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うめぼっち

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#恋愛
水無月 京
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2人が同時に「えっ」と声をあげる。
「なんで、弓家さんの仇取ろうよ」
人事担当が鼻息荒く、力強く言葉を放ち、豆さんもうんうんと頷く。
「一番の被害者じゃん弓家さん」
「そうそう」
好戦的な男子2人だけど、私には少し荷が重い。たとえ、かつて自分のキャリアを断たれた原因だとしても。
「もう、どちらかというと関わりたく無いなという思いの方が強いです」
「…なるほど」
「それに、お二人が親身になってくださったので、その温かさを知ることができて満足です」
綺麗事ではなくて、これは本心だ。
他人におよそ興味を示さないと言われていた豆さんが、こんないち秘書のために力を尽くしてくれたことは、シンプルに嬉しい。
「それよりも、伊藤さんがいなくなるならセクター選も、社長選もやりやすくなるんじゃないですか」
「うーん」
パッと思いついたことを喋ってみても、2人の顔色は晴れない。
他のパートナーも普通に腹黒い奴ばっかだから、伊藤1人でクリーンになれるほど綺麗な世界じゃ無いのよね。
人事担当がため息をつきながら頬杖をつく。
「しかしさ、そういうところが弓家さんのいいところだよね」
豆ちゃんの秘書にはホント勿体無いんだよなぁ。
「そうか、俺にピッタリだろ」
「どこら辺がぴったりなのか、もう全然わかんないな俺には」
「…お前の目はどこについてんの。飾りかよ」
2人がまた訳のわからない会話を始める。子供の喧嘩のようだ。
「だいたいさあ」
人事担当がさらに苦い表情で続ける。
「いつか俺忠告したじゃん豆ちゃんに。このままじゃ弓家さん危ないよって」
「そっすね」
「それがこのザマよ、わかってんの」
2人の会話は、さらに私の知らない方向へ転がっていく。
「……悪かったって」
そして、こんなに気圧される豆さんも見たことが無い。
「今回未遂で済んだからまだマシだけど、マジでお前俺から殴られても文句言えねーからな」
「…そうね」
「今後似たようなことが起こったら速攻弓家さん取り上げるから」
「それは嫌」
「じゃあわかってんだろな」
「当たり前だわ」
流石に同じ轍は踏まねーわ、と不貞腐れる豆さんに、どうだかなーとまだ半信半疑な目を向ける人事担当。
こんなに豆さんが不利な場面は見たことがなくて、一体彼は何をしでかしたのだろうと気になってしまうけれど、質問できる空気でもない。
「弓家さん」
人事担当がふとこちらに向かって発言をする。
「は、はい」
「と豆ちゃんは言ってるけど、どうする」
許しても、許さなくてもそこは弓家さんの気持ちを尊重する。
こいつクビにしてとかも全然アリよ、と気楽にいうけれど。
私の一言にそんな重い判断を委ねないでもらっても!?だから何の話!?
しどろもどろになりながら、これからも豆さんの秘書でいたいと告げて。
何だかこれじゃ間接的に告白してるんじゃ無いかとリビングで一人悶絶するけれど、
「おっけー。よかったな豆ちゃん。お前のクビ回避だぞ」
「いやまじで助かった。ありがとう弓家さん」
気づけば再び穏やかな空気の中で、無事に会議は終了した。
結局、伊藤さんがそのまま退職するならこの音声は持ち出さないと決めたらしい。その代わり、何かあればすぐにこれを突きつけて様々な措置も辞さないと。
さて。
会議も終わったことだし私は一旦家に帰ろう。
一晩同じ格好で過ごして、到底好きな人の前に晒したい姿では無い。
「あれ、もう帰るの」
そそくさと準備をしていれば、書斎から出てきた豆さんが驚く。
「ええ。お邪魔しました。色々とお世話をかけまして申し訳ありません」
「だからそれは俺が悪いので」
まだバツの悪い表情を浮かべている豆さんは、書斎で香水を振ったのだろうか。いつものシトラスの香りがフレッシュで強い。
「じゃあまた。1時間後ぐらいからは稼働できるはずなので、何かご用があればご連絡ください」
「ありがとう」
俺も移動しないとな、と豆さんがスマホを見る。
「弓家さん」
玄関まで連れ立って歩く豆さんに声をかけられる。
「はい」
「金曜日、楽しみにしてるね」
不意打ちで差し込まれ、表情を取り繕うのが遅れてしまう。仏頂面でただ赤くなっている顔を見て、豆さんはまた笑う。
「相変わらず、かわい」
「もう、ほんと揶揄うのやめてください」
豆さんから顔を逸らして、パンプスに足をくぐらせる。
「私だって、楽しみにしています。お邪魔しました」
一息に言い切って、顔も見ずに部屋を出ていく。恥ずかしさのあまり、無我夢中でマンションを出て歩く。駅が見えてきたところで、家を借りた相手に失礼だったかとようやく気づいて背中に冷たいものが走る。
うわ、怒られたらどうしよう。
そんな悪い想像ばかりして胸の中はモヤモヤするけれど。
「弓家さんって、揶揄うと余計可愛いのな」
ジャケットに腕を通しながら、豆さんがそんなことを呟いていたとは到底知る由もない。