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『全部、諦めた』
tg視点
明日は、卒業式だ。
俺は、段ボールが積まれた部屋の真ん中で、膝を抱えたままぼんやりしていた。
引っ越しの準備は、もうほとんど終わっている。
制服の予備ボタンも、アルバムも、
全部段ボールのどこかに詰めたはずなのに、胸の奥だけがスカスカのままだ。
窓の外では風が吹いていた。
春はまだ遠い。
tg 卒業かぁ…
呟いた名前に、俺は自分で苦笑する。
3年間、ずっと同じクラスだった。
何度も一緒に笑って、何回か喧嘩もして、
でもいつの間にか、誰よりも目で追ってた。
ちゃんと“好きだ”って自覚したのは、いつだったんだろう。
文化祭で一緒に準備した日か、
テスト返却で悔しそうにしてた顔を見たときか、
それとも──最初から、だったのかもしれない。
でもその気持ちは、
今日で全部、終わりにするって決めた。
ぷりちゃんには、好きな人がいると思ってる。
確証なんてないけど、わかる。
誰かを見てる目が、優しすぎた。
自分じゃない誰かを想ってる横顔に、気づかないふりをするのがやっとだった。
だから明日は、
「お疲れさま」って言って、
「卒業おめでとう」って笑って、
写真を1枚だけ撮らせてもらって、
何も言わずにバイバイする。
それが、俺にできる精一杯の“好きの終わらせ方”。
スマホを開いて、
ぷりちゃんとのトーク履歴をスクロールする。
会話はすぐ終わった。
最後にLINEしたの、たぶん2ヶ月くらい前。
tg ……意味ないよな、今さら
何か言いたくて、でも言えなくて、
俺はスマホの画面を伏せて、膝に顔をうずめた。
会えなくなる。話せなくなる。
でも、好きだって伝えたら、
もっと会いたくなってしまう。
だから言わない。伝えない。
そのまま、終わらせる。
俺の胸の奥で、何かが少しだけ軋んだ。
──それでも、笑わなきゃ。
「おめでとう」って、ちゃんと笑わなきゃ。
そう思いながら、
俺は、明日の制服にアイロンをかける音を聞いていた。
……そのとき、ポンッと鳴ったスマホの通知音。
画面には、たったひとこと。
「ちぐ、明日、ちょっとだけ会えへん?」
──送り主は、ぷりちゃんだった。
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