教室についた俺は自席につき、スマホを触りながら心を落ち着せていた。
(あの宇野影人と話すことになるなんて…..なんか…印象変わったな。)
そう。俺は周りの話を鵜呑みにして、宇野に苦手意識を持っていた。イケメンとか、背が高くてスタイルがいいとか、自分にはないものばかりで、心のどこかで妬んでいたのかもしれない。
ほんの少しだけだけど関わって分かった。宇野は案外優しくて、多分良い奴。
今後宇野が困っていそうだったら、力になれたらいいなと思う。
……ただまぁあいつといると目立ちすぎるので、極力関わりたくないけど。
5分ほどスマホでゲームをしていると、何やらうるさい足音が廊下から聞こえてきた。
「ゆーーひ!!!!お前大変だったんだってなぁ!!」
走った勢いのまま俺にぶつかってきたこいつは、中学からの親友である磯山 悠(いそやま はる)だ。
「いってぇ….ん?大変だったって何が?」
「いやいやとぼけんなって!!お前あの宇野影人に目ぇつけられたんだろ?!!」
「…あぁさっきのか…」
あそこには当然、大勢人がいたので、恐らく宇野ファンの女子たちが騒ぎ立てているのだろう。
「やっぱほんとなのかよ?!」
「もー落ち着けって悠!!あれは目付けられたとかそういうんじゃなくて、俺が名簿見れなくて困ってたから宇野が助けてくれただけだって。」
俺の話を聞いた悠はぽかんと口をあけてしばらく思考停止していた。
「え?悠?大丈夫?」
「….っっくりしたぁあ、お前ちびだし可愛い顔してっから襲われたんかと、、」
「あのなぁ、チビ…は認めるけど可愛くもねぇし何よりさっきから目付けるとか襲うとか、宇野のことなんだと思ってんだよ」
相変わらずリアクションのでかい悠が可笑しくて、つい吹き出してしまう。アホだから言葉選びが苦手なだけで、恐らく悪意は全くない。それが余計に可笑しい。
しばらく悠と談笑していると、教室の後ろドアが開き宇野が入ってくる。宇野は俺の1個前の席なので、ちょうど今悠が無断で座っている座席だ。
無言で自席の横に立ち悠を見下ろす宇野と、アホすぎてなんで自分が見つめられているか気づかずひたすら青ざめる悠。2人の空気感が妙にツボに入って、俺は空気も読まずゲラゲラと大笑いしてしまった。
「ちょっ優光!!!!!何これなんで!!?」
と悠が慌て始め、さすがに可哀想だったのでそこは宇野の席だと教えてやる。
「そういうことか!!!!すみませんでした!!」
そういうと、悠は足早に自席に戻った。
宇野は無言のまま座ったが、数秒後こちらを振り向いた。
「……仲良いの?」
「え?まぁうん、中学から…..。なんで?」
単純に、宇野がやたらと俺に絡んでくる意味がわからなかった。
「いや別に…..ていうか、影人でいいよ。」
「え??」
と情報を処理しれていない内に、宇野と仲のいいイケメン2人が教室に入ってきた。
「かげおはよー、見事に3人離れたなー、、」
「お前らがやらかしすぎたせいだろ」
「俺まで一緒にすんなしー」
会話の途中だったせいで、宇野はこっちを向いたまま話しているし2人は宇野の視線に合わせるようにして俺の両脇に立っているし、俺はどうしたらいいのか分からずとりあえず廊下に出ようと立ち上がった。
すると宇野はまた俺の腕を掴んだ。
「….話の途中」
(デジャブ!!!!!!!!話を遮ったのはお前の方だろ!!!)
なんて言える訳もなく大人しく席に座る。
すると入ってきた2人のうち1人が俺の顔を見るなり言った。
「目でか!まつげ長!!君ほんとに男???」
「失礼!!!!!男ですけど?!!!」
悠から言われるのは慣れているから例外だが、人から”可愛い”と言われるのは俺にとって地雷なのだ。
「うぉっごめんごめん、おもしろいなあ」
そんな言葉とは裏腹に、笑いすぎて涙を目に浮かべている。
「俺、川瀬 琉夏(かわせ るか)!よろしくね?」
川瀬、という名前は、女子たちが話してるのを聞いたことがある。抜群のスタイルにカワイイ系の顔が人気らしい。
「よろしk…」
よろめいて体制を崩すと、すかさずがっしりとした逞しい腕が俺の体を支えた。
「大丈夫か?!って細すぎだろ、食ってんのかこれ」
鍛え抜かれた筋肉といかにも男前という感じの、袴や甚平の似合いそうな人だ。
「ありがとう…..って食ってるわ!!!!まだ成長来てねぇだけ!!!な!!!」
と反論すると、こちらもゲラゲラ笑いだした。
「ごめんな、わかったわかった。俺は倉井 勇(くらい ゆう)。よろしく。」
倉井、、というのは1番聞き覚えがある。男女両方からとてつもなく好かれていて、紳士で天然なところがたまらない、と毎日どこかしらで告白されている。
「お、おぉ、、。よろしく。俺は…」
と言いかけると、川瀬が微笑みながら言った。
「ああいや知ってるよ、優光ちゃんでしょ?」
「合ってるけど合ってねえよ!!!」
俺がツッコむと川瀬はまた大笑いした。
「いやーほんといい友達できた、おれ優光ツボだわ」
「同感。」
と川瀬&倉井ペア俺の肩を叩く。
すると俺たちのやり取りを黙って見ていた宇野が急に立ち上がり俺の腕を引っ張った。
「ゆ…………..来橋….は何部….?」
いや今聞くのそれ?という心の声は抑えた。
川瀬がにやにやしながらこっちを見て、
「やーっとアタックし始めたかぁ」と満足気に言った。
その言葉の意味がいまいち分からず、モヤモヤしたまま俺は忙しい日々のスタートを切った。
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