不穏注意
突然だが僕は人の死因が見える。
テレビに移るあの人も、
いつも犬の散歩を欠かさずやっている
あの人も、
そして、
「なんでそんなにこっち見るのさ。」
こちらを見ながらケラケラと笑う
恋人の死因も。
「…別に!」
ほとんどの人が『癌』とか、
『交通事故』と見える中、恋人は….
恋人だけは
『?』だった。
僕も初めであった時は戸惑った。
『?』ってなんなんだろう。
死なない?
そんなはずは無い。
そしてもう1つ、謎な事。
鏡をみて、毎朝確認する。
自分の頭の上に映る『死因』。
いくら確認しても変わらない
『自殺』の文字。
僕が自殺することなんてないのに。
恋人が生きる限り、僕も生き続ける。
絶対に置いて言ったりなんてしないから….
ぽかぽかと僕達を照らす朝日。
全開に開いた窓からは気持ちが良い温度の
風が吹いてきて、カーテンがパタパタと
靡く。
「良い天気だね。」
僕がそう言うと
「そうだね。」
微笑みながら言葉を返してくる。
君はカメラのお手入れをしているみたい。
色々な道具を使い、
カメラの内部を綺麗にしたり、
外側のホコリを取り除いたり。
「なんだか、お医者さんみたい。」
僕が無意識のうちにそう呟くと
「どちらかというと
お掃除する人じゃないの?」
お上品に口の前に手をやり、
ふふっと笑う。
君は今、一眼レフを眺めながら
何を考えているのだろう。
僕のことは、頭の片隅ぐらいには
存在しているのかな。
「カメラ、好きだよね。」
「うん、めっちゃ好き。」
照れくさそうにカメラを愛でる。
そんな恋人に心が浄化されながらも
自分の担当である洗濯物を畳む動作を
続ける。
カシャッ.
いきなりのシャッター音に体はピクリと
反応する。
「なに撮ったのぉ〜!」
「カメラの使い方とか
可愛い恋人を撮る以外に使い道あるの? 」
調子の良い事を冗談交じりに
照れくさそうに笑いながら
カメラを眺める。
「いい写真撮れた?」
僕が画面を覗こうとすると
「ダメ!」
そういいながらカメラをひょいと
僕が居ない方に掲げてしまう。
「なんでよ〜」
不満を恋人の肩を揺すりながら零すと
「これは俺だけの写真だから。」
そういいながら大事そうに写真を眺める。
「ふ〜ん、まぁなんでもいいけど。」
どうでもいいみたいな顔をしながらも
自分が映る写真をこうも
大切にしてくれるのかと
思わず笑みがこぼれる。
恋人は目を擦りながら大きく口を開け
体全体をこれでもかと言うほど伸ばす。
「マジで眠いかも。」
「ふふ、僕のお膝使う?」
そういうと無言で僕の
お洋服を引っ張ってくる。
もう、口下手だなぁ。
でも可愛いなぁ。
なんて思いながら親心の思いで
ソファに座り、自分の膝をトントンとし、
こちらにどうぞという意味で
顔をしっかり見てほほ笑みかける。
少し恥ずかしながらも、眠気には
勝てなかったのか、こちらに顔を見せずに
僕の膝にぐりぐりっと顔を埋める。
「擽ったいよ。」
「俺がこうしたいからいいの。」
どういう理屈だ、と思いながらも
僕もこうして欲しいから
睡眠を妨害しないよう静粛を保ちながら
日に当たっているはずなのに
何故か冷たい頭を赤子を扱うかのように
優しく、それでいて暖かい心で撫でる。
恋人の顔をまじまじと見ると不意に思う。
この頭の上にある『?』は
どういう意味なんだ?と。
暫くするとすぅすぅと寝息を立て始める。
長い前髪を分けて、寝顔を確認する。
目を閉じていてもわかる、綺麗な二重線。
キリッとした眉毛、 長いまつ毛、
ギターを弾くのにピッタリな長く、
しっかりしている綺麗な手。
染めているはずなのに痛みが全く見えない
サラサラな髪の毛。
ウリウリと顎下を撫でると
顔を顰めるが、こそばいのか
首を仕舞い、口角が上がって
ガミースマイルになる口。
全てが愛おしい。
貴方の顔も、性格も、身長も。
つま先から頭のてっぺんまで全部好き。
少しずつ暗くなっていくお日様、
鳥のさえずりが無くなり、
一日が終わる合図が聞こえてくる。
そろそろ時間だな、と考えると
ふと、恋人の一眼レフが僕の瞳に映る。
どんな写真撮ってるのかな、と思い
ダメだと言われたが、内緒にしてれば
問題ないだろう。
とか思い、お手入れした後の綺麗な
一眼レフに出来るだけ指紋をつけないよう
細心の注意を払いながら
そっと、机の上から持ち上げる。
少し、重みがあって
長年使っているのに劣化が見えなくて。
恋人のマメな1面も垣間見える一眼レフ。
どうやって使うのかはあまり知らないので
適当に触ってみると
写真フォルダにたどり着く。
探っても探っても、
僕が映る写真しかなくて
思わぬ場所で垣間見えた愛情に
ついつい口角が緩くなる。
「んん….、」
眉間に皺を寄せ、顔を顰める姿に
僕の肩は産まれたての子鹿のように
ビクッと震える。
即座に横腹周辺をぽんぽんし、
恋人をまた夢の世界へ送り返す。
口をむにゃむにゃと緩ませ、
頭のポジションを再確認する。
不意にいつも思う。
愛おしいな、と。
ずっとこのままがいいな、と。
この寝顔をまた拝みたい。
ずっと一緒にいればずっと見れるのだが、
ひとつの思い出として取っておきたい。
なので、申し訳ないが
恋人の一眼レフを使い、
写真に収めようとした。
目の位置にカメラを構えた途端、
世界がガラッと変わった。
僕の膝に乗っていたのは
“生きていた恋人”ではなく、
“死んでいる白骨化した恋人 のようなもの。”
僕に降り注ぐのは暖かい陽の光ではなく、
死体に集るハエ。
目の前にあるのは僕が畳んだ洗濯物
ではなく、ゴミ袋の山。
恋人の良い、優しい香りではなく、
死臭の漂う海のような匂い。
あぁ、そっか。
恋人はもう、
とっくのとうに、
死んでいたのか。
『?』はそういう意味だったのか。
僕、少し長い夢を見ていたんだな。と、
今まで受け入れられなかったことが
スルッと頭の中に入り、
何故か簡単に納得した。
そっか。
恋人の頭の上の文字が
狂っていたのではなく、
『僕自身』がおかしかったのか。
「それを、今。伝えてくれたのかな。」
涙は出なくて、その代わりに
不思議と笑みがこぼれた。
「若井、気づかせてくれてありがとう。
今そっちに行くからね。」
「大好き!ずぅっと愛してる。」
にこやかに言い放ち、
目の前に置いてある大量の睡眠薬を
口に含み、水で流し込む。
目の前が徐々にぼやけ始め、
僕は深い眠りにつく。
“仮眠 ”ではなく、“永眠”に。
これは、ある統合失調症の藤澤のお話。
ごめんなさい話訳わかんないです。
やっぱり儚いのは書けないなぁ。
コメント
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おい!!!!やめろ!!めちゃめちゃ儚いじゃねぇーか!!!ずっと夢見てたんだな、、やっぱ運命変えられねぇーべ
んぐりゃぁぁぁ、🥲
私なら逢える!?