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日本の名門高校を卒業後、俺はボストンの大学へ進学した。
MBAの学位取得のため、アメリカ生活は六年の予定だった。
ある日、日本から語学留学生が来ていると聞いた。翠々はその中のひとりだった。
「はじめまして。白川翠々です。四月から大学三年で、年齢は二十歳です」
「はじめまして。鳴宮琉輝です。ビジネススクールに通ってる二十四歳」
「うわぁ、大人っぽいはずですよね。私より四歳も年上ですもんね」
恥ずかしそうに頬を染めながら自己紹介をする翠々は清楚でかわいくて、俺は一瞬で目を奪われてしまう。
「早く口説けよ。グズグズしてたらずぐに日本に帰っちゃうぞ」
同じビジネススクールで学んでいる壮太が俺をけしかけてきた。……まぁ、たしかに一理ある。
一目惚れに近い形で翠々に惹かれているが、留学を終えた彼女が日本に帰ってしまったらそれで終わりだ。
「鳴宮財閥の跡取りがなにを気にしてるんだよ」
「それ、彼女にバラすなよ」
「相変わらずだな。由緒正しい名家を武器にしないなんて俺には考えられない」
仲良くなるために鳴宮の名前を利用したくはない。
家柄なんか関係なく、ひとりの男として見てくれるかどうかが重要だ。
財閥だと知った途端、目の色が変わる人間が多すぎてうんざりしている。
バーベキューをしようと集まったときも、女の子が何人か輪になってしゃべっている中で、純真を絵に描いたような翠々は誰よりも輝いていた。
もっと話したい、触れてみたい。こんなに心を揺さぶられたのは初めてだ。
「琉輝さんはやさしいですね」
「翠々には特別かな」
「……え?」
俺としてはわかりやすく気持ちを示しているつもりだ。少し鈍感な彼女にも届くように。
バーベキューの片づけ作業を終えるころには、藍色に変わった空に星が出ていた。
「うわぁ、満天の星ですね。綺麗」
宝石を散りばめたみたいな星空を翠々と一緒に見上げた。
「アメリカで見る星は格別です」
「日本でも一緒に見よう。帰国したあとも、翠々に会いたい」
「私も会いたいです」
気づくと、吸い寄せられるように自身の唇をそっと重ねていた。ほんの少し触れるだけのキスだった。
だがその後、俺は日本に帰れなくなり、歳月だけが過ぎていった――。
「琉輝さん、助けてくれてありがとうございました」
光永さんが去ったあと、私はいまだにドキドキとする胸を押さえながら彼にお礼を言った。
「勝手に‟恋人”だなんて言って悪かった」
気まずそうな顔をする彼に、私はふるふると首を横に振る。
「謝らないでください。あのとき、うれしかったから」
「だったら、本当に俺と付き合ってほしい」
長い腕が伸びてきて、あっという間に彼の胸に抱き寄せられる。
目の前には逞しい胸板が広がっていると意識すると、急激に顔に熱が集まってきた。
「日本とアメリカで離れていても、俺の心にはずっと翠々がいた」
思いの丈をやっと口にできたとばかりに、琉輝さんがふんだんに色気を含んだ瞳で私を捕らえる。
「そばにいられないのが悔しくて今まで伝えられなかったけど、ずっと翠々が好きだったんだ。翠々はどう?」
「私は、その……琉輝さんは鳴宮財閥の御曹司で雲の上の人だから、私なんか釣り合わないです」
「それは俺の聞きたい答えじゃないな」
残念そうに眉毛を下げて苦笑いをする琉輝さんを目にすると、切ない気持ちでいっぱいになった。
だけどどう考えても名家の財閥御曹司と私では家柄が天と地ほど違う。それは変えられない事実だ。
「正直な気持ちを聞かせてほしい。俺は雲の上にはいないよ。翠々のそばにいるだろ?」
「でも……」
「虫唾が走るくらい俺のことが嫌いだ、っていう理由以外は受けつけない」
どうしたらいいのかとまごついている自分が、なんだかバカみたいに思えた。
小心者で迷ってばかりの私を、彼はいつでも大きな器で受け止めてくれる。こんな男性はほかにはいない。
「私も琉輝さんが好きです。頭がよくてイケメンで、やさしくて、大人で……」
まだ話している途中で唇を塞がれた。琉輝さんの素敵なところをすべて言い連ねるつもりだったのに。
「こんなにうれしいのは生まれて初めてだ」
こういう誠実で純粋な部分にも私はすごく惹かれている。彼はとても温かい人だ。
「顔が真っ赤。かわいいな」
「そ、それは琉輝さんがいきなりキスするからです」
ふと足を止めて星を眺め、気持ちを伝えあってキスを交わす。そんなロマンチックなシチュエーションに存分に酔いしれた。
「俺はずっとずっと、翠々が好きだったんだ」
心狼@_shiro🤍🐺