ある日の夜、先生はホシノのパトロールに同行していた。
ホシノ「うへ〜夜のパトロールにまでついてこなくてもいいのに〜」
正直、私は嬉しさと先生が襲われたりすることに対しての心配の気持ちで半々だった。ただでさえ夜は危ないのに、先生がついてくるなんて危険極まりない。
先生「いやぁ、やっぱりホシノが心配になっちゃう時もあるからね。それに毎回一人でっていうのも危ないでしょ?」
ホシノ「先生だって危ないでしょ。もし襲われたりしたらどうするのさ?」
本心。いつもより強い口調になってしまったことを少し後悔する。
先生「その時はホシノが守ってくれるでしょ?私はホシノを信頼してるからね。」
その言葉に少し驚いたが、自然と笑みが溢れた。先生に頼られているのが素直に嬉しかった。
ホシノ「う、うへ…そう言われるとちょっと照れちゃうな〜。あ!そうだ、ちょっと先生に見せたいものがあるんだよね〜」
そう言って私は先生の手を引っ張ってアビドス砂漠の方まで駆け足で連れて行く。
先生「ちょちょちょ、転ばないようにね??」
ホシノ「よーし、着いた。先生?上を見上げてごらん?」
先生「わぁ…キレイ…」
空には満天の星空が広がっていた。いつもパトロール中に見ていた星空が、いつもよりも綺麗に見えた。先生がいるからだろうか?
先生「ところでさ、ホシノ。砂漠のここまで来ても大丈夫なの?戻れなくなったりしない?」
ホシノ「大丈夫大丈夫。コンパスがあるか…ら………」
あれ……?
嘘……!
たしかにここに入れていたはずが……無い?
落としたか?どこで?さっき先生の手を引っ張って走ったとき?それとも最初から忘れてきていた?
先生「ホシノ?どうし─────────
その時、突然の砂嵐が私達を襲った。
ホシノ「!? 先生!伏せて!」
なるべく怪我をしないよう、砂嵐が収まるまで先生に伏せているよう指示する。
まずい。
先生にだけは傷をつけさせたくない。
どれほど経っただろうか。やっと砂嵐が収まった。
ホシノ「先生!?大丈夫!?」
先生「けほ、ケホケホ…う、うん…なんとか…」
よかった。先生は無事だ。
ホシノ「ごめん…私がここに連れてきたせいで…」
本当に申し訳なかった。私が先生に星を見せようとしなければ。砂漠の奥まで来なければこんなことにはなっていなかった。
先生「そろそろ帰ろうか。またいつ砂嵐が起こるか分からないからね。」
先生の言葉に胸がズキッと痛む。
ホシノ「その…先生。実は…コンパス……落としちゃった…みたいで……。それに…地形も変わっちゃって…どこから来たのか分かんないんだ………。」
先生「…………え?」
私達は遭難した。
───遭難1日目
先生「大丈夫。ホシノが気にすることじゃないよ。砂嵐が起こったのも、遭難しちゃったのも、全部ホシノのせいじゃないから。」
励ましの言葉が痛かった。私のせいではないと言われても、どうしても自分が許せない。
しかも今は夏。この間見た天気予報では過去最高気温を記録すると話していたのを思い出した。
ホシノ「ごめんなさい…先生…本当に…。」
先生「大丈夫だよ。きっと助けが来る。それに、優秀な後輩たちが見つけてくれるよ。」
先生は優しい。明らかな私の落ち度を私のせいじゃないと言ってくれる。でも、それは気休めにしかならない。優しい言葉をかけてくれようが助けが来ないことにはなにも始まらないのだ。
先生「そうだ、ちょっと水、もらえるかな?」
ホシノ「う、うん…分かった、先生」
水も、万が一のとき用にもっていた500mlの天然水1本だけだ。それに、食料のないこの砂漠で助けが来るまで生きて過ごせるか怪しい。
しかも、睡眠も砂の上でするしかないのだ。
その日は助けが来る気配もなく終わった。先生は少し体調が悪そうにしていた。
───遭難して2日目
先生は疲弊していた。キヴォトス外の人間である先生とは体の強度だけでは無く体力も全然違うということを思い知らされた。
先生「ホシノ…水…あるかな……?」
先生の声はかすれていて聞こえづらかった。
ホシノ「えっと…さっき飲んだので全部…ごめん……」
先生は一瞬落胆したような表情を見せたが、すぐにもとの顔に戻って全然大丈夫と言った。
大丈夫な訳がない。昨日よりも顔色は悪いし、動きも鈍い。
ホシノ「本当にごめん……先生…先生はじっとしてて。なるべく動かないようにして」
余計な体力を使わせたくなかった。こんなところで体力を消耗させていたら、すぐに…すぐに……。
先生「大丈夫だよ。ほらホシノもしっかり休んで。体力を使っちゃいけないよ。」
自分が命の危機だっていうのに、こんな時まで人の心配をして。
夜になっても私は全然寝付けなかった。怖かったのだ。大切な人がまた一人自分の前から居なくなってしまうのが。私のせいで、私が失敗したせいでまた一人失ってしまうかもしれない。そう考えると寝れるわけがなかった。
だが、流石に寝ないわけにはいかない。
私は強引に自分を寝かしつけた。
先生はまだ起きていた。
───遭難して3日目
次の日起きると、私もかなり体力の限界が来ていた。当たり前だ。昨日は全く寝れなかった。
ふと横を見ると、いつもは起きている先生がぴくりともせずに寝ている。
ホシノ「先生…起きて…朝だよ…先生?」
……返事がない。
強く体を揺すってみても全然起きないどころか動く気配もない。
まさか……いや、そんな訳はない。先生が…死…いや、そんなことありえない。あってはならない。
ホシノ「先…生……?ねぇ、目を開けてよ、先生!」
その瞬間、勢い良く先生が起き上がった。
「あ、おはようホシノ。ごめんね、ちょっといつもより寝るのが遅かったから、起きるのも遅くなっちゃったみたい。」
嬉しさと安堵が同時に押し寄せてくる。良かった、先生は死んでなんていなかった。そう、死んでなんていないのだ。
ホシノ「よかった…本当によかった……あ!そうだ先生、落ちてた水を見つけたんだよ!ほら、早く飲んで!」
「いや、大丈夫だよ、私はもう水はいらないから、ホシノが飲みなよ。」
先生は私の事を思ってか水を飲まない。
ホシノ「私はいいから、ほら、先生早く飲ん────
その時、誰かの声が聞こえた。
???「ホシノ先輩!!先生!!どこにいるんですか!?」
この声は…アヤネちゃん…?
