またなの……?
また、一人で先に行ってしまうの……?
バイクで走り去る、彼の見慣れた背中を呆然と見送る私。
見慣れた背中……?
そう、見慣れた背中だ。私は子供の頃からずっと、あの背中を見て、あの背中を追いかけてきたのだから。
そして最近、ようやくその背中に追いついた――ようやく追いつき、彼と肩を並べる事が出来た。
R-4のトップと鬼怒姫のトップ……
それは私の本当に望んだカタチではないけれど、今はそれでも良かった。彼の近くに居られるだけで良かったのだ。
なのに……
彼の消えた先を見つめ、ただ立ち竦む事しか出来ない私。
「ち、千歳さん……」
どれくらい、そうしていたのだろうか? 背後から聞こえてくる、由姫の心配そうな声。
しかし、その声を聞いた瞬間に私の涙腺は崩壊した――
涙で滲む世界……橋の上を走る車のテールランプが幾重にも重なり流れていく。
私はその涙を――自分の弱さを隠す様に、川沿いの遊歩道を川下に向かって走り出した。
バカ……トモくんのバカッ! バカ、バカ、バカッ!!
何度も何度も、心の中でそう繰り返す私。
乗って来たスクーターを置き去りにして、街灯のない薄暗い遊歩道を全力で走る。後ろから私を呼ぶ声が聞こえてくるけど、そんな仲間達の言葉すら私の頭に入ってくる事はなかった――
後日、学校をサボった私の見舞いに来てくれた由姫。
昼間の内に彼がチームを抜けた理由を調べてきたと言って、その話を聞かせてくれた。
なんでも、やりたい仕事が見つかり、そのために今から東京の大学に行くための準備をするらしい。
その仕事が何なのかはまでは分からないけど、希望進路は国立文系だそうだ。
その話を聞いた時、不謹慎だけど少し安心してしまった。
彼の通う高校は、お世辞にも進学向きではない。
むしろ進学率は惨憺たるものだ。いくらなんでも、今から受験の準備をして間に合うワケがない。
そして受験に失敗すれば、きっと彼は戻って来てくれる――と。
しかし、私は忘れていたのだ。
素行が悪くなり出す前の彼は、成績が良かったという事を――そして、一度目標を決めた時の彼の集中力が尋常ではない事を……
結果、現役で合格した彼は東京の大学へと行ってしまった。
もしも……もしもだけど――
『彼が東京に向う前に、私の気持ちを打ち明けていたらどうなっていだだろうか?』
今でも、そんな事を考えてしまう時がある。
でも、当時の私にそんな勇気はなかった。いや、今の私にだってないだろう。
もし、そんな勇気が少しでもあったらなら、夏休みからの半年以上を、無為に過ごす事はなかったはずだ。
そう、私と彼が最後に会話をしたのは、あの河川敷――当時の私は、彼に会いに行く勇気すらなかったのだから……
………………
…………
……
そうなのだ。彼と直接顔を合わせたのは、あの鬼怒川の河川敷が最後。以来、四年以上も彼とは会っていない。
なのに、部屋のドアを開けるとその彼の笑顔が、いきなり私の視界へ飛び込んで来たのだ。
そしてその笑顔を見た瞬間に、私の思考と身体は完全にフリーズしてしまった。
な、ななな、なんでトモくんが……こ、ここ、ここに……?
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