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#ミステリー
穏霞 乃矢
407
榎本くもり
11,325
きゆう
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1
私は演技がうまい。そう自負している。そう思うのには理由がある。
私は現在、達磨ノ目高校にて英語の教師をしている。
まだ赴任2年目ということもあり、慣れないこともまだ多い。
それなのに1年目の新任の先生が入ってきて、2年目の先生たちはもはや新人扱いはされない。
正直しんどい。教師という職業がこれほどまでに大変だなんて思ってもみなかった。
私は現在26歳。そう。新卒で教師になったのではないのだ。
同じ年に赴任した先生はほとんどが新卒。新卒の年齢じゃない人もいるが、大概は別の高校からの移動など。
教師という職業の忙しさから、同期の仲間感というのはあまりない。
むしろ同じ担任を受け持つ先生同士や同じ教科の先生同士のほうが仲間意識が強いらしい。
しかし同期の綱笠(あみかさ)千和(ちわ)先生と軒下(のきした)岬(みさき)先生は
お昼休みのときにいつも「一緒に」と誘ってくれる。これも正直しんどい。
いや、綱笠先生にも軒下先生にも悪い印象はない。むしろいい子だ。が、それがネックだったりする。
本当は同い歳の同期同士で、タメ口で他愛ない話や愚痴で盛り上がりたいはずだ。
なのにそこに年齢が3つ上の私がいることで、「私に対しては敬語」というノイズが発生する。
じゃあ断ればいいじゃないか。と思うかもしれないし、私もそう思うが
ギクシャクさせたくないために、毎回なんとなく行ってしまう。
私も一度は「敬語じゃなくていいよ。同期なんだし」と言ったが
そこは根底に教職に就く者のしっかりさがあるのか、現在も敬語のままだ。
しかし私は2人に気を遣わせないため、溶け込んでます。的な感じで笑って過ごしている。
もちろん2人といるのはちゃんと楽しいのだが、どこかで罪悪感と居心地の悪さを感じていた。
しかしそれを感じさせない演技力が私にはある。
それは同期に対してだけでなく、先輩教師、ベテラン教師に対しても同じ。
達磨ノ目高校は生徒数が900人以上いる。そのため教師の数も多く、1教科でも先生が複数人いる。
しかしテスト作りは複数人でやるとおかしなことになるので
中間テストは誰々先生、期末テストは誰々先生、というように担当が割り振られる。
それは新人でも例外ではない。新人で例外でないなら、2年目の慣れていない私ももちろん例外ではない。
テスト作りは大変で、先輩教師やベテラン教師から「大丈夫?」と聞かれるが
正直まったく大丈夫ではないが、笑顔で「大丈夫です!」と答える。
あと正直「大丈夫?」と聞かれて「大丈夫です」と答える人がほとんどだろうと思う。
さらにネックなのが、私と同じ年齢の先生たち。
向こうは「同い歳なんだし、タメ口でいいよ」とか言ってくれるが
同じ歳なのに仕事がすごくできるし、同じ歳なのにどこか貫禄を感じ、敬語とタメ語の絶妙な間で話している。
同期で3つ歳下の千和先生と岬先生の気持ちが少しわかる。
しかし同じ歳の先生にも、私が気を遣ってるとかを感じさせない。そう。演技力で。
こんな風に新人の先生から先輩やベテランの先生までを騙すほどの演技力を持っている。
そしてそんな日常が続き、27歳になり、年が明け、入試の準備に明け暮れ
卒業式の準備に明け暮れ、入学式の打ち合わせ。タイムスケジュールや動線など。
年が明け、新年度まで、怒涛の忙しさに追われる。そしてドキドキである新年度の校務分掌の発表。
ちなみに校務分掌とは、クラス担任や部活の顧問
入学式などの行事の責任者といった、学校運営に必要な役割分担のことだ。
平たく言えば、一年間の自分の仕事量にプラスアルファがつくかつかないかのジャッジメントである。
