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数日を経て、金曜日を迎えた。
伊藤さんの件は表立って噂にもなっていないし、結論もまだ見えていない。
「何かあったらすぐ連携するね」
と2人から言われているので、私にできることは静観することだけ。
「弓家さ〜ん、このシステムがエラーで…」
「それはITに聞いてください…」
「弓家さん、今日の懇親会リスケなんですか!?」
「あー……なんか急用が入ったとかで」
「なるほど。あれ、なんか弓家さん顔赤いけど熱?」
「だ、大丈夫です」
「弓家さん契約書の稟議忘れててすみません!」
「あー…え、事後承認は厳しいんじゃ….ちょっと法務に聞いてみますね」
今日も相変わらず忙しくて、いつもと変わらない日常が繰り広げられていく。違うのは、多分私の心だけだ。夜の予定を思い出すだけが心が落ち着かなくなる。
豆さんの食事の誘いの意図は読めないけれど、私自身がこのまま気持ちを押し隠していくのがそろそろ無理になり始めていた。
勝算はゼロで、失敗したら人事異動が発動しかねない。それでも、手元で持ち続けておくにはあまりに肥大化してしまったこの気持ちは、もう伝えないことには心が収まらない。
だから、豆さんには申し訳ないけれど、今夜この場を借りて気持ちを伝えてしまおうと、誘われたあの日からずっと考えている。
豆さんは昼過ぎまで外回りをしていて、私がおやつにカフェラテとチョコを嗜んでいるところに軽やかに出社してきた。相変わらず隙のない出立ちだ。ネクタイは、この前の朝私が選んだオレンジのそれで、その時の会話まで勝手に呼び起こされてきて、頬に熱がたまる。
歩く豆さんを見れば、お互いの視線がかち合う。薄く微笑んだ表情は、何を意味しているのかわからなかったけれど。
それだけで、少しだけ世界の色が鮮やかになった気がしてしまう私は、やっぱりチョロい。
個室に入った豆さんを見つけて、早速相談に訪れるメンバーが後を追い。
彼とゆっくり話ができる時間は、このオフィスにいる限りはないみたい。
**
「お待たせ」
待望のメッセージが飛んできたのは19時近くなってからだった。
念入りに週明けのタスクを確認し、数回トイレに立ってメイクを直して。我ながら浮かれ切った行動を誰にも悟られないように、と気難しい顔をしてパソコン画面に向かっていたのに、この一言で頬が緩む。台無しだ。
コートを着込んでブリーフケースを持って大股でフロアを去っていく彼を横目に、私も急いで準備をする。
「ちょっとタバコ行くから先1F行ってて」
スマホに入るメッセージ。既読の合図を送り、私もパンプスの踵を鳴らしながらフロアを出る。
「あれ、なんで来たの」
ドアをそっとスライドさせれば、そこにはいつかとは違い、背筋を伸ばして一服する豆さんの姿があった。気だるげに社用のスマホを見ている様子は絵になる。
「ここ煙臭いからやめなさいって」
体に悪いよ、と苦笑いしながら紫煙を燻らせる豆さん。
「ちょっと…早く会いたくなりました」
思わず本心を告げれば、豆さんはびっくりしたような顔をする。あ、つい口が滑ったと気づいたけれど当然もう遅くて。
「…おじさん煽るの上手ね」
「あ、煽る…?」
うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
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「無意識のうちに、弓家さんは俺を転がしてるわけよ」
「いえ、そんなことしませんよ…」
ごめんね、行こうかとまだ半分ぐらい残っているタバコを、容赦無く潰すから慌ててすみません、と謝る。
「なんでよ、そんなこと言われて悠長にタバコ吸ってられる男はいないだろ」
「なんかごめんなさい…全然煽ったとかじゃなくて、ちょっとうっかり本心が漏れ出てしまっただけで」
「……もうちょっとおしゃべり禁止にしようか」
豆さんが私の背中を軽く押しながら喫煙室から廊下に出る。
「俺がその煽りに耐えられなくなると困るんでね」
豆さんの意図を理解しきれず、それでも黙ってエントランスまで向かう。彼は怒ったわけではなさそうで、表情も穏やかだし、歩調も私に合わせてくれてゆっくりだ。
ビルの外を流していたタクシーを拾い、相変わらず行き先を知らない私はそ縮こまって座り、モニターの広告をひたすら眺める。
10分ほどして到着したのは、有名なラグジュアリーホテルだった。
「え、ここ…?」
「はい、到着です」
「私豆さんのリクエストに焼き鳥って言ったはずなんですけど」
少し前に、今夜のリクエストを聞かれていたので、たまたま直前にテレビでみた焼き鳥屋を思い出して反射的に答えていたのだけど。
「いい趣味だなとは思ったけど、ごめん今日はちょっと居酒屋は無理」
聞いといてごめんな、とにっこり笑われると、私はそれ以上追及できない。豆さんはどうやら高級なコース料理の口だったらしい。