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今日はなんでも無い日だった。
何時も通り部活動に励み、
皆と話して、道化を演じて、独りになる
両親は共働きで殆ど家に居ないし、少し人肌恋しくなってしまう
普段クラスの皆や友人たちの前では明るいし、本当に心から愉しいのだが、その分一人の時間がなんとも惨めだ。
余りにも暇を持て余していたからか
何処か、俺でも知らない何処かにフラリと行ってみたかった
僕は所謂受給者だ。
つまり、供給者から栄養を貰わないと生きていけない
そんな生活が少し、嫌だった
もう真昼の12時だからか。何時にも増してジリジリとした直射日光に魘われる
ジメジメとした熱気とそよ風が額の汗を煽り、太腿の内側はむわっとして暑苦しい
そんな事が気にならないくらい胸が苦しいのはきっと、
それよりも何よりも一番想定しておらず、
「ドス君、、、、?」
今は一番会いたくない人が何故か此処に居るからだ
「ゴーゴリさんこそ、どうしてこんな時間に?
貴方、部活動の時間じゃないですか。」
我が供給者。フョードル・ドストエフスキーこと
ドス君がゆっくりと此方を振り向く
「、、、、、、、、、こんなに蒸し暑いものだから。
ほんの少しだけそよ風を浴びたくてね」
「へえ、、、、、、そういうことですか
それでは、僕も御一緒しますよ」
「それで何で海なのか、聞いていいかい?」
彼は普段は気難しい顔を物珍しく和らげ手で口元を隠した
「ふふ、大した理由はありませんよ」
眼の前に限りなく広がるコバルトブルーとも藍色とも表せない自然が産み落とした絶景に
僕らの歩みは止まり、当然とも言えるほどの沈黙が迸る
「何で僕は、産まれてきたんだろうね
何故、受給者として人生を送らなきゃいけないんだろう」
その風景に絆されてしまったのからなのか。
ふと普段の私では有り得ない問い掛けが口から零れ落ちる
「、、、、、少なくとも僕は今の平凡な人生に満足していますし、供給者である事も悪くは思ってませんよ?」
割と予想だにしていなかった返答が返って来た為。まじまじと目を丸くして彼を見つめる
彼は、と言うと専ら漣の音に耳を貸し、
太陽の光に照らされ、その一つ一つがまるで宝石の様に光り輝く石ころが現れては消えてゆく光景を目に焼き付ける様に眺めていた
そんな黄昏れている彼を他所に、
海の家で瑠璃に煌くラムネ瓶を二本購入し、やや駆け足で彼の元へと帰る
「御気遣い、ありがとうございます。」
靭やかな指が器用にラムネ瓶のビニールの包装を解いてゆくカランとA玉が落ち、少し汗ばんでいる上下する喉仏に目線を奪われていた
「しょうが無いですね」
またラムネ瓶に口付けをしたと思えば、僕の顎を支え、そっと口移しする
体温で微温くなったラムネは昂る心拍と
勢いを増す日光に更に熱せられ、炭酸が飛ぶ
其れをゆっくり呑み込むと彼は今度こそ物足りなくなった唇に
真夏には似合わない熱烈で溶けて仕舞いそうなキスをする
突然の其れに少し力んでしまったが、数十秒経てば慣れるもので、彼に呼応するかの様に卑猥な水音と共に腔内を犯す舌に自身の舌を絡ませた。
「ん、はっ、ぅ、あ」
身体の何処かが満たされる感覚に
本能的に痺れる様な悦楽を感じる
少し息切れた儘、ふにゃりと微笑んだ。
嗚呼、この思いを伝えられない。
だなんて不器用何だろうか、
彼は受給者である事に不安を感じている
そんな事にはずっと昔から気付いていた。
パートナーである供給者は誰になるか何て
解り様も無いし、死ぬ迄変えられないのだから当然の事だろう。
それに反して僕は、一日に一回だけの接吻が面倒だと思いつつ、
何処か嬉しくもあった。
この感情がどう言う物なのかは知る由もないが、
彼の微笑みを見ると、少しだけ心が安らぐ気がして
真夏の太陽よりも明るい貴方が僕で出来ている。
そんな気がして、割と満更でもなかった。
「ゴーゴリさん。
僕と付き合ってくれませんか?」
目線こそは合わせて居ないが、ゴーゴリさんはまるで恋い焦がれる乙女のように
もじもじとした恥ずかしがる様な様子で口を開いた
「僕も、その、フェージャが、」
人生で最初で最後であろう思い人に、
何故だが途轍も無く胸が苦しくなってしまう。
聡明な彼ならば今のこの感情をなんと名付けるのだろうか。
どうせ、彼を傷付けて仕舞うのならば
失望されて、捨てられて仕舞うのならば
波打つこの海の様な硝子にこの夏を仕舞い込んで、ずっと、ずっと此の儘でいたい。
不覚にもそう。思ってしまったのだ
一晩を越した後の午睡の様な、夢心地の様なふわふわした優しい気持ちを、
犇々と純情を蝕むこの孤独を、
此のB玉の様に永遠に閉じ込められたら良いのに
そんな馬鹿げた驀然な不安を払拭するかの様に彼は少し湿った僕の頬を撫でた。
「僕の恋人になってくれますか?コーリャ」
「え、あ、いや、、、、いい、よ/////」
「本当に、良かった、」
そのまま僕らは、人生で初めて、生命維持活動以外で接吻をした
それはとても心地の良い物で自然と少しいつもの調子に戻れた。
「ちょっと、どすくん?ふふ、くすぐったいよ」
付き合ったのが余程嬉しかったのか
ほんのちょっぴり痛いくらいにドス君は僕の身体を抱きしめた
それが嬉しくて嬉しくて、夢じゃない事をそっと心で祈った