注意⤵
・病み代出てきます。
以上です(
ここから本編⤵⤵⤵
『類』ショーの片付けも終え、解散した後。少しやりたいことがあるからとステージに残った類の後ろに立ち、声をかける。振り向く類は証明に照らされて、少し眩しく見える。
(……無理、しているよな)
化粧で隠された隈。布などを上手く使って誤魔化されている体型。以前よりも痩せ、細くなっていた。元から細いヤツだった。これ以上痩せても心配なだけなのに、太る気配はなく痩せていくだけだった。
『………類』
「…なんだい、司くん。」
『…演出、凄かったぞ』
「……それは、慰めの言葉かい?申し訳ないけど、僕は慰めも何もいらないよ」
『違う!これは本心だ!』
「…」
『お前の考える演出はどれも、オレを輝かせることの出来る素晴らしい演出で、皆も笑顔にできる。誰かになんて言われようとも、それは変わらない。お前は天才だから、!』
「有難う、心からの言葉として有難く受けとっておくよ」
有難うなんて言うのに、少しも嬉しくなさそうな顔をしていた。今にも泣きそうな、酷く悲しそうな顔。笑顔が減っていってはいたが、こんな顔をするのはなかった。
どうしてこんな顔をしていたかわからなかった。
⭐⭐⭐
あのショーから数日後。委員会で遅くなり急いで帰っているとき、旭さんに会った。今日は仕事がなく、ショッピングモールに出かけていたらしい。手には紙袋を持っている。
「久しぶりだね、元気そうで何よりだよ」
人懐っこい笑顔で挨拶をされ、今までの疲れが少しだけ取れたような気がする。
「そういえば、数日前に君たちのショーをみたんだ」
「みんな楽しそうだし、沢山の人を笑顔にする面白いショーだったよ」
「…あ、そうそう」
「類くんになにかあったのかい?」
『え?』
ショーの感想を聞こうとしていたとき、思い出したような顔をして問いかけてきたので口を閉じたが、予想していなかった質問につい出てきてしまう。
「最近、ここら辺でもゲリラショーしてるの見ないし」
「前のショーの演出も、何だかいつもと違うからさ」
『…違う?』
「うん、あ、演出が悪いってわけじゃないよ?俺は前みたいにはちゃめちゃなワンダショのショーを見てきたから、珍しく大人しいというか、安全?いや、いつも安全だし違う…なんて言えばいいのかな」
言葉に迷ってる旭さんをみて、なんとなくわかった。類の演出はいつも奇想天外で、一見危険そうに見える。でもあいつは安全第一にして考えていてくれるから大丈夫なんだが…。旭さんはいつもみたいな一見危険そうな演出がない、だとか、そういったことを言いたいのだろう。
「うーん、ごめん、上手く言葉にできないや」
ごめんね、ともう1回謝ってきたので大丈夫だと言った。
「君たち、最近忙しそうだしね。ゆっくり休んだほうがいいよ」
そう言って、旭さんとは別れた。休むどうこうの問題ではなさそうだが、確かに休みは大事なのでメンバーにも伝えておこう。
⭐⭐⭐
昼休みの屋上。今日も類がいたのを気に、旭さんに会ったことを話した。
「フフ、あの人は優しいね。」
『ああ、そうだな…なあ、類』
『…演出はもう、考えてくれないのか?』
類は何も言わずに、オレの顔を見つめる。
類はもう、演出を考えてくれなかった。気づいた頃にはそうだった。最初はオレが考えた演出を少し工夫したりなど、ちょっとだけ演出を考えたり。類も少しは関わっていたのに、今はもう関わろうとしていなかった。機械は作ってくれるし練習中にこうしたほうがいいとかアドバイスやダメだしをしてきたりするが、演出に関してはもう口出すことは無かった。本最近のショーで使われている演出は全てオレが考えていたものだ。休み時間なども演出案を考えている姿は見れず、ただ机に身体を預けているのを見るだけだ。
「…すまないね、僕はもう演出を考えるのはやめたいんだ」
『何故だ?』
「君に話しても意味が無いだろうから、話すのは遠慮しておくよ」
『な…!話してもいいだろうが!変わるかどうかはわからないだろう!?そうやって1人で…』
「じゃあ君は、僕が理由を話したら赦してくれるのかい?」
冷たい氷のような視線が突き刺さり、身体が凍る。赦してくれるのか、という言葉の意味がわからず、その言葉を頭の中で繰り返した。
「…君が、僕を赦さなかったじゃないか。」
『…どういうことだ?』
「僕が演出案を考えるのに行き詰まっていたとき、君は演出案を持ってきてくれた。」
