルーシィ・アーレント現在逃走中のリリアン・シーズに腕を噛まれ、狼型野獣に感染した模様。

潜伏期間はおよそ10年とされており、従ってここ10年の間にルーシィ・アーレントを処刑する。〉ってね」

「そんなの嘘だ……」

「僕も最初はそう思った。でもこれは現実なんだリタ。そして少し前に先生から言われたんだ野獣化病のことと、処刑は今日になりそうだって」

「処刑なんていやだ !なぁルーシィ何とかそれ以外の道は無いのか?」

「もう僕は野獣化病を発症してしまっている、死ぬ以外の道は無い。でも処刑以外で死ぬことが出来る」

「いや、ちがっ……」

違うルーシィには生きてて欲しいんだ。処刑以外の死ぬ道じゃ無くて、処刑以外の生きられる道を聞いてるのに。

上手く声が出ない。ルーシィが何をしようとしているのか全く分からなくて鼓動が早くなる。

「リタに殺されることだ」

「っ!」

少し予想していた。俺だってバカじゃない。頭の片隅にあったが否定し、無理やり可能性をゼロにしようとしていた。

「無理だよ……俺には出来ない」

「僕は処刑されるぐらいならリタに殺されたい」

間を開けず語りかけるルーシィに少し恐怖を覚えた。

「ほらちゃんとナイフ握って」

どこから出したのか分からないナイフを熱いぐらいの手で握らせてくる。

「なぁルーシィ、俺には出来ない!」

「僕が兄弟皆を食い殺していいの?」

間髪入れず反論してくる。

元ルーシィが兄弟を食い殺す光景なんて想像するだけで胃がひっくり返りそうだ。

「ルーシィはそんな事しない」

「……リタよく聞いて」

「ここは現実なんだよ。ねぇリタ」

『僕はここにいるからね』

「あの時の__!」

冷えきった俺の手を自分の頬に当てながら、しっかりと目を合わせて言い聞かせてくれた。

その手はとても熱かった。

「離せ!」

「いたっ」

「あ、ごめ……」

とても驚いた顔をしている。完全に選択を間違えた。どう謝れば……。

「っ!頭が!」

頭を押さえ地面に這いつくばる。痛みに悶えるルーシィをただ見ているだけしか出来ないなんて、どんなに酷なんだ。

痛みが引いてきたと思った時にはルーシィの頭と腰部分に狼を連想させる耳としっぽが生えていた。

「ねぇリタお願い、野獣化が進んでる早くしないと」

「無理だ!殺すなんて本当に出来ない」

怒りで手に力が入る。

「リタ……」

「ごめんね」

そう言われ、俺を抱きしめてきた。やっと分かってくれたかと思ったのはただの勘違いだった。

手に握りしめたナイフの先の感覚が伝わってくる。

ずぷずぷと音を鳴らし、肉を割き、体の深部まで進むのが。

「……ルーシィ?」

「ふふっやっと入れてくれたね」

ルーシィがグラッと揺れ後ろに倒れた。その拍子にナイフが抜け、血の絨毯が出来た。

「ルーシィ!ごめん俺っ、こんなことしたかった訳じゃ」

「分かってるよ、僕がっ刺されに……行ったんだもん」

苦し紛れに言葉を綴る。

「ゔっゴホッ!」

咳き込んだ際にコポッと音を立て、大量の血が口から吐き出された。

「ルーシィ、死ぬなよまだ手があるはず」

「もう無いよリタ。これだけ血が出ればもう死ぬ」

呼吸音が激しくなる。

「ダメだダメだ!ルーシィまだ大丈夫だからこっち見ろ!俺と目をあわせろ!」

焦点も会わせられないほどになっていた。

「リタ……僕はねリタに会えて……本当に良かったと思ってる。僕はっ最後まで……幸せだったよ。殺してくれてありがとう」

「もう喋るな……」

「……キス、しよ」

右手を伸ばし、キスをせがんできた。

ルーシィが何かを望むのは珍しかった。

俺は無我夢中に、かぶりつく様にキスをした。

俺はおとぎ話のように生き返るかもしれないと心のどこかで思っていたようだ。だがその思いは虚しく、ルーシィの力は抜けていく一方だった。

右手が落ちそうになると同時に口から舌を抜く。

「リタ……あい、してるよ」

ルーシィの動きが止まった。

「あぁ俺も愛してる!だから……だから……戻ってこいよ……」


友人を抱えすすり泣く少年の口の中はその友人の血の味でいっぱいだった。


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