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愛したこの景色にさよならを

この美しい景色を愛してる。この景色の写真を誕生日に撮るのが楽しみだ。本当に美しい。

「ふぅ!これが僕の傑作だ。」

パシャパシャとシャッターをきると深夜零時なはずだ。だが、僕は次の瞬間に目を丸くした。

そこに、小さな少女が一人ぽつんと立っていたのだ。見た感じ、中学一年生位の見た目と身長で家出少女のようにも見える。

近づくと、気配を察知したのかすぐに行動した。

「あ!ちょっと待って!」

「……。」

凄まじいスルースキルを見せられた僕はメンタルをボロボロにしつつ少女を追いかける。走って服に汗が染み出す。久しぶりの軽運動にはぁはぁと声が漏れてしまう。やっと追いついた時には少女は震えていた。もしかしたら、家出ではなく迷子なのかもしれない。お見舞い帰りかもしれない。それにこの近くに家屋があるから勉強の気分転換に海岸に来ただけなのかもしれない。ずっと助けなきゃ、家に帰してあげなくちゃと思っていた。だが、今になってこの少女が置かれてる(僕が勝手に置いた)状況を知らないことに気づいた。

「あ、ごめんね?僕はカメラが趣味なただのInstagrammerだよ。」

「…イン…スタ?」

「あー、知らないよね。一応、フォロワー30万なんだけどなぁ。まだまだだなぁ…」

「お兄さん、私に何の用ですか?」

お、ちょっとは誤解解けた?不審者じゃなくなった?

「こんな深夜零時に何してるのかなぁっておもってさ!」

「家出ですけど?」

あれぇ…なんか、あってたっぽい。だが、少女は続けて質問が飛んできた。

「ちなみに、お兄さんは何故ここにいるんですか?」

「ふぅ…それはね?」

思い切り息を吸って

─────誕生日なんだよね!

と、伝えた。

すると、少女はか細い声と満面の笑みで

「おめでとうございます!」

「あはは…ありがとうっ…!」

本当に愛してやまないこの景色がさらに美しく彩ったように感じた。そして、僕は無意識にシャッターをきった。少女の笑顔と海面に写った三日月が美しく映えて見応えしかない。

「…あっ!今、撮りましたね?」

「ありがとう、容姿端麗な少女よ。今宵も僕は幸せでした。」

でも、来年もここにこの少女がいるとは思えない。この愛してやまないこの景色を手放すことになる。この家出少女を帰すのはやめておこう。それよりもこの作品を画角に永遠に保存しておきたかった。

さよなら、もう二度と見えぬ極上のこの景色へ。

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