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だってぼく、正義の味方だもの。の続きで、終わってないしクロスオーバー先の方々も出てきません。ごめんネ。
あれこれ色々あったが、ここに来てから今年で五年。その頃にはすっかりこの家に馴染み、今年で13歳となる。身長も伸びて、今ではすっかりこの家の誰よりも身長が高い。普通に生きていたら中学一年生。でも学校には通っていない。小学校もマトモに通っていないこんな頭じゃあどうなるのかは目に見えていたし、お金のかかる面倒なそれに通おうとも思わなかった。
この家に馴染んできたぼくだけれど、未だに困っていることが幾つか。ひとつめは二期野沢くんのこと。あの人は随分と良くしてくれるが、何処か僕に対して他人行儀で、嫌われているのかもしれないってこと。ふたつめは松岡くんのこと。あの人は物凄く過保護だ。外に出て帰ってきたら真っ先にぼくを医務室に連れて行って身体中を見る。怪我はないんだね?と聞かれて無いよ、と返すまでが既に習慣と化している。まあもっとも、ぼくがそう簡単にホイホイと人に体を見せる訳もなく。大体は逃げ回って松岡くんが諦めることが多いのだケド。みっつめ、最後は夢の話。たまに変な夢を見るんだ。とても、夢だとは言いたくもない、現実のような、夢を。……それくらい。そのほかはすごく充実しているし、今までより楽しい。…なぜか、胸のところがじくじくと痛むけれど。
閑話休題。今日もまた外に遊びに出掛ける。といっても、ほぼほぼ散歩といって差し支えないくらいの他愛無い日課。家にいても暇だからと理由をつけて、外に出るのだ。
あの家にいると…いや、あの人たちといると、胸の奥が痛くなるんだ。ぎゅう、って心臓が締め付けられたみたいになって、寂しくなって、かなしくなって、せつなくなって。色んな感情が混ざって頭が混乱するから、ぼくはずうっと逃げ回って生活の大半を外で過ごしている。家に来て最初の内は随分と心配されたけどネ。
…たまたま運が悪くってこうなった?いいや、これは仕組まれたことだ。個性を使って僕の右手を”焼く”彼の発言に顔を顰める。
外に出ていつものように公園でぼーっとしていただけだった。孤児院の時の知り合いにあって、今こうして個性を使用してフルボッコにされている。孤児院の時の知り合いは誰かに引き取られて学校にも通い、舎弟をゲットしているようで、それらに僕のことを伝えるべく、無個性の気味悪い化け物だと言った。そいつの発火する右手を抑える自身の右手から肉の焦げる匂いがする。熱いし痛い、最悪だ。これは松岡くんに言い訳など出来まい。右手を引っ掴んでそのまま背負い投げの要領で地面に叩き付ける。
「がっ…?!」
何が起きたか分からないという風な困惑するそいつに、鼻で笑ってやると、そいつは目を見開いて舎弟に命じた。やってしまえ、と。5人居たそいつらの内、3人はすぐに気絶させた。だが、残る二人はなるほど、矛と盾のような関係で。どろりどろりと血が流れる。おいおい、これ、ヒーロー目指す者としてやって良いのかい?と思いつつ、怯えた二人をちらりと見て”落ちた左腕”を拾った。熱い。切られた部分が熱を持って、その熱に頭が浮かされる。は、と息を短く吐き出して、逃げ出した二人と気絶した四人を見て、家に走り帰る。ボタボタと血が落ちて道を作る。風に当たる傷口が冷えてつきりと痛む。足が縺れて膝を擦りむく。なんとか立ち上がって、家に帰りついた。
扉を開けると松岡くんが視界に飛び込んできて、驚いた顔して固まった。安心して気が抜けたのか、ガクッと腰が抜けて、その場に座り込む。いきなり視線が低くなって、頭が揺れる。三半規管がどうにかなって吐き気が凄い。はっとした松岡くんが僕に話しかける。
「しっかりして、どうしてこんな…?!」
倒れそうになってそのまま松岡くんの胸に飛び込む形になって受け止められて、また頭が揺れた。ん゙、と小さく呻けば松岡くんの手がおでこに当てられて、冷たくて気持ちいい。擦り寄るように頭を押し付ければ、それに応えて冷たい手が俺を撫でる。