心の中で祈る。
呼ばれるな呼ばれるな
と。ただでさえまだ慣れていないのに、そこに新しい事項が加わったら
さすがの私もパニックになり、演技でも隠せなくなりそうだったから。
幸いなことにその年の担任の名前発表のときに「相城(あいじょう)優希(ゆうき)」という名前は出なかった。
きっと私の日頃の頑張りを神様が見ていてくれたからだと思う。ありがとう神様。
そして4月1日。私の教師歴3年目が始まる。今年赴任してきた先生たちの紹介が職員室でされる。
これは私が2年目のときもあったので経験済み。むしろ
あぁ〜…懐かしいなぁ〜
と1年目に自分が紹介されていた側だったことを思い出す。もはや遠い昔に感じる。
「そうだ」
と校長先生が言う。
「今年から心理カウンセラーの先生に来てもらうことになったんだけどぉ〜…」
と腕時計を見てから職員室の時計を見る校長先生。これは初だ。心理カウンセラー。
話には聞いたことはあったが、ドラマの中の世界の話だと思っていた。
おそらく周囲の先生も同じなのか、少し職員室内が騒めく。
そんな中、ガラガラガラっと職員室の引き戸が開く音が聞こえ、職員室内の注目が一気に注がれる。
「すいません。遅れてしまって」
と言いながら入ってきたのは、おおよそ学校の心理カウンセラーとは思えない
ピンク髪にインナーカラーが緑の髪に、耳にはピアスを光らせ、柄シャツを着たチャラい男性だった。
さすがに職員室内はざわついた。
「おぉ。来ないかと思ったよ」
と言いながらその男性の肩をポンポンと叩く校長先生。
「なわけないじゃないですか。校長先生との約束は破りませんよ。…遅れはしましたけどね」
と笑う男性。
「えぇ〜。ご紹介します。
今年からうちでスクールカウンセラーとして非常勤で来ていただきます。
瀬占茶(せんさ)青空(そら)くんです」
と校長先生がその男性の紹介をした。
…ん?
引っかかった。今の今まで「心理カウンセラー」に「ピンク髪の緑インナーカラーピアス」という
ドぎついインパクトで顔を見ていなかった。
…。うわ。瀬占茶だ
それは高校時代の親友だった。私の人生で最初で、おそらく最後の異性の親友。
〜
高校時代に遡る。あまり勉強が好きではなかった優希は黄葉ノ宮高校に入学した。
いくら偏差値の低い黄葉ノ宮高校でも赤点というものは存在する。
小さい頃からハリウッド女優に憧れていた優希は英語だけは得意だったが
他の科目は得意ではなく、赤点を取ってしまうほどだった。そして赤点を取ると補習がある。
その補習で隣の席だったのが
「…ねえねえ。ここわかる?」
青空だったのだ。同じクラスだったというのもあってその日からよく話すようになった。
「なんで英語だけ点数いいん」
「え。私ハリウッド目指してるから」
「ハリウッド?目指してるって、まさか女優志望?」
「そ。中学のときから劇団に入ってて。
稽古とかして、いろんなドラマとか映画とかのオーディション受けてるんだけど、全滅」
「マジか。てかマジで女優志望なんだ?」
「そだよー。いつか画面越しに私を見ることになるね」
「サイン貰っとこうかなぁ〜」
「そっか。サイン作ってない」
「いや冗談だから」
なんて笑ったりしていた。優希の父は学校の先生で、女優という夢を追うのに優希に条件を言い渡していた。
それは大学で教育学部へ進み、教員免許を取ること。
それを条件に中学からずっと夢を追わせてもらい、高校の現在も夢を追えている。なので必死に勉強した。
愛妃「息抜きに夏祭りでもいかない?悠乃も誘ってさ」
夏休みも塾へ通って勉強していたが、同性の親友、瀬戸門(せと)愛妃(あき)から誘われて
もう1人の親友、夕雲岸(ゆうぎし)悠乃(ゆの)と3人で夏祭りに繰り出した。
いい息抜きになった。帰りに愛妃の家の方向に向かって歩いているとき
「なんで急に夏祭りだったの?楽しかったけど」
と悠乃が聞くと
「楽しかったよね。いやさ?瀬占茶がさ?
