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― ズレ始めた距離 ―
収録が終わった控室。
マイク前の緊張感とは対照的に、ここはいつもの、穏やかな空気が流れていた。
神谷は、台本をカバンにしまいながらも、まだどこか集中できていなかった。
頭の中に残っているのは、あのセリフだ。
「俺は、お前が欲しいんだよ」
それ自体は、台本に書かれていたセリフ。
だけど――声に、熱がこもっていた。いつもよりも、ずっと。
演技に集中していたつもりだったのに、その一言が胸に刺さったままだ。
入野「神谷さん、お疲れさまでした!」
その声に振り向くと、そこには入野自由が立っていた。
汗ひとつかいていない爽やかな笑顔。
――けど、その笑顔を見た瞬間、神谷の胸がドクンと跳ねる。
神谷「あ……ああ。自由くんも、お疲れさま」
入野「今日の神谷さんの芝居、めっちゃゾクッとしました。やっぱ、すげぇなって思いました」
神谷「……そうか? そっちは……ちょっと本気っぽく聞こえたけどな」
思わず、口に出してしまった。
言った後で、「やば」と思ったが、自由は笑って誤魔化すような様子もなく、真っ直ぐに神谷を見つめ返してきた。
入野「……それ、演技じゃなかったら困ります?」
その一言に、神谷の呼吸が止まった。
冗談みたいに笑っている。けど、その瞳はどこまでもまっすぐだった。
神谷「……何言ってんだ、お前は…」
入野「さあ、なんでしょう?」
自由はそれ以上何も言わず、ペットボトルの水を一口飲んでから、
「また次の収録で」と軽く手を振って控室を出ていった。
神谷はその背中を、しばらく目で追っていた。
さっきの言葉が、演技だったのか本音だったのか。
分からない。けれど――怖いくらいに心がざわついていた。
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