助けが…やっと……!!
ホシノ「先生!助けが来たよ!アヤネちゃん!!私達はここにいるよ!!!」
アヤネ「!! みなさん!ホシノ先輩の声がしました!…………はい!あっちからです!」
やった…これで戻れる…アビドス高等学校に…
ホシノ「先生!やっと助かるよ!アビドスに戻ったら、水も飲んで、ご飯もいっぱい食べて…」
セリカ「いた!!!」
アヤネ「ホシノ先輩!!」
ノノミ「探しましたよ!!」
シロコ「ん、コンパスを忘れていくなんて論外」
みんなの声が背後から聞こえる。顔を想像してみようか。怒っているだろうか。泣いているだろうか。
ホシノ「先生、じゃあ…帰ろうか?」
その後、私はみんなに引っ張られてアビドスまで戻った。
ホシノ先輩を見つけたとき、本当によかったと思った。この猛暑の中、水もまともに持たずにどこに行ってしまったのかと思っていた。ただ問題だったのは、先生が見えなかったことだった。先輩が先生に向かって話しかけていたから、先生がいるものだと思っていた。
でも…それは違った。
先生はすでに亡くなっていた。砂漠の中で倒れ込み動かなくなっていた。この猛暑の中、生き延びることはできなかったようだ。おそらく先生のことだから水は全てホシノ先輩に譲っていたのだろう。前にいたセリカちゃんも、後ろから来たノノミちゃん、シロコちゃんもその事に気づいて、安堵の表情が一瞬で消えて無くなった。
そんなとき、ホシノ先輩が先生に一緒に帰ろう、と言った。そしてその後自分で「分かったよ、ホシノ」と返答していた。意味がわからなかったが、あまり時間が立たないうちに理解できた。ホシノ先輩は先生の死を受け入れることが出来ていなかったのだ。自分のせいで先生を失ってしまった事実を受け入れずにいたのだ。セリカちゃんが先生のもとに駆け寄って、涙を流し、先生の名を呼ぶ。するとホシノ先輩が「どうしたの?セリカ?」と言った。先輩は先生になりきることで先生がまだ生きていると自分に暗示をかけているようだった。
セリカ「ふざけないでよ!!ホシノ先輩!!!先生は…先生は……!!もう生きてないんだよ!!」
ホシノ先輩がなにも言わなくなったと思ったら、急に過呼吸になり始めた。持っていた砂の入ったペットボトルを潰しながらなにか小声で言っているが、よく聞き取れない。
が、良くない状況だというのはわかった。
アヤネ「ノノミ先輩!シロコ先輩!ホシノ先輩を担いで運んでもらえますか!!」
ノノミ「う、うん!分かった!ほら、ホシノ先輩!行きますよ!!」
シロコ「ん。私はこっちを持つ。」
アヤネ「セリカちゃん、私達は先生を運んでいくよ…」
先生の亡骸。もう干からびていて見るも無惨だった。なんで、こんなことに。
あのあと、連邦生徒会によって、先生の遺体は回収されていった。ホシノ先輩は先生が死んでしまったショックで何も話さなくなってしまった。先生が死んだというニュースはすぐにキヴォトス中に広まり、どこから情報が流れたのか知らないが先生が死んだときそばにいたのがホシノ先輩だという情報も広まってしまった。アビドス校舎には、毎日のように人が押し寄せた。先生を見殺しにしただとか、お前のせいでキヴォトスは終わりだとか、そんなようなホシノ先輩の心を抉るような事を言いに来る奴らが跡を絶たなかった。
数日後、ホシノ先輩はまたいなくなった。が、今回はすぐに見つかった。どうやらシャーレで首を括っていたらしい。遺書は無かった。もう、私達も限界だった。立て続けに大切な人を二人も失った。セリカちゃんは常にイライラしているようだったし、ノノミ先輩は感情が読み取れなくなったし、シロコ先輩は学校に来なくなった。たまに家に様子を見に行くから、シロコ先輩はしっかりと生きているとわかる。
でも、もう疲れた。
なんのために生きているか分からない。
不意に涙が零れだす。
なんで…どうして………?
どうしてこうなってしまったの?
外から浴びせられる罵声にも、もう耐えられない。
もう、楽になりたい。
アヤネ「セリカちゃん、ノノミ先輩、先にいきますね。」
アビドス校舎を出て、私は歩き出した。
─Fin─
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