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#溺愛
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群衆が去った後、午後の柔らかな光に包まれた花畑。
いつの間にか、レオンがすぐ隣に立っていた。
「ねえ、バイオレッタ。こっちに来てよ。宣伝用のパンフレットの写真、一緒に撮ろうよ?」
そう言って、彼はポケットから映像魔石を取り出した。誘われるまま、私は花畑の奥へと足を踏み入れる。
「ここなら『映え』は完璧だね。……ほら、もっと近づいて」
「ちょっと、勝手に触らないでよ。……っ、近すぎよ!」
レオンが私の腰を強引に引き寄せる。距離が、一気に詰まる。
「二人で撮るなら、これくらい普通じゃない? 『恋人と過ごす特別な時間』だって思わせないと」
(……まあ理屈としては正しいけど)
「……恋人役、やってよ?」
「却下よ。これは仕事、遊びじゃないのよ」
私は彼を睨みつけた。
「……じゃあさ、これが“演技じゃない”って言ったら?」
「……え?」
空気が、変わった。レオンは、私の顎にそっと指をかけた。 くい、と上を向かされる。
(ちょっと……っ!)
拒絶しなきゃいけない。そう思うのに、言葉がすぐに出てこなかった。彼のまとう洗練された香水の匂いと、チューリップの甘い香りが混ざり合って、思考がうまくまとまらない。
彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。唇が触れるまで、あと数ミリ。
「お姉さま!!」
「っ!」
弾かれたように距離を取る。そこには息を切らしたフローラが立っていた。
彼女は真っ直ぐに駆け寄り、私の腕を強く抱きしめた。
「フローラ……?」
「だめです!お姉さまは、私のものです!誰にも渡しませんっ!」
その声は、震えていた。
「……へえ」
隣で、レオンが面白そうに笑った。
「……今日は邪魔が入ったね」
「なっ……」
耳元で、そっと囁かれる。
「続きは、また今度でいい?」
(何よそれ……!)
レオンが去ったあと、フローラが不安そうに私の手を握った。
「お姉さま……大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
そう答えたものの、心臓が全然大丈夫じゃない。
さっきの距離。あの声。あの目。
(……なんなのよ、もう)
私は無意識に、自分の唇にそっと指を触れていた。さっき触れそうだった、その距離をなぞるみたいに。