テラーノベル
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父は無言で車を走らせる。その沈黙が、千歌には重く、冷たい壁のように感じられた。
——こんなにも楽しかったのに、どうして父のせいで心が締め付けられるんだろう。
千歌は握りしめた鞄に、凪との時間を思い返す。
父の手はハンドルをぎゅっと握りしめ、目は前方を真っ直ぐ見つめている。
車内の沈黙が重く、千歌の心を押しつぶすようだった。
——凪と過ごした時間が、余計に遠く感じられる。
——笑顔も、声も、今は思い出だけになってしまう。
千歌は小さく息をつき、窓の外の街灯をぼんやり見つめた。
「……どうして、楽しい時間がこんなに苦しいんだろう」
心の奥でそう呟くと、指先が鞄の縁をぎゅっと握りしめた。
父は何も言わず、ただ車を走らせる。
千歌は息を殺しながら、凪とのほんのひとときを思い返す。
——あの笑顔を、もう少しだけでいいから守りたかった。
車内の冷たい空気の中、千歌の胸には切なさと後悔だけが重く残った。
でも、父の影から逃げられないことも、痛いほどわかっていた。
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