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side 大森
ライブの熱気がまだ体に残っていた。
会場を出て、やっと楽屋に戻ったころには
三人とも汗と疲れで少しぼんやりしている。
アンコールまで全力で走りきった夜は、
いつもより少しだけ感覚がふわふわする。
それでも、僕は最後まで
笑顔でファンに手を振っていた。
それが問題だった。
いや、正確に言えば、笑顔だけじゃない。
ステージ降りたあと。
若い男性スタッフが
やたら距離近く話しかけていたのだ。
「大森さん、今日の歌ほんとやばかったです!」
その声はまだ耳に残っている。
涼ちゃんも若井も、その場では何も言わなかった。
ただ、 そのスタッフが僕の肩に
軽く触れて笑っていた瞬間。
二人とも無言で視線を逸らしただけだった。
夜。
家に帰ると、 ようやく静かな時間が戻る。
リビングのソファに、三人並んで座る。
けれど、いつもより空気が少しだけ重い。
僕はそれに気づいていた。
なんとなく。
理由も分かる気がする。
でも、 わざと知らないふりをする。
「今日のライブ楽しかったね」
明るく言う。
涼ちゃんが小さく頷く。
「うん」
短い返事。
その横で、若井は腕を組んだまま黙っている。
僕はちらっと二人を見る。
(……あ、やっぱり)
ちょっと怒ってる。
たぶん、 さっきのスタッフの件。
でも、僕はあえて軽く笑う。
「どうしたの?」
その瞬間。
若井の視線が上がる。
まっすぐ。
逃げ場がないくらい。
「今日さ」
低い声。
「距離近かったよね」
僕の心臓がドキッと跳ねる。
「……誰と誰が?」
わざと聞く。
若井はため息をつく。
「分かってるだろ」
その隣で。
涼ちゃんがゆっくり僕の手首を掴む。
強くはない。
でも、 逃げられない程度。
「元貴」
優しい声。
でも少しだけ低い。
「自覚ある?」
僕は一瞬黙る。
そして、 小さく笑う。
「……なに、二人とも嫉妬?」
その言葉で。
空気が変わる。
次の瞬間。
ぐっと腕を引かれる。
僕の体がソファに押し倒される形になった。
上から若井が見下ろす。
距離が近い。
かなり。
「煽るな」
低い声。
怒っているというより、
抑えていた感情が少し溢れている。
僕は目を逸らす。
頬が少し赤い。
「……だって、」
言い訳みたいに言う。
「仕事だし」
涼ちゃんが隣に座り直す。
そして。
僕の頬にそっと触れる。
「分かってるよ」
優しい。
でも、 目が少しだけ鋭い。
「でも嫌」
その言葉はすごく素直だった。
僕は何も言えなくなる。
涼ちゃんは普段、あまりこういうことを言わない。
だから 余計に響く。
若井が少し身をかがめる。
距離がまた縮まる。
僕の呼吸が乱れる。
「俺ら以外にそんな顔すんな」
僕は思わず笑ってしまう。
「そんな顔って……笑」
でも、 その瞬間。
若井が軽くキスを落とす。
ほんの一瞬。
でも、 不意打ち。
「……っ!?」
僕の声が止まる。
涼ちゃんがその様子を見て小さく笑う。
「若井、ずるいよ」
そして。
反対側から僕の肩を引き寄せる。
「僕も嫉妬してるんだけど」
耳元で囁く声が近い。
僕の顔が一気に赤くなる。
「ちょ、ちょっと待って、ッ」
慌てる。
でも、二人とも離れない。
むしろ距離が近くなる。
「今夜は」
若井が言う。
「誰のものか思い出させる」
僕が完全に固まる。
「ッちょ、言い方!」
涼ちゃんが笑う。
「僕も同意〜」
僕は顔を隠そうとする。
でも、 両手を軽く捕まえられる。
逃げ場なし。
「……ずるい」
小さく呟く。
若井が笑う。
「最初に煽ったの誰だっけー??」
涼ちゃんも優しく言う。
「でも」
指先で僕の髪を整える。
「可愛いから仕方ないよね」
僕は完全に真っ赤だった。
でも、 嫌じゃない。
むしろ、 この空気は嫌いじゃない。
むしろ、 少し嬉しい。
嫉妬されるのも。
こんなふうに近くにいるのも。
三人でいる夜は
やっぱり特別だった。