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「ソフィアさん! ソフィアさんいますか!?」
二階のギルドへ駆け降りると、辺りを見回しソフィアを探す。
ギルドには数人の冒険者と職員。その剣幕に驚嘆した皆の視線が俺に集中し、その声に気付いたソフィアがせわしなく駆けて来る。
「はいはい、いますいます。……なんでしょうか?」
「従魔登録について聞きたいんですが」
「あっ……すいません。ウチではアイアンプレートはお取り扱いしてなくて……」
「それはミアから聞きました。最大何匹ほど登録できますか?」
「えっ? ……どうでしょう……制限はないと思いますけど……。何匹か同時に登録されるんですか?」
「八十匹ほどなんですが」
「は、八十!?」
目を丸くするソフィア。従魔を八十匹。それも全員同時ともなれば、驚いて当然。
突拍子もないことを言っている自覚はある。
「やはり、多すぎますか?」
「いえ、多いというか同時に八十匹登録したという前例がないので……。プレートの在庫が足りるかどうか……」
「すいません。まだ決定ではないんですけど、もしそうなった場合、在庫の確認とかって可能ですか?」
「大丈夫ですよ。本部に問い合わせれば、各支部の在庫状況がわかるはずです」
「じゃぁ、その時はお願いします」
ソフィアに頭を下げると、そのままギルドの長椅子に座り、カガリが帰ってくるのをジッと待った。
カガリはダンジョンへ行ったのだ。皆の許可を得る為に。
登録出来れば冒険者や狩人から狙われることはなくなるだろう。だが、それは同時に俺に管理されるということ。
もちろん形式上だ。ウルフたちを束縛するつもりはないが、それを受け入れるか決めるのは本人たち次第だ。
それからカガリを待ち続け、帰ってきたのは一時間後のことだった。
「どうだ?」
「全員が希望しました。是非そのようにとのことです」
「ありがとうカガリ」
カガリを最大限褒め称える意味を込めて撫でてやると、ソフィアに在庫確認を頼む。
正確な数がわからなかったので、ひとまず百枚の確保をお願いした。
ソフィアが胸のプレートに触れると、通信術で本部との交信を始める。
「コット村支部長ソフィアです。アイアンプレートの在庫確認をお願いしたいのですが……。はい……百枚の在庫を抱えているコット村から一番近い支部を……。……あはは、そう思いますよね。でも本気なんです。……いえ、からかってません。プラチナの九条からの要望なので……。はい……。はい、そうですか。わかりました。ありがとうございます……」
ソフィアの手がプレートから離れると、プレートの輝きも消えた。
「えーっとですね。流石に百枚は本部にしかないそうなので、直接王都に行って貰うことになりますが大丈夫でしょうか?」
「ありがとうございます。問題ありません。……あ、ついでに馬車の確保をお願いしてもいいですか? 冒険者護衛パックなし幌付きを……四台で。ミアも同行させます」
「承りました。……それより九条さん、ミア知りません? もう休憩は終わってるはずなんですけど、戻ってなくて」
「あっ……。み、見つけたら戻るように言っておきます」
「お願いしますね?」
舞い上がってしまい、ミアを部屋に忘れていたのを思い出す。
とはいえ、後は獣たちを連れてスタッグギルドで登録してやれば、すべてが解決する。
キャラバンを追い払うことばかり考えていて、守るという発想が抜け落ちていた。
それに気付かせてくれたミアには、感謝せねばなるまい。
お礼――になるかはわからないが、ミアはまだ夕飯を食べていなかったはず。ギルドの仕事が終わったらちょっと奮発して豪華な食事にでも誘ってみよう。
そんなことを考えながらカガリと共に部屋へ戻ると、ミアは未だベッドの上で突っ立っていた。
その表情は、どこか幸せそうにも見えた。
――――――――――
二日後。ソフィアに頼んでおいた四台の馬車がギルドの前に集合していた。
それぞれの御者を食堂へと招き入れ、食事をしながら日程の打ち合わせを始める。
もちろん食事は俺の奢り。本来であれば、ここまで御者をもてなすことはない。
では、なぜそうしたのかと言うと、口止め料である。
今回乗せる積荷は獣たち。普通は絶対にあり得ない数に加え、まだ従魔登録もしていない野良である。
その運搬には危険が伴い、檻に入れなければならないのだが、それを準備している暇はない。なので、カネとプラチナプレートの力で黙らせようというわけだ。
御者の機嫌を取っておくという意味でも必要な出費である。
食事が終わると出発の準備。獣たちが外から見えないようにと頑丈な帆布で荷台の全体を覆う。
それがめずらしいのだろう。辺りには野次馬の如く群がる村人たち。
「今日は何かのイベントかの? ソフィアさんや」
「いえ。そういうわけでは……。それよりも危ないので皆さん少し離れてください」
その意味が理解出来ず、村人たちが首をかしげていたその時だ。
「お兄ちゃーん!」
俺を呼ぶミアの声に振り返ると、そこには獣たちが長蛇の列を作っていた。
前もって森で待機させていた獣たちを、ミアとカガリが連れてきたのだ。
それを見るや否や、ジリジリと後退っていく村人たち。
そりゃそうだろう。八十匹にもなる獣の群れもそうだが、その中に混じる3匹の族長が漂わせる威圧感は半端じゃない。
馬車を引く馬達が暴れないのは、前もって懐柔しておいたから。正直説得には時間がかかると思っていたのだが、案外あっさりと許可が出た。
と言うのも、獣と意思疎通が取れる人間ということで、スタッグの馬たちの間では、俺は結構な有名人らしい。
その噂を広めたのが、グラハムとアルフレッドが乗っていた二頭の馬、エミーナとルシーダ。
袖振り合うも多生の縁とは良く言ったものだと、俺は内心エミーナとルシーダに感謝した。
ミアが交通誘導員よろしく、馬車に獣たちを詰めていく。その様子は、まるで熟練の羊飼い。
正直、馬車の数が足りるか心配ではあったがギリギリだった。ちょっと窮屈ではあるが、我慢してもらうしかない。
そんな馬車の中はモフモフ天国。この上に寝転べば、極上のモフモフが全身で味わえるに違いない。
「じゃぁ、行ってきます」
「お気をつけて、九条さん」
「九条、今度こそ土産を忘れるな! 酒だ! 酒がいい!」
門番の仕事を放り出し、見送りに来てくれたカイル。
前回も同じような事を言っていた気がしてならないが、忘れないよう努力だけはしておくつもりだ。
「よし、出発だ!」
俺が声を上げると、馬車は独りでに動き出す。
動物達と話せる俺にとって御者は正直必要ないのだが、馬車を借りるとセットでついて来てしまうため、こればっかりは仕方がない。
「いってきまーす」
カガリに揺られながらも大きく手を振るミア。村人たちに見送られつつ、俺たちは王都スタッグへと旅立った。