姫というのはラクではない。
一般人のように自由に家の外から出られないし、同い年でも様付けをされて呼ばれる。
わたしは、ずっと一人で窓の外を眺めていた。窓の外には、美しいほど青い空が広がっていて、わたしはそこに憧れを持っていた。
「城の外って、どんな感じなんだろう…」
知りたくて手を伸ばした。けれどそれは知ることもないものだと知っているから、伸ばした手を再び引っ込めた。
わたしは苦手だけど、わいわいと賑やかな外の景色が少し羨ましかった。わたしにはない自由が、他の民にはあるのが羨ましかった。
「草薙様、窓の外ばかり見られて、どうかしましたか?」
「司…」
わたしのもとに長年仕えている執事、天馬司。わたしは彼の硬っ苦しい態度があまりいけ好かなかった。けれど、どこかそれを愛おしく思っていた。
要するに、わたしは司のことが好きなのだ。普段何を考えているのか分からない、けれどわたしの意見を否定することなく、従順に従ってくれる姿は、不覚にも可愛らしいと思っていた。
男に可愛いと思うのは、わたしもらしくないと思っている。従順な狗が好きだから、多分それの影響でもあるだろう。
「ねぇ、司」
ならば司は、わたしを外に出して暮れるだろうか。普通なら掟破りのその行動さえ、「かしこまりました」と言って連れ出してくれるのだろうか。
「わたしと一緒に旅をしてくれない?」
これは司を試したのだ。どこまで従順で忠実なのかを、わたしは知りたかった。
司はどこか遠くを見ていた。いつもなら即答するのに、迷いがあるということは、やはりわたしを容易く外に出す訳にはいかないのだろう。
「……少々お待ちを」
すると司はわたしに背を向け、部屋から出て言った。今の態度から察するに、わたしのお願いは拒否されたのだろう。
「…ま、分かってたけどさ」
目元が熱くなり、鼻がツン。とした。別に分かっていたことなのに、どうしてかわたしは泣いていた。
わたしが泣いている時も、隣で宥めてくれる人はいなかった。
「ん…」
頭が痛い。わたしはいつの間に眠っていたのだろう。
わたしは起き上がり、目を擦って辺りを見渡した。が、辺りは真っ暗で、何も見えやしなかった。
「どこ、ここ…?」
ただ分かるのは、明らかにわたしの部屋ではないことと、ここは部屋でも家でもないことだ。
困惑していると、ガチャリ。と、扉が開く音がし、開いた扉から影がぬっ。と現れた。
その影の正体は、司だった。
「お目覚めになりましたか、草薙様」
「司…ここは一体……?」
どこからかリモコンを取り出し、司がそのボタンを押すと、真っ暗だった周りに明かりが灯された。その明かりで気づいたのは、ここはリムジンの中だということだ。
「草薙様、お手を」
司に言われるがまま、わたしは司の手を取ると、リムジンの外へ出された。外の景色は、夜空に星が散らばっていて、平原には草と花が咲いている、まるでおとぎ話のような、メルヘンでロマンチストな風景だった。
「わぁ…っ」
思わず歓喜の声を出す。すると司は、嬉しそうに微笑み、わたしを平原の真ん中へと連れ出した。
「草薙様がお気に召したようで何よりです」
「ありがとう…でも、良かったの?」
「何がですか?」
わたしがずっと待ち望んでいた外の景色。けれど、司はわたしを外に出して良かったのか。もしこのことがバレてしまえば、司は解雇されてしまうかもしれないというのに。
「だって、わたしは外に出ちゃいけないってわかってるでしょう?なのに、どうして…」
「……そうですね」
司は夜空へ視線を移す。だからわたしもつられて夜空を見上げる。夜空一面に広がる星たちは、一つ一つが輝いていて、窓から見るよりもずっとずっと綺麗だった。
「私は、草薙様に仕える忠実な執事として、そして私自身も、草薙様の願いならば、全力で叶えて差し上げたいのです」
「司……」
どこか照れくさそうに微笑み、そう言う司は嘘を言っているようには思えなかった。普段何を考えているか分からないポーカーフェイスの司の本心が知れた気がして、少しだけ優越感を感じた。
お礼に、わたしは司の襟を掴み、少しだけ背伸びをして、司の唇に自分の唇を重ねた。優しく微笑めば、司は真っ暗な外でも分かるほど顔を真っ赤にして照れていた。
「ありがとう、司」
「…バカ寧々……」
初めてのタメ口は、可愛らしい悪口だった。
コメント
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ギャーーー!!!!仕事が早すぎる。そして解釈一致すぎる。ホントに、寧々ってさあ………何人の人間を落としてきたんですか?頭を抱えてしまうほどに、寧々の可愛さとカッコよさの比率が丁度よすぎる。ちゃんと女性らしいのだけど、女々しすぎず、振る舞いがイケメンのソレなのだが、しっかり草薙寧々している………ありがとう。ありがとうございます。ギャー……………