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第2話 ヒロインは、悪役令嬢に恋をする
――おかしい。
エマは、自分の心臓の音を誤魔化すように胸元を押さえた。
(なんでこんなに、どきどきしてるの……?)
相手は、
本来なら自分をいじめ、破滅に追い込むはずの存在。
悪役令嬢、リリアーナ・フォン・ヴァルディス。
けれど現実の彼女は違った。
誰かを見下すことはなく、
失敗した生徒にはさりげなく手を差し伸べ、
陰口があれば、静かに空気ごと止める。
(こわい人じゃない……)
それどころか。
「エマさん、無理はなさらないで」
昼休み。
そう言って差し出されたハンカチは、清潔で、ほのかに甘い香りがした。
「顔色が悪いですわ」
「え、あ、ありがとうございます……!」
その距離が、近い。
(近い近い近い)
エマの思考は完全に停止した。
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一方その頃。
(距離、距離を取りなさい私)
リリアーナは必死だった。
ヒロインと親しくする=断罪一直線。
それがゲームの鉄則。
(なのにどうして、
放っておけない方ばかり寄ってくるの……)
「リリアーナ様」
振り向けば、王太子アレクシス。
「最近、君の周りは賑やかだね」
(原因はあなた方ですわ)
「エマさんのことも、気にかけているようだ」
その言葉に、アレクシスの目がわずかに細くなる。
「……優しすぎるのも、罪だよ」
(なぜ重くなる)
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放課後。
エマは意を決して、リリアーナを呼び止めた。
「あ、あの……!」
振り返る令嬢は、夕陽を背にして完璧だった。
「私……
リリアーナ様のこと、尊敬しています!」
(え)
「強くて、優しくて、気高くて……!」
エマの顔は真っ赤だ。
「もっと、お話ししたいです!」
(フラグが……
本来折るべきフラグが、増えてますわ!!)
リリアーナは、微笑みを崩さず答える。
「……ええ。機会があれば」
(機会を、作らない方向で)
しかし。
その様子を、
王太子、騎士、宰相補佐が全員見ていた。
それぞれが、同じことを思う。
(彼女は、誰に対しても特別だ)
――違う。
誰に対しても誠実なだけなのに。
こうして。
悪役令嬢リリアーナは、
ヒロインからも正式に好感度を獲得し、
攻略対象フルコンプへの道を
着実に進んでいくのだった。
(本人だけが、気づかないまま。)
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