「優希が疲れてそうだから、気晴らしに夏祭りでも誘ってやって」って」
と答えた愛妃。
「え?瀬占茶が?」
と少し面食らう優希。
「そ。チャラいよね。でもチャラいのは見た目だけか。なんてーの?あざとい?目ざとい?」
「…たしかにあざといとめざといの中間管理職だね」
「中間管理職」
「なにその例え」
と言って笑う愛妃と悠乃。家に帰り、お風呂に入って勉強しようと思ってスマホの電源を切ろうとしたときに
お礼でも言っとくか
と思い、青空に
優希「手回ししてくれたみたいで」
猫が「ありがとうございます」とペコッっと頭を下げているスタンプを送った。
と感謝のメッセージを送った。普段は勉強するときはスマホの電源を切るのだが
電源を切らずに、勉強机の上にスマホを置いて勉強した。
1時間ほど集中して勉強し、スマホの画面をつけると、青空から返信が来ていた。
青空「なに?手回しって」
アメリカ人を模したであろう金髪碧眼のアメコミみたいなキャラクターが
「What??」と言っているスタンプが送られていた。
「なにって」
と笑いながら返信をしようと思ったが、すぐ返信するのもどうかと思って時間を空けた。
優希「愛妃に言ったんでしょ?私が疲れてそうだからーって」
青空「言ったっけ?」
優希「なんで惚けんのw本人から聞いたから」
青空「言ったような言ってないようなぁ〜」
優希「いい息抜きになったので、お礼をと」
青空「それは良かった」
優希「認めたな?」
青空「ヤバッw」
優希「でもよくわかったね。私が疲れてるって」
青空「ん?わかるだろ」
優希「メッセージだけで?」
青空「おん」
優希「天才じゃん?」
青空「天才です」
なんてくだらないやり取りをした。たまにどちらかが寝落ちするまで電話したりする仲で
優希からしたらメッセージのやり取りも電話も勉強のいい息抜きになっていた。
そんな3年間が過ぎ、受験も終わり、進路が決まった。
優希は教育学部に、青空は別の大学へ行くことになった。
高校の卒業式が終わり、それぞれ卒業アルバムに一言書いてもらい
「瀬占茶。書いて」
「ん?あぁ。じゃオレのにもよろー」
と青空と優希もそれぞれのアルバムに一言ずつ書き合ったりした。
卒業式の数日後、みんなで謎に集まったりしたりもした。
その謎の集まりの後、青空と優希は2人で公園にいた。
「いやぁ〜。1年とき一緒に補習受けてた相城が、まさか先生になるとは」
「いや、ならないよ?お父さんとの約束で、女優の夢を追うためだから」
「あ、そうなん?」
「そそ。大学は教育学部に進んで、きっちり4年で卒業しないとそこでジ エンド。
ま、大学に通いながらも稽古とかオーディション受けまくるけどね」
「めっちゃ忙しいじゃん」
「まあねぇ〜。でもハリウッド行くためには早めに日本で売れなきゃだから」
「ま、そうだな」
「そそ」
その後少し間が空いて
「…あのさ」
と少し決意したような、いつもの青空のトーンのじゃない声で青空が優希に声をかける。
「ん?」
優希は少し疑問に思いながらも、いつものように青空のほうを向く。
「オレら別の大学行くじゃん?」
「だね」
「伝えとこうと思って」
「ん?」
「あのさぁ…」
重く、決意したような前置きの後
「…オレ相城のこと好きかも」
と告白をした。青空からの唐突な告白に思わず
「…は?」
と言ってしまった優希。
「…え?私のこと?」
「そりゃーそうですね」
「…え。本気?」
「…まあ、。割とマジ」
といつも通りのおちゃらけた言い方と本気の言い方の中間の言い方をする青空。
しばらくの間、静寂が2人を包む。
「…いつから?」
先に口を開いたには優希だった。
「んん〜…。正直なこと言うと、わからん。ずっと今まで相城がそばにいることが当たり前だと思ってた。
でもいざ大学が別ってなったとき、あぁ〜離れちゃうんだぁ〜。って思ったのと同時に
一緒にいたい。って思っちゃったんだよね。だから正直いつからとかはわかんない」
「そっか…」
優希は迷った。正直、青空のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。寝落ちするまで電話したりする仲だし。
