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GW合宿 最終日 早朝蘭島の空は、朝から驚くほど青かった。
太陽がまだ低い位置にあるせいで、光が眩しくて、目を細めないとまともに見られない。
風は少し冷たいけど、干してあった洗濯物はもうすっかり乾いていた。
翼は一人で物干し場に立っていた。
マネージャーとして、昨日みんなが練習後に脱ぎ散らかした練習用ユニフォームを、夕方から干しておいたのだ。
白いユニフォームが風に揺れて、胸元の黒い刺繍がキラキラ光る。
俺は一枚一枚、手に取って丁寧に畳んでいった。
椎名の、岡田の、成瀬の、井上の……そして自分の。
ふと、次の1枚を手に取ったとき、指が止まった。
浅尾
胸のところに、綺麗な黒文字でそう書いてある。
タクのユニフォームだった。
翼は無意識に周りを見回した。
誰もいない。
ロッジからはまだ誰の声も聞こえない。
朝の5時半。みんなまだ寝ているはずだ。
「……」
静かに、息を潜めて、翼はそのユニフォームを抱き寄せた。
両腕でぎゅっと、胸に押し当てるように。
まだ少し残るタクの匂い——汗と、グラウンドの土と、洗剤の匂い——が、鼻をくすぐる。
俺は目を閉じた。
心臓が、すごく大きく鳴っているのが自分でもわかった。
(なんで……こんなことしてるんだろう)
自分でも不思議だった。
ただ、触れていたいと思った。
タクがいつも着ているものに、こうして触れていたいと思った。
理由なんて、わからない。
ただ、胸が苦しいくらいに、温かかった。
そのとき。
少し離れた木の陰で、浅尾拓実は息を止めた。
ランニングから戻る途中だった。
いつもより早起きして、ひとりで海岸沿いを走って、汗を流して帰ろうとしていた。
そして、物干し場の前に翼の小さな背中を見つけてしまった。
「翼……」
声が出かかった。
でも、すぐに喉を押さえて、咄嗟に木の陰に身を隠した。
タクの瞳が、大きく見開かれる。
翼が、自分のユニフォームを……
俺の名前が書いてあるユニフォームを、
誰にも見られないように、そっと、
まるで大切なもののように抱きしめている。
(……俺の……?)
心臓が、ものすごい勢いで鳴り始めた。
耳の奥まで熱い。
指先が震える。
タクは木に背中を預けたまま、唇を強く噛んだ。
翼の横顔が、朝陽に照らされて透き通るように綺麗だった。
緑の瞳を伏せて、ユニフォームの生地に頰を寄せている。
その仕草が、あまりにも無防備で、甘くて——
タクは自分の胸を押さえた。
(翼……お前……)
言葉にならない想いが、喉の奥で渦巻く。
告白は甲子園が終わってから。
そう決めていたのに。
今、この瞬間、タクの理性が、ほんの少しだけ、音を立てて崩れそうになった。