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「カナ、…カナダ…。」
『イギリスさん、どうしました?…あっ、起き上がらないで…!
さっき倒れちゃったばっかだから、横になってないと…』
「…ははッ…。
皮肉な、もんだよ…ッなぁ… 」
「…本当だったら、お前の誕生日を皆で祝って、髭野郎の料理を食べて…
…、そのまま、あいつんちに行ってもいい。
…お前だって、他の奴らに仕事任せて…。
自分の誕生日なんだから、…ッ…自分で用意したかった、よな…」
月明かりが部屋を照らす、夜。
そう貴方は咳き込みながら、酷く申し訳なさそうな顔をする。
なんでそんなことを言うの。
この時期になると、貴方は体調を崩す。
…いや、そんな生半可なものではない。
血を吐き、酷いときには床から起き上がれないときだって…。
…貴方だって祝いたいでしょう?
僕の兄弟の誕生日も、本当は健康な身体で祝ってあげたいって思ってる。
フランスさんの誕生日、もう少し時間があったら…なんていう後悔を毎年しているじゃないですか。
僕は、貴方が元気で、沢山の人と笑って、怒ってくれればそれでいい。
それでも貴方は、僕のことを祝いにくる。
虚ろな目、足取りは重く、視界だって揺らいでるはず。
それがどんなに酷かろうが、貴方は僕の元に、誕生日を祝いにやってくるんだ。
『…だから貴方がどんなに辛くても、僕はあなたのそばにずっといるって決めたんですよ。』
「…え? 」
まずい、思っていたことが声に出てしまった。
「…カナダは本当に優しいな…。」
「俺の誇りだよ、お前は。」
…そんな、遺言みたいなこと聞きたくない。
毎年、貴方はこれが最期かのように話す。
それほど辛いことだってのは分かってる。
だけど、僕は貴方に生きていて欲しいから。
…優しく頭を撫でるその手に、かすれたその声に、母の暖かみを感じるなど、言語道断。
「おいカナダ、?って、そんな葬式じみた顔すんなよ……ぁ、そうだ、…どこにやったっけな…」
「、あった…。」
「…あぁ、流石俺のセンスだな。
よく似合ってるぜ、カナダ」
「それと…、遅くなったが、誕生日、おめでとう。
お前の歩むこの先を、素晴らしい幸福が導きますように。」
びっくりして固まったその隙に、イギリスさんは僕を屈ませて、胸元にブローチを付け、額に軽くキスをする。
ブローチは金色でかたどられた重厚さと淑やかさを両立する形。
中央にはさりげなく、花が彫られている。
『サトウ…カエデ?』
「あぁ。…良くできてるだろう?
…オーダーメイド、なんだからなッ、……、 」
誇らしげにブローチの説明をした後、またもや咳き込む。
背中をさすりながら、毎年思うんだ。
…この幸せな誕生日を、来年も送れますように。
…早くイギリスさんが元気になりますように。
「…、…!?………ぁ…、」
何時もよりも長く、苦しそうな咳が続いた
心配になって何度も声をかけても、反応がない。
風でカーテンが揺れたと同時に、イギリスさんは虚空に手を伸ばし事切れたように動かなくなった。
それから僕がどんなに名前を読んでも、咳すらしてくれない。
ブローチのために選んだスーツ、着て見せたかったんだけどなぁ。
一緒に兄弟の家に、フランスさんの家に行って、皆で話したかったんだけどなぁ。
貴方がいればそれで良い、と押し込めた願いが、ここぞとばかりに脳を支配する。
僕の頭を撫でてください。
それで、泣き虫だなぁって、慰めてください。
そうしなきゃ、一生泣き止んであげませんから。