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#溺愛
舞い上がる粉塵の向こうから三つの影が現れた。
「……っ」
先頭に立つのはアレク。その目には、凄まじい怒りが宿っていた。 その背後には、冷ややかな笑みを浮かべるレオンと、氷のような眼差しのフローラが控えている。
「……お姉さま!」
フローラの声が響いた。 その瞬間、緊張がふっと解け、喉の奥から熱いものが込み上げてきた。
(みんな……来てくれた。助けに来てくれたんだわ……!)
「な、なんなのよあなたたちは! 警備兵! この不届き者たちを今すぐつまみ出しなさい!」
ヒステリックに継母は叫ぶ。
「黙れ」
アレクの低く、静かな一言。それだけで、会場の温度が数度下がったかのように空気が凍りついた。無理やり私を押さえつけていた兵士たちが、ぱっと私の腕を放す。
「……その汚れた手で、バイオレッタに触れるな」
アレクが私を引き寄せ、背後に隠すように庇った。
隣にいたギルダスは、もはや言葉も出ないほどにガタガタと震え、膝から崩れ落ちる。
「おい、お前。命が惜しいなら、この婚姻の無効を今すぐ宣言しろ。……分かっているな?」
「ひ、ひいい……わ、わかりました! 無効です、全部白紙ですぅ!!」
(うわ……情けなすぎるわ、この男)
続いて、レオンが優雅に、けれど一切の逃げ道を断つ冷徹な声音で告げた。
「誘拐に加え、強制結婚……。この国では立派な重罪だねえ。……、ウィステリア伯爵夫人、なにか言い訳はある?」
「ち、違いますわ!ここには正式な結婚許可証がありますのよ……!バイオレッタも同意して……!」
継母が書類を差し出した。
「……バイオレッタ。これに自分でサインした?」
レオンの問いに、私は冷え切った目で継母を見据え、即答した。
「するわけないでしょ。それに筆跡が私のものではないわ」
「――決まりだね」
レオンがパチンと指を弾いた。
「リュミエール王国第二王子、レオン・リュミエールの名において命じる。この卑劣な犯罪に関わった者全員を、直ちに捕らえよ」
その背後で、フローラが静かに、けれど苛烈な殺気を込めて手をかざした。
――ズズズッ……!!
床の石畳を突き破り、黒い棘を持つ茨の蔦が蛇のように伸びる。逃げようとする継母やその手下たちの足を絡め取り、会場に悲鳴が響き渡った。
「……よくもお姉さまに、こんなひどい仕打ちを。……絶対に、絶対に許しません!!」
微笑むフローラの瞳には、一切の光が宿っていなかった。
***
「ソル、騎士団本部にこれを届けて?」
レオンが首元の宝石に触れると、光が弾けた。
現れたのは、小型犬ほどのユニコーンの幼体――プリズム。慣れた手つきで、封蝋付きの手紙をくわえさせる。
「頼んだよ」
ひと声かけると、ソルは金色の軌跡を残して空へと駆け上がった。
そして、ほんの数分後。光とともに、スクロールで転送されてきた王室騎士団がなだれ込んできた。継母たちは文字通り“一網打尽”にされ、連行されていった。
安堵のせいだろうか、それとも魔法薬が身体に残っているせいか。視界がぐらりと歪み、膝から崩れ落ちそうになる。鉛のような重だるさが全身を支配していた。
倒れそうになった私の身体を、支えたのは――アレクだった。彼は自分の黒い上着を脱ぎ、私の肩にかけた。
「……大丈夫か。遅くなって、すまなかった」
耳元で響くアレクの声は、ひどく掠れていた。その大きな手が、微かに震えているのが伝わってくる。
「……いいわよ。ちゃんと、助けに来てくれたんだし」
アレクは耐えきれないように私を強く抱き寄せる。彼の鼓動が、私の胸にまで響いてくるようだった。
「……お前を、また失うかと思うと……どうにかなりそうだったんだ」
(……え? なにそれ。『また』って……。アレク、一体何を言っているの……?)
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