「まつ…おか、く…っ」
ぐるぐると胃が回るような不快感に襲われながら名前を呼ぶ。目蓋が重い。流石にこれ以上は起きていられないナ。ぼんやりと何処か冷静な頭でそう思いながら、どたどたと慌ただしく走ってきた高山くんを視界の端に収めつつ、目を閉じた。
「ゔ…ン……?」
薄らと目を開けると、眩いほどの光が目を刺激する。何回か瞬きをして慣らしてから周囲に目を向けると、横には松岡くんや二期野沢くんが眠っていて、恐らくずっと看病してくれていたのであろうことがわかる。なあんだ、やさしいやつらめ。
それから、切られた左腕もまた繋がるように包帯で固定してある。お陰で動かしにくいけど、まあ因果応報。元はと言えばすっかり油断しちゃってたぼくが悪いんだし。
それにしても、喉が乾いたな。一体何時間寝ていたんだろう。お水…。松岡くんたちを起こさないようにそおっとベッドから降りる。立つと一瞬耳に痛いほどの耳鳴りがして、目の前が見えなくなるような酷い目眩がして、頭がいっぱいいっぱいになるほどの誰かの…いや、自分の記憶が流れ込む。目の前がぐるぐると回って吐き気がする。最早立っても居られなくなってその場に倒れ込む。はっ、はっ。と短く息を吐き出しながら目を瞑る。少しでも脳にかかる負担を抑えるためだ。
「……!……さん!……吉…さ、!」
脳に直接響くような声に薄らと目を向ければ、焦った表情で松岡くんと野沢くんが俺の名前を呼ぶ。それに少しだけ気を緩めていれば、一際強い記憶が脳をぐちゃぐちゃにする。目を見開いて息を詰まらせる。生理的現象として涙を零して、歯を食いしばって目を固く閉じた。食いしばった口の端から唾液が漏れ出す。頭痛がするし吐き気もする、それから目眩に…耳鳴りも酷い。この記憶のせいで頭はいっぱいいっぱいだし、この腕の怪我のせいで熱を出したらしく、身体が熱い。動くほうの片腕で口を覆えば、咳と共に吐き出したのは赤黒い血。恐らく、食いしばった時に内頬でも噛んだのだろう。だらりと血のついた腕を投げ出して、強烈な眠気に目を閉じた。
ばっ、と勢いよく体を起こす。急に起き上がったせいで頭と体が悲鳴を上げてまたベッドに倒れる。どうやらもう記憶は飲み込んだらしく、今は熱だけで、キツイっちゃキツいが、なんとかなるキツさだ。取り敢えずは、また寝ているらしい松岡くんたちを起こす。とんとん、と松岡くんの肩を叩けば、相変わらず寝起きのいい彼は直ぐに起きて、ぼくを認識する。一瞬だけ固まったが、すぐに横の野沢くんを起こして、慌ただしく水を持ってきた。ごくり、とそれを飲ませてもらって、口の端からはみ出した水を右手で拭う。多分、もう左手は再生している。
「君らには随分と迷惑をかけたネ、松岡くんに野沢くん」
そう後輩に告げて見せれば、泣きそうに顔を歪めて、抱き着いてくる。ははは、前はこんなことしなかったのに。甘えたか?その小さな頭に手を伸ばして撫でやれば、抱き着く力が強まる。うぐぇっ、そんな絞めたら流石にぼくでも死ぬって…。…配慮が考えられなくなるくらい、それくらい僕は後輩に心配をかけていた。迷惑をかけていた。それを思うと、こんな些細な息苦しさなんて屁でもないように思えてきて、甘んじて受け入れた。
「ゲタ吉さ、…いきて、っ生きてる」
僕の胸に耳を当てて鼓動を聞く野沢くんの頬を伝う水滴を拭って、安心させるようにできるだけやさしく。「生きてるよ」と、それだけ。たったそれだけでいい。ほかになにもいわない。なにも言えない。その原因をつくったのは他でもない俺だから。ただ死にそうになったのであれば前と同じように軽薄にごめんナと笑えば済む。でも今は、此奴が泣いてるから。空気読まずにそんなこと言おうものならひっぱたかれるだけではすまないだろうね。ははは。
こいつが泣くなんて、滅多にないぞぅ?明日は天変地異でも起こるんじゃないか?なんて、しょうもない冗談を頭の中に浮かべながら野沢くんの頭を撫でる。高校生でオトナな俺は兎も角、子供のこいつはせめて今だけは年相応に泣いてりゃいい。前は泣けなかったかもしれないけどネ、今は、俺の前では。
ちゃんと声出して泣いていいんだゼ。