しかしその“好き”が恋愛的なものかどうかわからなかった。
しかも一般的には大学は高校より時間があって、遊ぶ人が多いが
優希の場合、高校よりも大学のほうが忙しくなる。
父との約束で教員免許を取らないといけない。それと並行して女優の夢も追う。
なので遊ぶ時間もないため、付き合っても、きっとつまらない。
私もきっと大変さと疲れでイライラして喧嘩してしまうかもしれない。
そしたらきっと関係性が悪くなってしまう。そしてそのまま別れたりしたら…。そう考えた。なので
「…。ごめん。気持ちは嬉しいけど、ごめん。このまま親友でいたい、かも」
と心苦しかったが振ることにした。
「…そっか。うん。わかった」
と笑顔で言う青空。
「…あれ!行くの教育学部だろ?なに学ぶん?」
重くなりそうな空気を切り替えるように話題を変えた青空。
その後しばらく他愛もない話をした。青空が優希を家の前まで送り
「じゃ、ま、大学忙しくなるだろうけど頑張れー、っていうのはプレッシャーになるか。
ま、身体壊さない程度にな」
と言う青空。
「うん。ありがと」
笑顔で答える優希。その後、青空からいつも通りのメッセージが届いた。
なので優希もいつも通りに返信した。ただそれは長くは続かなかった。
優希のほうにどこか気まずさが存在し、そこに大学の忙しさ、女優を追う忙しさも加わり
返信するのが遅くなり、いつしか返信するのすら忘れていた。
〜
そして今に至る。目の前にその親友がいる。いや、親友だった人というべきだろうか。
幸い向こうから見たら、大人数の教職員がいるので、私の顔など認識できていないと思う。
「こんちはぁ〜!えぇ〜、今年度からスクールカウンセラーとして非常勤で来させてもらいます。
心理カウンセラーの瀬占茶青空です!これからよろしくお願いします!
えぇ〜。心理カウンセラーとして、そして同僚として皆さんを知るために
これから1人ずつサシで飲みに行きましょう!」
と拳を突き上げながら笑顔で言う青空。校長先生だけが拍手していた。
は?サシ飲み?なに言ってんだこいつ
と思った。別にバレてもよかった。ただ、告白を断った上
告白を断った理由である、女優の夢を追いかける、ということも叶わず
ただただ告白を断って親友を失って、夢も失って、教職に就いただけの女。
さらに最後に会ってから約10年の月日が流れている。そう思うとバレたくなかった。なので
サシ飲みは確定でバレる。勘弁してくれ…
と思った。
「えぇ〜。スクールカウンセラーの青空くんは
生徒だけでなく皆さん、教職員の皆さんのサポートもしてくれます」
と校長先生が言うと隣で
「しまぁ〜す!」
と元気良く子どもみたいに言う瀬占茶。
「なんでもー、…なんでもいいんだよね?」
「なんでも?」
「うん。カウンセラールームに行く理由とか」
「あぁ、はい!サボりに来ました!でも大歓迎です!」
と笑顔で言い放つ瀬占茶に
おいおい
と思う。
「とのことなので、特にうちは若い先生が多いので、瀬占茶くんも若いので
皆さんと盛り上がれるんじゃないかとも思うので、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
と言う瀬占茶に、一応の歓迎の拍手が起こる。
「すいません、あざすあざす」と言わんばかりに笑顔でぺこぺこ頭を下げる瀬占茶。
「一応カウンセラールームは保健室の隣の部屋になります。
瀬仙本(せんもと)先生、後で案内と、一応保健室内の説明とかをよろしくお願いします。
学校内の説明は私がしますので」
呼ばれて気怠そうに手を挙げたのは保健の先生である瀬仙本先生。
47歳の先生としても大先輩で、2回の結婚、2回の離婚を経験した人生においても大先輩。そんな大先輩に
「よろしくお願いしまーす」
と敬礼する瀬占茶。元親友として申し訳なく、瀬仙本先生に遠目から心の中で謝る。
その後は毎年恒例の忙しさに入る。新入生のこと、新学年のこと、学校内は慌ただしい。
そして入学式の準備の日がやってきた。
特に特別な係のない先生たちは、特大の体育館のパイプ椅子の設営に充てられる。
「にしてもヤバくない?スクールカウンセラーのあの人」