『それは、類の力になりたいと思って…!』
「君からしたら、そうかもしれないね…ねえ司くん、今言う事のにかはわからないけど、今言わせてもらうよ」
「僕は演出家を、辞退させてもらうよ」
『…は、?』
『なん、…』
「僕はもう、君達の期待には答えられないから。残っていたって意味が無いんだよ」
『大丈夫だろ、!?今、だけだろ…!?』
『大丈夫だ!類だから、類だから、!だって、お前は天才で、』
「五月蝿い!!」
急に大声を挙げられ、ビックリして体が止まる。悲しそうな顔を必死に手で隠し、身を縮める。180もある大きな奴なのに、今だけは凄く小さく見えた。
「…もう、期待には答えられないんだよ」
『大丈夫だろ、?お前は天才だから…!』
そう言って励ますしかできなかった。
天才だから
それしか出てこない。それしかわからない。正しいかどうかもわからない言葉で、励ますしかオレにはできなかった。それしかできないから、ずっとそうやって励ましてきた。
それで類を追い詰めてることも知らずに
「…天才、?」
『嗚呼!お前は天才だろ?ショーが大好きな、天才演出家で…!』
「それは…いつのことだい、…?」
『いつ、って…』
「僕はもう、”天才”じゃないよ。皆を笑顔にできる演出なんて思いつかないし、今となってはもうショーのことを考えるだけで苦しいんだ。」
「…気づいていないのかい?君の大好きな天才の”神代類”は、とっくに死んでいたんだよ?」
『嘘、だろ?なあ、嘘だって、』
「…嘘じゃないよ、君が”神代類”を生かした。君が”神代類”を強いたんだよ。さっきも言ったように僕はとっくに死んでいた、終わっていた。それを司くんが赦さなかったんじゃないか。」
あの演出案。たった1冊のノート。今までの演出案は初めて類に演出案を提供したときと、同じノート1冊に纏まっていた。つまり、たった1冊のノートで”神代類”という人間をオレは強いてきた。赦せなかった?オレが生かした?そんなはずがないと必死に否定する。
どうしても信じれなかった。オレじゃないと信じたくて仕方がなかった。類はあの天才で変人な”神代類”のままで、オレが赦さなかったという事実なんてなくて。
『嘘だろ、?オレじゃないだろ…?』
そういうことにしたくて、類の言葉を信じようとしなかった。信じたらもう終わりだと思っていたから。
「残念だけど、嘘じゃないよ」
『オレじゃ、ない…オレじゃ…』
涙がポロポロと溢れる。こんなになるなら、知らない方が幸せだったじゃないか。あまりにも酷いと、訴えるように泣き始める。だってオレは、類が幸せになればそれで良かったんだ。
よかったはずなんだ。
「…僕が落ちぶれるのがそんなに嫌だったかい?こんなのは”神代類”じゃない?期待って本当に残酷だね。応えたかったさ、僕だって」
『オレは、類のために……』
「もうダメなんだよ。君の思ってるような人間じゃないから…」
『………オレじゃ、ない…!!』
立ち上がり近づいてきた類を、思わず突き飛ばした。類の身体は床に転がり、ぶつかった拍子にフェンスが派手な音を鳴らす。
「……………」
オレはいつから類をつき飛ばせるくらい、力がついたのだろうと思ったが違った。類は食事も睡眠も摂らなくなり、前よりも痩せ力も弱くなっていた。本当なら類は転ばずに受け止められただろうに。気づいたらもう、こんなになっていたのかと思う。
「……死にたい」
吐き出すようにして出した切実過ぎる言葉は、正確ではないだろう。もうここまでくれば流石にわかる。正しい言葉を当てはめるなら「殺したい」だろう。そんくらい、類はオレを恨んでいるだろう。恨まれてても仕方がない。思われても仕方がないことをしたのだろうから。
『……………本当、か、?』
頑張って出して問いかけた。なんでこんな質問をしたかはわからない。類は答えてくれなかった。
酷い、なんてまた思ってしまった。もう自分がどうしたかったのかもわからないのに、類の気持ちだけは痛いくらいにわかってしまう。それがどうしようもなく辛い。こんなことなら知らない方が良かった、追求しない方がよかった。後悔しても変わらないのに、後悔することしかできない。
コメント
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泣いた(( らめこのストーリー大好きすぎて困るぜ…♡