テラーノベル
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「初兎〜、今日は0時になったら何聞こうかな〜……」
いふはいつものように、初兎の部屋をノックした。
返事はない。
「……寝てる?」
扉を開けると、灯りの落ちた部屋で、ベッドの上に小さく丸くなった初兎の姿があった。
(……ああ、寝ちゃってる)
規則正しい寝息。
毛布をぎゅっと握る手。
わずかに見える首元。
いふは、ふっと笑った。
「ほんと油断してる顔してんな……」
—
時計の針は、まもなく0時を指す。
いつもなら“本音しか言えない時間”。
でも、今夜は静かだった。
「……ねえ、初兎。聞いてるわけないって分かってるけどさ」
ぽつりと、いふが言葉を落とす。
「おまえの本音、いつも可愛くて、ドキッとするくらい真っ直ぐでさ。ずるいよな」
初兎の寝顔を見ながら、そっと手を伸ばし、髪を撫でる。
「俺の本音、あんまり言えてないかもしれない。聞き役ばっかやって、ずるかったなって思う」
「……でもね、ほんとに好きなんだよ。誰よりも」
「おまえが照れるの見るのも、拗ねるのも、甘えるのも、ぜんぶ。愛しくて仕方ない」
(チン)
0時の音が、静かに鳴る。
初兎は目を覚まさない。
「本当は……いつかおまえに、俺の本音だけの時間をあげたいんだ。1時間じゃ足りないくらい、ずっとずっと、俺の想いだけを聞かせたい」
「……こんなこと言ったら、明日おまえ照れて逃げるかな」
—
やがて、いふは毛布をそっとかけ直し、ベッドの端に腰を下ろす。
「でも、明日また『おはよう』って笑ってくれたら、それでいいや」
初兎の手を、そっと握る。
伝わらないことは分かっていても、それでも触れていたかった。
「……おやすみ、初兎」
—
初兎視点
まつげ一本、動かすのも必死に我慢していた。
いふの声が、すぐ近くで聞こえる。
それは、優しくて、少し照れくさそうで、そして、
あまりにも真っ直ぐな“好き”だった。
「ほんとに好きなんだよ。誰よりも」
(……うそ、そんなの……聞いたらもう、平常心じゃいられないよ……)
さっきまで普通に寝落ちしてたのに、ドアの音といふの気配で目が覚めた。
でも起きるタイミングを逃してしまって。
そして——まさか、いふがそんな本音を、すぐ耳元でこぼしていくなんて、思わなかった。
「俺の本音だけの時間をあげたいんだ。……1時間じゃ足りないくらい、ずっとずっと、俺の想いだけを聞かせたい」
(……だめだって。そんな、ずるいよ、まろちゃん)
顔を見られたらバレてしまう。
だから、ぎゅっと目をつぶって、体を少しだけ丸めた。
(でも……嬉しい)
胸がぎゅうっとなって、苦しくて、なのに笑い出しそうで。
好きだって想いが、溢れて溢れて止まらなかった。
翌朝
「初兎〜、おはよ。昨日さ、寝ちゃってたよな?」
「……うん。全然、覚えてない」
心臓がドクンと鳴る。
嘘をつくのは、ちょっと苦手だった。
「そっか。じゃ、また0時になったら……いろいろ聞かせてもらうからね?」
「……うん。まろちゃんのことも、いっぱい聞かせてね」
言いながら、初兎は、
昨日の言葉を頭の中で何度も繰り返していた。
(“俺の想いだけを聞かせたい”って)
(……じゃあ、今度は俺が、聞き返す番だ)
—
夜になったら、今度は自分から部屋に行こう。
それで、今度こそ「聞いてた」って言ってしまおう。
そして——
「俺も、ずっとずっと好きだよ」って。
ちゃんと、自分の声で伝えよう。
おまけ(いふの日記)
✅初兎寝落ち→本音こぼした
✅起きなかった
✅たぶん……バレてない。たぶん。
✅でも朝、初兎がなんか妙に優しくて……これバレてるか?
✅怖い
✅でもそれも可愛いからOK(?)
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