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#0 エピローグ
僕は、性同一性障害だ。
友達だったり、親友だったり、運命共同体、なんて言葉じゃ表せない「好き」を持つのを、おかしくないと言う人は少ない。同性の人を好きになってしまえば、家族になっても子供は出来ないし、親にとっては迷惑なだけ。
批判を受けたくなくて隠している人だってたくさんいる。現に、僕もそのうちの1人だ。でも…
それでも僕は、恋をしていく。
#0.5 成橋紅音
僕は、今日もスカートを履いて学校へ行く。最初は拒否反応が出ていたのに、いつのまにか「隠す」ことが出来るようになってしまった。
でも、家族にも、人形にすら話した事が無い秘密を、わざわざ他人、それも毎日会うクラスメイトに話す必要性なんて、限りなく0に近い。…まぁ、前言撤回はあり得なくもないけど。
僕は誰もいない洗面所で鏡に向き合いながら、何回もそんなことを思っていた。はぁ、とため息をついてから、今日も少しだけメイクをボーイッシュにする。まつげを強調させず、少しだけ吊り目に。こういう所にも男、女の差別が出てくるのだから、メイクというものは嫌いだ。でも、周りに合わせながら、小さな自己主張をするだけで僕は満足できる。つまりチョロい。
自分の小心さに嫌気が差した所で、聞き慣れた機械音が、出発時間の5分前だから早く行けと促してきた。僕は、アンドロイドに今日のシュシュを選んでもらって、他に誰もいない小綺麗な家から出る。指紋認証で鍵をかけて、「行ってきます」と、誰にも届かない声を漏らした。
この5年の間、科学が急激に変化した先進国、日本。しかし、5年前に行われてから途切れてしまった、性別に対する差別を無くそうという運動は、未だ報われていない。
「ばかみたい」
僕が呟いたこの「音」も、報われず空を舞っていった。