私と同期の本野(ほんの)奏多(かなた)先生が言う。本野先生はうちの体育の教師。
生徒と同じくらいのテンションで体育の授業をするため、生徒からの人気が高い先生だ。
ちなみにバスケ部の顧問をしている。
「ピンク髪にピアス。カッケェ〜」
「そっちかよ」
と言うのはこれまた私と同期の須藤(すどう) 我希(わき)先生。
数学科の先生で、生徒と同じようなテンションで接するため
通称「わっきー」として生徒から人気が高い先生だ。
「いやカッコよくない?オレもしようかな。ピンク」
「教師クビ待ったなしだな」
「さすがにダメかぁ〜」
と言いながらパイプ椅子を並べる。
「相城先生!」
と岬先生に声をかけられる。
「ん?」
「相城先生、あのカウンセラーの人と」
と言う岬先生の言葉にビクッっとなる。その続きの言葉次第では
あのカウンセラーの人と?なに?知り合いだったんですか?とか?だったら
完璧だった女優としての演技の仮面が壊れる。と思っていたが
「LIME交換したっすか?」
と聞かれる。
「…へ?LIME?」
拍子抜けしたが、同時に安心もした。
「そっす!私こんななんで、特に悩みとかないんすけど
逆にこんなんだからなのか生徒から気軽に相談されることが多くて
だからアドバイス?とかのコツとか聞こうと思ったら「LIME教えて」って言われて。
なんか全員のLIMEゲットするんだぁ〜。って言ってたんですけど」
「あぁ〜…」
「全員のLIMEゲットするんだぁ〜」と笑顔でヘラヘラしながら言っている瀬占茶の姿が容易に想像できた。
「…私はパスで」
「パスって選択肢あるんすか」
と笑う岬先生。
「ちなみに竹馬(たけば)先生も相城先生と同じスタンスっぽいですよ」
と千和先生が入ってくる。
「あぁ〜。ぽいよね」
と竹馬先生を見る。竹馬水華(みか)先生。体育教師でバスケ部の顧問をしている。
年齢は26歳と私より歳下だが、先生歴では先輩だ。ショートカットでクールビューティー。
いつも少し怒ったような表情をしているが、それがデフォルトらしい。サバサバ系女子というやつで
仕事以外で、というよりも仕事でも他の先生と仲良く話しているところは見たことがない。
必要最低限のコミュニケーションだけ取っといる。という印象の先生だ。
「同じ体育の先生でも、本野先生とは大違いっすよねぇ〜」
と岬先生が言うと
「なにぃ〜!?」
と反応する本野先生。
「地獄耳かよ」
と呟き笑う千和先生。
「こっちの話っすぅ〜」
と本野先生に返す岬先生。
「でもあのスクールカウンセラーの人、鞠尾(きくお)先生とは気が合いそうじゃないですか?」
と千和先生が言う。
「あぁ〜」
「合うかも」
と言って3人で鞠尾先生のほうを見る。鞠尾万勝(ましょう)先生。
私と同じ英語科の先生で、26歳。竹馬先生と同期で、私より歳下だが教師歴では先輩。
鞠尾先生はQDS(Quacky Ducky Schoolの略称)出身で、本場の英語が喋れ
なおかつ振る舞い、言動、顔の雰囲気もアメリカナイズされている。
純日本のはずだが、どこかハーフ感を感じる。
「Hey 時馬(ときま).You look sluggish. Right??」
と鞠尾先生が声をかける相手。
「…なんて言ったの?」
「ん?ダルそうじゃん。って」
「…そりゃそうでしょ。なんで僕が足軽みたいなことしなくちゃいけないのさ。
僕は後方で戦略の指示を出す、いわば参謀。山本勘助みたいな立場がいいんだよ」
「Who‘s that」
鞠尾先生と同期の日本史の先生の将野(しょうの)時馬先生。
武将ヲタクで、自身のデスクの上にも武将のフィギュアや刀の小さな模型が置いてあり
パソコンのデスクトップも武将、クリアファイルも武将という拘りっぷり。授業も日本史を教えながらも
日本史よりもその授業のときに出てきた武将のことのほうが長く話してしまうという
日本史好き、武将好きからしたらおもしろい授業かもしれないが
うちにはそもそも真面目に授業を聞く生徒が少ないので、宝の持ち腐れ感が否めない先生である。
「逆に土秋(とあき)先生とは相容れないだろうねぇ〜」
「あぁ〜。たしかに」
パイプ椅子に座る白衣の先生。それが土秋王都(おうと)先生。
