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137 - 第6話(休憩回):ごはん処へようこそ

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2025年04月23日

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第6話(休憩回):ごはん処へようこそ



昼下がりのツリーハウス学舎。

実習と演習の嵐がようやく一段落し、ゲンとタカハシは枝道をくだって“塔のふもと”へと向かっていた。


その先にあるのは、碧族直営食堂――「碧のごはん処(ミドリ)」。

木製の看板には、碧素の波紋がふわりと踊っている。


「腹、減ったなぁ。今日はもう頭使いすぎた」


ゲンが後ろ頭に手をやりながら、制服の上着をはだけたまま歩く。


「……お前、上着のボタン、どっかに飛ばしたまま来たろ」


「戦場ってのはな、ボタン探しとるヒマなんかないんだよタカハシくん」


「どこが戦場だよ、授業だよ!!」





暖簾をくぐると、厨房から湯気がふわりと立ち上り、店主・タエコが鍋を振っていた。


短めパーマに花柄エプロン、大阪のおばちゃん口調で、腕にはフラクタル調理用のグローブが光る。


「おっ、若いのら来たなぁ! ツリーハウス帰りやろ? 今日は“栄養と精神安定のセット”で決まりや!」


「は、はい……!」


タカハシは思わず背筋を正す。ゲンはすでに奥の席でだらっと座っていた。





カウンターに並ぶのは、ほんのり碧発光する湯気立つ料理。


《FLAVOR = “HOMEMADE-FLAVOR”》

《CALM = TRUE》

《ENERGY = +20%》

《LIFE_CONSUMPTION = 0.3days》


「この“まかない碧焼き定食”、碧素使っとるけど寿命減らんように調整しとるで」


タエコが得意げにフラクタルコードを振りながら盛り付ける。


「うっわ……すごい……香りだけで、今日の演習がチャラになる……」

タカハシの目が潤んでいた。


「だろ? 命は燃やすだけちゃう。“癒やすため”にも使えるんやで」





ゲンは箸を止めて、ぽつりと呟いた。


「タエコさんさ、フラクタルってさ……使うたびに命、減るだろ」


「そやな。せやけど――“使い方”は、命の選び方や」

「誰のために、何のために、どう使うか。それが碧族の流儀やろ」


「……そっか」

ゲンの目が、少しだけ遠くを見ていた。





店内では、別のテーブルで騒がしいフラプロ生徒たちが何やら《SALT = OVER》《NOISE = +5dB》なコロッケ騒ぎを起こしていた。


「バカ!また爆発コード混ざってる!」「そんなん知らんやん!実験したかっただけやん!」


「うるさーい!味覚センサー狂わせたら次回から味無しになるで!!」


店内に笑い声が咲き、碧素が優しく明滅する。





帰り道、ゲンがぽつりと呟いた。


「……命、削るのが怖くなくなったわけじゃねぇ。でもさ、“食える”ってだけで、ちょっと強くなれた気がする」


「俺も。エネルギーって、文字じゃねぇんだな。飯なんだな」


ふたりの背中には、ほんのり碧い湯気の記憶が残っていた。

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