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レイニルが妃となって10日もすれば、シャインとの添い寝も慣れてきた。
朝になって目が覚めると、今日もレイニルは抱き枕のようにされてシャインの体に包まれていた。
「シャイン、朝です。起きてください」
そしてレイニルが目を覚ます時は、すでにシャインは起きていると知っている。シャインはいつも目覚めが早い。
名残惜しそうにレイニルを抱いているシャインの腕から逃れて、レイニルはベッドから下りると窓へと向かう。
そっとカーテンを開くと、差し込んできた朝日が眩しくて思わず目を細める。
「今日もいい天気ですね……はぁ」
こんなにも快晴なのにレイニルの心は晴れるどころか憂鬱でため息が漏れてしまう。
今日も雨が降る気配は全くない。10日も雨が降らないと、いよいよ不安になってくる。
シャインが雨女の能力を吸収しているのかと思うほどに、彼の陽のパワーは凄まじい。
「なんだ、いい天気なのに、ため息をつくな」
いつの間にかシャインが隣に立って一緒に窓の外を眺めている。彼の髪のオレンジ色が朝日を浴びてキラキラと輝いて、まさに太陽の化身だ。
それにシャインには何の不安もないのだから明るいのは当然だ。水はアメリア国からの輸入で足りている。雨が降らなくても離婚する気などない。
ただ、1つだけ……もしレイニルが30日経っても本気でシャインを愛さなければ、その時は離婚するしかないと考えている。
全てはレイニルの心次第であった。
「よし。レイニルの元気が出るように、小旅行に行くぞ」
「え? 旅行……ですか?」
「あぁ。新婚旅行だ」
レイニルは少し驚いた顔をしたが、嬉しいはずなのに素直に喜べなかった。まだ離婚の可能性があるのに新婚旅行なんて気が早いと思う。
シャインはすでに離婚する気などないが、レイニルは素直な上に鈍感で駆け引きの意図に気付かない。
レイニルは、未だに契約結婚はシャインにとっては遊び感覚で、本気で愛されてはいないと思い込んでいた。
「……あの、それでしたら、ローサお姉様とヘリオス様もご一緒に行くのは、どうでしょう?」
「は? 何を言っている? オレたちの新婚旅行だぞ?」
シャインは当然、二人きりで行きたい。しかしレイニルにとっては現時点での二人きりの新婚旅行は重すぎる。
さらにレイニルは、なぜか他人の事になると少し強気になる。
「私、先日の件で思ったのです。ローサお姉様が雨女を名乗ってまでヘリオス様を追って……お姉様のヘリオス様への愛に感動しました」
……いや、それはシャインがレイニルを取り戻すために利用しただけなのだが、レイニルには美しい恋物語に見えたようだ。
しかしヘリオスはローサを愛していない事を知っている。だからこそレイニルはローサの幸せを願って、二人を両思いの形で無事に結婚させたい。
つまりレイニルは、ローサとヘリオスをくっつけたい。
「はぁぁ……レイニル。お人好しにも程があるぞ」
今度はシャインが頭を抱えてため息をつくが、次に顔を上げると、もうそこにレイニルの姿はなかった。
同時刻、ここは同じ城の一室。シャインの部屋ほどではないが煌びやかな装飾の家具に囲まれている。
そんな優雅な貴族の部屋では朝から修羅場が繰り広げられていた。
「ちょっと!! なんであなたが一緒に寝てますのよ!?」
「仕方ねーだろ、ベッドが1つしかねぇんだから」
「なら床でお眠りなさい!!」
ローサは片足で多いっきりヘリオスを蹴り飛ばしてベッドから落とした。ここはヘリオスの部屋だがお構いなし。仮にも婚約者なのに一緒に寝る事は許さない。
城に住みだしたローサに個別の部屋は与えられなかった。これは婚約者だからというシャインの気遣い……いや、嫌がらせかもしれない。
ネグリジェ姿のローサはベッドを椅子のようにして座ると、足と手を同時に組む。
「分かってますの? 私がシャイン様を落として、あなたがレイニルを落とす計画でしょう」
ヘリオスもローサの隣に座ると、同じようにして腕を組む。
「あぁ、あの雨女にはキスしたぜ」
「あら。手が早いですわね」
愛し合っていない二人は、お互いが何をしようと全く気にしない。しかしなぜかヘリオスはローサの顔をじっと見つめている。
「……なんですの?」
「なぁ、やっぱり、お前が雨女なのか?」
「失礼ですわね。レイニルと一緒にしないでくださる?」
しかしヘリオスは先日の件で疑いを持っている。レイニルがアメリア国に連れ去られて不在の時にサンディ国に雨が降った。
という事は、レイニルは雨女ではないのかもしれない。ヘリオスはサンディ国の王となるために本物の雨女を娶りたい。
ローサが雨女である可能性も捨てきれない今、ヘリオスはローサもキープしておく必要がある。
ヘリオスは腕を解くと、ローサの両肩を掴んで強引にベッドに押し倒した。
「きゃあっ!?」
ローサはヘリオスに押し倒された事なんてない。シャインに似たヘリオスの金色の瞳はローサの心を捉えるには充分すぎるほどに魅惑の輝きを放つ。
本気でヘリオスがローサを落としにかかれば容易いのかもしれない。単に今まではローサがそれをプライドで拒んでいただけの事だった。
「ローサちゃん、キスしようぜ」
「は? え? 冗談言わないで」
「冗談でキスしねぇよ」
真剣な顔で言われてしまっては、さすがのローサも心と体を誘導されてしまう。正直、ヘリオスの容姿は好みだ。王弟でなく王なら喜んで結婚していた。
ローサがシャインと結婚したいのは、単なるプライドと意地でしかない。同じ顔なら王と結婚したい。
ヘリオスも同じでローサの美貌には惚れているが、似た容姿なら雨女レイニルと結婚したい。ヘリオスが王になりたい理由も単なるプライドだった。
「別にいいだろ、キスくらい。婚約者なんだし」
しかしヘリオスは、自分が王になりたいという野望だけはローサにも伝えていない。だから状況は複雑化する。
プライドさえ捨てれば、実は理想の結婚相手だという事にお互いが気付いていない。
(だ、だめですわ、ローサ……私はシャイン様と結婚するのですわ……)
自分に言い聞かせながらも、ローサは目の前と現実に迫るイケメン王子を完全に拒みきれない。実は、まんざらでもない。
その時、ノックもなしに部屋のドアが勢いよく開かれた。ローサとヘリオスが同時に目を見開くも、それよりも早く誰かが寝室に入ってきた。
「あ……ローサお姉様……ヘリオス様……」
なんと、その人物はレイニルだった。そして目にしたのは、ベッドに押し倒されたローサがヘリオスと唇を重ねる寸前のシーンだった。
地下牢暮らしだったレイニルは、ノックしてから部屋に入るという常識なんて知らない。そして勝手に寝室に入る事すら躊躇わない。
完全にラブシーンを目撃してしまった状況で誰もが身動きせずに、この部屋の時間だけが凍りつく。
しかしレイニルの思考はすぐに動きだした。そして二人が両思いの熱愛である事を心から喜んだ。
「ご一緒に旅行に行きませんか?」
この状況の中で、レイニルは天使のような笑顔で二人を旅行に誘った。