化学科の先生で、いつも眠そうな目で、いつもダルそうにしている。
喋り方もダルそうなのだが、ルックスとクールな王子感
声質に喋り方が女子生徒に刺さっており、女子生徒から陰ながら人気の先生である。
表では「土秋先生」と呼ばれているが、裏では「土秋王子」と呼ばれているらしい。
年齢は27歳。同い歳だが、頭が上がらないほど先輩である。
「サボってんなよ」
と笑顔で土秋先生に言いながら土秋先生の隣のパイプ椅子に座ったのが、沖納島(おきのど)東(あずま)先生。
「あ、でも沖納島先生ならテンション感合うかも」
「たしかに。髪ピンクだから色の話とか?」
沖納島先生は美術の先生で、クウォーターでイギリスの血が入っているらしく
地下で明るい茶髪、目の色も、日本人に比べると色素が薄い。
美術の先生なので当然といえば当然だが、絵がめちゃくちゃ上手い。
沖納島先生もテンション高く、美術を楽しく教えてくれるため
須藤先生が生徒から「わっきー」という愛称で呼ばれているように
沖納島先生も「おっきー」という愛称で呼ばれて人気の先生だ。
ちなみに沖納島先生の左薬指にはシルバーリングがはめられている。そういうことだ。
そんなように教員+一部の生徒の力も借り、生徒おおよそ300人
それに加えて保護者席のパイプ椅子の設営が終わった。特に痛くはないが、腰というか背中をさする。
「わかります。変な運動して痛くなりそうですよね」
岬先生が言う。
「そうそう」
「設営するときに思いっ切りしゃがみ込めばいいんですよ」
と本野先生が言う。
「そうすれば背中も腰も痛くならないし、スクワットにもなって一石二鳥!」
と言いながらスクワットする本野先生。
「…できれば終わる前に教えてほしかった」
「…。あぁ。たしかにっすね!」
「脳みそまで筋肉」
と呟き笑う千和に
「聞こえてっからなー」
と言う本野先生。同期+同い歳。すこぶる羨ましい。そんなこんなで入学式の準備が終わり、いざ入学式本場。
今年度も恐ろしいほどの生徒が入学してきて、うちは校則が緩い高校でもあるので
入学式から髪の色がカラフルだったりした。気崩しも許されているが、さすがに入学式は皆しっかりしていた。
式典はしっかりした服装という校則があるためである。
入学式の片付けも教員+一部の生徒の力を借りて片付け、その後はほとんど同じ業務に戻る。
もちろん新1年生の担任の先生などは忙しいだろうが
私は神様が味方してくれたお陰でいつもと変わらぬ業務で済む。
1日の業務が終わり、定時である17時となった。先生によっては部活の顧問で残る先生
クラス担任でクラスの業務があって残る先生など、定時を過ぎても残る先生が多い。
もちろん部活の顧問やクラス担任じゃなくても残る場合が多い。それが主要教科の先生だ。
そう。私の担当の英語も主要科目の1つ。しかし幸いなことに、まだ新学期が始まってすぐ。
テストもなければ、本格的な授業もまだ始まっていない。
「お疲れ様でしたー!」
岬先生や
「お疲れ様でーす。お先でーす」
千和先生
「…お疲れ様でした…」
土秋先生などが帰っていく。
さ、て、と。私も早めに帰ってお風呂に入って、ビールでも飲みながら朝の小テストを作っておきますか
と思って私も帰ろうとしたのだが
「あ、相城先生、ちょっといい?」
とベテランの先生に呼ばれて
「はい!」
足止めを食った。結果から言うと、1時間ほど残ることになった。
「各学年の教科書の振り分け
綱笠先生と軒下先生にも手伝ってもらおうと思ったんだけどさっさと帰っちゃうから。
あ、相城先生、この後予定とか大丈夫だった?」
「あ、はい!全然大丈夫です!」
ということで手伝うことになった。大丈夫。顔には出てないはず。「帰ってゆっくりしてから
予め朝の小テスト作っておこうと思ってたんですけどねぇ〜」なんていう表情は表には出ていないはずである。
長年培ってきた演技力が活かされているはずである。
教科書が大量に入った重いダンボールを移動させたり、1冊1冊数えたり
肉体的にも、精神的にも疲れ、脳も変に疲れた。私に頼んできた先生が
「相城先生ごめんねぇ〜。大丈夫?」
と聞くので
