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合宿初日の夜。蘭島の海風がロッジの窓を軽く叩き、潮の匂いがかすかに漂う。
練習で疲れた体を休めるはずが、勇人が「チーム一体になるため!」と張り切って提案したレクレーションは、
なんと定番の肝試しだった。
「ベッタベタだけど、みんなで怖がって絆深めようぜ!」
勇人の明るい声に、監督も「まあ、いいんじゃないか」と苦笑いで許可。
グラウンドの外れ、木々が密集した小道をコースに設定。
懐中電灯を一つずつ持ち、ペアで順番に出発。
くじ引きで決まったペアは……
アキと真琴
みとらとタク(何故…)
翼と井上(タクのこめかみビキビキ 「おい、手つないでんじゃねえよ」)
アキと真琴のペア
暗い小道を先頭で歩くアキは、いつもの大声を抑えて、真琴のペースに合わせている。
真琴は懐中電灯を握りしめ、足元を照らす手が少し震えていた。
中学時代のトラウマで、暗闇や誰かに追いかけられる感覚が苦手だった。
突然、木陰から「うわぁぁ!」という勇人の仕込みの幽霊(白い布を被ったモブ新入生)が飛び出してきた。
真琴の体がビクッと硬直し、懐中電灯を落としそうになる。
アキは即座に真琴の前に立ち、大きな体で幽霊を遮った。
「おいおい、びびらせすぎだろ。真琴、こっち来い」
アキは真琴の手をそっと取り、自分の懐中電灯を一緒に握らせた。
「俺がいるから、大丈夫だ。怖かったら俺の袖掴んでろ」
真琴は驚いたようにアキを見上げる。
今まで、誰かにこんな風に守られたことがなかった。
怒鳴られたり、殴られたり……「お前のためだ」と言われながら傷つけられるだけだった。
なのに、アキの大きな手は温かく、声は優しく抑えられていた。
「……ありがとう、アキくん」
真琴の頰が少し赤くなり、初めて自分からアキの袖を軽く掴んだ。
アキは照れくさそうに笑い、
「当たり前だろ。俺、真琴の球受けたいんだから……お前が怖がってたら、俺も困るし」
二人はそのまま、ゆっくりとコースを進んだ。
真琴の足取りが、少しだけ軽くなっていた。
みとらとタクのペア
二番手で出発したみとらとタク。
タクはくじ引きの結果を見た瞬間から不機嫌丸出し。
「なんで俺がみとらと……翼とペアじゃねえのかよ」
みとらはのんびり笑う。
「んだべ、タク。くじ引きは運だっしょ。文句言っても仕方ないべ」
タクはため息をつきながら歩く。
「まあ……お前はマシだけどな。井上じゃなかっただけマシだ」
道中、幽霊が飛び出してもタクは冷静に睨みつけて退散させる。
みとらは「タク、かっこいいべ〜」と感心しつつ、
「でもさ、タク。翼のこと、ほんとに好きなんだな」
タクは一瞬足を止め、みとらを睨む。
「……うるせえ」
みとらはくすくす笑う。
「んだべ、隠さなくてもいいっしょ。俺ら、みんな気づいてるよ」
タクは耳まで赤くなり、
「余計なこと言うな。……翼はまだ、自覚してねえんだよ」
みとらは優しく頷く。
「ゆっくりでいいべ。タクみたいな太陽がいりゃ、翼は絶対大丈夫だよ」
タクは小さく息をつき、
「……ありがとな、みとら」
翼と井上のペア
最後のペア、翼と井上。
井上は出発早々、翼の手をガシッと握ってきた。
「翼〜! 怖い時は俺にくっついてくれよ!」
翼は慌てて手を振りほどこうとする。
「井上……手、離して……俺、平気だから……」
だが、井上は離さない。
「いいじゃん! ペアなんだからさ〜!」
タクはスタート地点から睨みつけ、こめかみビキビキ。
「おい……手つないでんじゃねえよ……」
コースに入ってすぐ、幽霊が連続で登場。
井上は「うわぁぁぁ!!」と大声で叫び、翼を抱きつくようにくっつく。
翼もビビりながら「井上、落ち着いて……!」と声を上げるが、
二人とも方向感覚を失い、コースを外れて森の奥へ迷い込んでしまった。
暗闇の中、翼は膝を抱えて座り込む。
「……怖い……戻れない……」
井上はオロオロしながら、
「翼、ごめん! 俺のせいで……! どうしよう、どうしよう!」
翼の目から涙がこぼれ落ちる。
「俺……暗いところ、苦手で……喘息の時も、夜中に発作出て……怖くて……」
井上は慌てて翼の背中をさするが、力加減がわからずさらにオロオロ。
その時、木々の間から懐中電灯の光が差し込んだ。
タクだった。
監督に「翼の体調が心配だ」と言い訳して、早めに追いついたのだ。
「翼!」
タクは駆け寄り、翼を強く抱き寄せた。
翼はタクの胸に顔を埋め、震える声で
「……タク……来てくれた……」
タクは翼の背中を優しく撫で、
「当たり前だろ。俺がいるって言ったじゃねえか」
井上は申し訳なさそうに頭を下げる。
「タク、ごめん……俺のせいで……」
タクは井上を睨みつつ、
「……次は絶対、手つなぐなよ」
翼はタクの胸で小さく頷き、涙を拭う。
「……ありがとう、タク」
タクは翼の手を優しく握り、井上にもう片方の手を差し出す。
「戻るぞ。みんな待ってる」
三人は光を頼りにコースへ戻った。
翼はタクの手の温かさに、胸の奥で何か甘いものが広がるのを感じていた。
まだ自覚はない。
ただ、タクのそばにいると、怖くなくなる。それだけだった。
レクレーションは無事終了。
ロッジに戻ったみんなは、火を囲んで笑い合い、
少しずつ、チームの絆が深まっていた。