「はい!まったく問題なしです!まだまだ右も左もわからないので、言ってもらえると助かります!」
なんて心にもないことを笑顔で言う。ようやく帰れる。
職員室に戻り、帰る支度を速攻で済ませ、誰にも用事を頼まれないように速攻でドアに向かい
「お疲れ様でした!お先失礼します!」
と職員室内に残っている先生方に言って
ホワイトボードの自分の名前のマグネットを「帰宅」の部分に貼って下駄箱へ向かう。
少し予定が狂ったけど、今から帰って7時くらい。途中でコンビニ寄って夜ご飯買って
お風呂…。シャワーだけでいっか。レンチンしてビール飲んで…。あ、今日小テスト作れないかも…。マジ…
なんて考えて、首が落ちる。
ま、でも少しでも、少しだけでも進めておけば後が楽になる…。
けど、その分別の仕事頼まれるんだよなぁ〜…。小テストの言い訳があれば断れるけど…
小テストを作らなければ小テストを作る作業に追われ
小テストを作れば、他の先生から頼まれる仕事を断れなく、他の仕事が舞い込む。
八方塞がりかよ
なんて考えながらパンプスに履き替えたところで
「相城センセー!さよーならー!」
と生徒に声をかけられた。“一応”「新人枠」で“一応”「若い」とカウントされている私も
意外にも生徒支持率は高く、去年の1年生と2年生、現在の2年生と3年生には割と声をかけてもらえる。
なので私はパッっと笑顔を作って、声のほうを向き
「はーい!袴田(はかまだ)さん、さよーならー!気をつけてね!」
と言った。生徒が
「はーい!」
と言いながら小走りに右前へ走っていくと、その生徒の後ろに
「…相城、センセー?」
まさかの瀬占茶がいた。
…。ヤバい…
私は笑顔のまま固まっていた。変な汗をかいている気もした。
「相城、って、相城?え!?相城!?」
目を瞑っているので瀬占茶の表情はわからないが、めっちゃ嬉しそう、というか、「え。嘘」というか
なんかからかいがいのあるやつ見つけた、みたいな喋り方をしている。
「…。さあ。確かに相城、デスケド、ひ、人違イデハ?」
自分でもわかる。とんだ大根役者になっている。
「ぷっ…」
瀬占茶が吹き出す声が聞こえる。目を開けると案の定笑っていて
「…自分でも誤魔化しきれてないのわかってんだろ」
と言った。私は笑顔を崩し
「はい…」
観念した。
「帰り?」
「そ」
「じゃ、一緒に帰るか」
ということで一緒に帰ることとなった。
「いやぁ〜まさかだな」
「ほんとね。おひさしぶりで」
「かった(堅い)」
と笑う瀬占茶。
「何年ぶり?10年とか?」
「じゃない?」
「ヤバ。10年?怖っ。ま、高校卒業して以来だもんなー。相城、大学忙しそうだったしな」
という瀬占茶の言葉に、瀬占茶の私への告白を思い出す。
いや、もう10年も前だし。瀬占茶も覚えてない、でしょ
と思って頭からその出来事を振り払おうとする。
「あの相城がほんとに学校の先生になるとは」
目を瞑って腕を組んで頷く瀬占茶。
「そんなしみじみ言う?」
「え。だって、覚えてる?最初。補習の席隣だったからな?」
「はいはい。覚えてる覚えてる」
「補習組が先生になるとは思わんやん?」
と言う瀬占茶に
いや、補習組が心理カウンセラーになるほうが驚きなんだけど
と思う。道が別れている部分について
「私こっちだけど」
と言うと
「お。そうなん?」
と言って同じほうに歩く瀬占茶。そんなこんなで歩いていると家(うち)の前についた。
「あ、私ここだから」
「あ、実家じゃないんだ?」
「うん。一人暮らし」
「あ、そうなんな。自炊してんのかぁ〜?忙しくてできないか」
「なかなかできないっすねぇ〜」
「あ、ごめんごめん。はよ帰って休みたいよな」
よくお分かりで
「LIMEって、前のと変わった?変わってない?」
「ん?あぁ〜…。どうなんだろ。…」
スマホを取り出す。
「オレ知ってんのこれだけど」
と瀬占茶がスマホの画面を見せる。
「あぁ。それそれ」
「変わってないんか」
と笑う瀬占茶。
「連絡すりゃよかった」
と言う瀬占茶に、なんと返せばいいかわからず
「おん」
と返す。
「じゃ、LIMEするわ」
「ん」
「じゃ、また学校でな」
「はーい。お疲れ」
「ん。お疲れー」
どことなく上機嫌で帰っていった瀬占茶。
「んでさー。めっちゃビビった」
「そりゃビビるわ」
私はシャワーを浴びて、ビールを飲みながら
パソコンに向き合いながらスマホで悠乃と電話しながら話していた。
本当は大学の親友、光亀登(ここの)理(さと)に電話をしようとしていた。
理とは同じ大学の、同じ教育学部で、切磋琢磨しながら教師になった教師仲間でもある。
もちろん理は卒業してすぐに教師になったので、教師歴では超先輩になるが
「新学期始まりましたねぇ〜」
「始まっちゃいましたねぇ〜」
なんて話したかったのだが、どうやら忙しいらしく
理「ごめん!また今度!」
とメッセージで断られてしまった。
「え。瀬占茶と話した?」
「話した話した。驚いてた」
「ま、向こうも驚くか」
「まあねぇ〜」
「にしても心理カウンセラーね。なにすんの?」
「さあ。ま、学校にはスクールカウンセラーとして来てるんだけどね」
「あぁスクールカウンセラーか。聞いたことはある。
スクールカウンセラーと心理カウンセラーってなにが違うの?」
「…さあ。…スクール特化?」
「よーわからん。行ってみたら?なに室?カウンセラー、カウンセラールームか」
「えぇ〜。ただでさえ気まずいのよ?こっちは。向こうは知らんけど」
「え、でもさ、優希もやぶさかではなかったわけでしょ?」
と言う悠乃の言葉にパソコンを打つ手が止まる。瀬占茶から来ていたメッセージを改めて読む。
青空「会えて嬉しかったっすw」
「ま、嬉しかったけどね」
と言いながら返信を打つ。
「ほらぁ〜。なんで断ったん」
「いやぁ〜…。てか言わんかったっけ?」
「ん?どうだろ」
「ほら。親友だと関係値って崩れないじゃん?喧嘩しても仲直りすれば元通り。
でも付き合って喧嘩して別れましょ。ってなったら、もう無理じゃん?」
と言ってビールを飲む。
「あぁ〜…。なんか聞いた気がする。でも付き合ってないのに関係なくなったじゃん。あんたら」
「あんたらって。…。ま、そうですけど」
「いいじゃん。アホなフリして突撃かませば」
「んん〜…」
なんて話をしながら朝の小テストを少しでも進めてから寝た。
(ほとんど悠乃との話で集中できていなかった)
優希「まあ、私もひさしぶりに会えてよかったよ」
という優希からの返信を眺める青空。
「で?女性トラブル起こしてクビになったスクールカウンセラー様の新しい職場はどうなわけ?」
「どこだっけ?」
スマホから声が聞こえる。青空は高校時代からの親友、青牙(あおきば)竣(しゅん)と
室城浜(むろばま) 雷矢(らいや)と電話で話していた。
「んー?達磨ー」
「あぁ達磨か。どお?マンモス校なだけあって校舎もデカい?」
「デカいーってか高校んとき文化祭行ったじゃん。あんときと変わってねぇよ。
なぁ〜クラゲちゃんたちぃ〜。今日も元気だね」
クラゲに話しかける青空。
「でもマンモス校のスクールカウンセラーは大変そうだよな」
「たしかに。あ、教師ってどうなん?やっぱ多いん?」
「多い多い。うち(黄葉ノ宮高校)と比べもんになんない。
あと心理カウンセラーじゃなくてスクールカウンセラーな」
「でもあれだな。JKと接するってなると楽しそうだよな」
と言う雷矢に
「お前、妹JKだろ」
と言う竣。
「あぁ。でも昔と違って今は陰気でさ。前は明るい元気な可愛い子だったのに」
「達磨はいろいろイベントあるから楽しみたくさんありそうだよな」
と言う俊に、優希のことを思い出し
「うん。楽しくなりそうです」
と言う青空。これは再会した2人の、大人になった青春のお話である。
コメント
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読了したよ〜!!🌸 うわ、まさか高校の親友がスクールカウンセラーとして再登場するとは…! 優希の「演技でなんとか乗り切る」スタンスがもうすでに愛おしいし、青空との過去のやり取りがめっちゃリアルでエモい😭💕 「サシ飲みでバレる」って焦る優希の心情、めっちゃわかるわ…。 次、2人がどう距離を縮めていくのか、気になって仕方ないよ〜! 続き、めっちゃ楽しみにしてるね⋆♡