テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
心狼@_shiro🤍🐺
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「今度、一緒に叔母さんに会いに行こう」
私の手をギュッと握りながら、琉輝さんがそう言った。
「それは……琉輝さんに多大な迷惑をかけることになります」
叔母と面識のない彼を連れて行ったら、私とどういう関係なのかと当然聞かれるだろう。
ずっと好きだった人で恋人関係になったのだと正直に伝えるしかないけれど、琉輝さんが鳴宮財閥の人間だとわかれば、きっと叔母は目の色を変えるはずだ。
そんな恥ずかしい振る舞いを彼に見せたくない。
「お見合い相手のこと、謝っても叔母は絶対に許さないと思います。拝金主義だし、会社を守らないといけないから……」
「謝罪する気はないよ。見合いを無理強いしたのは叔母さんのほうだし、翠々はもう十分謝ったじゃないか」
コーヒーをかけられた日の記憶がよみがえってくると、つらくて泣きたくなってきた。
叔母と話し合うにしても、光永さんの元へ嫁ぐ気はない。それだけは絶対に変わらない。
「翠々の役に立つなら鳴宮の家に生まれたのも悪くないな。叔母さんがうちを気に入ってくれるとしたら願ったり叶ったりだ」
「琉輝さん……」
「翠々にとって身内と呼べるのは叔母さんだけだろ? なんとか関係を修復出来たらいいな」
やはり彼は私よりもずっと大人だ。
私は心のどこかであきらめていたし、このまま縁を切られるならそのほうが今後は楽かもしれないとすら思っていた。
だけどそんな叔母でも、琉輝さんは私が天涯孤独にならないように仲を取り持とうとしてくれている。
こんなふうに思いやりにあふれたところも大好きだと実感してキュンとした。
「こちらの方はどなた? 弁護士さん?」
半月後、琉輝さんとふたりで叔父と叔母に会いに行った。
きちんとした用件がなければ会ってもらえないと思ったので、借金返済の件で話したいのだとメールで伝えておいたのだけれど、叔母は私が弁護士を伴ってやって来たと勘違いしたらしい。
玄関先で腕組みをしながら憮然とした態度を取っている。このまま家に上げてくれずに門前払いするつもりだろうか。
「違うの。弁護士さんじゃなくて」
「初めまして。鳴宮琉輝といいます」
琉輝さんが名刺入れから名刺を一枚取り出し、美しい所作で叔母に手渡した。
まるで値踏みするように視線を上下させていた叔母だったが、彼が身に着けている濃紺のスリーピーススーツが上等なブランド品であるとすぐに気づいたみたいだ。
「え! スターレイルの社長さんでいらっしゃるの?」
ツンとしたまま名刺に視線を落とした叔母が驚いて大きな声を上げた。
「はい。実務を担っている関連会社ですが」
「でも、鳴宮さんってお名前……もしかして創業一族の方?」
琉輝さんが柔和な笑みをたたえてうなずくと、家柄や肩書が大好きな叔母は一瞬で表情が明るくなった。
私は逆に、叔母のこういう浅ましい部分が恥ずかしくて仕方ない。
「翠々さんとは留学中に知り合って、つい最近なんですが正式に交際することになりましたので、一度ご挨拶しておきたくて参りました」
彼が「お口に合うといいのですが」とスマートに焼き菓子の手土産を渡すと、叔母はうれしそうにそれを受け取った。
「むさ苦しい家ですけど中でお話しましょう。どうぞどうぞ」
やっと玄関扉を開けてくれた叔母は、上品な奥様を気取って声を上ずらせている。
こうなる予想はついていたので彼にも事前に伝えていたものの、隣にいる琉輝さんに「すみません」と小声で謝った。
彼は大丈夫だと言わんばかりに私の背中をやさしく擦ってくれる。
「翠々、あなたの好きな人って鳴宮さんだったのね。それを早く言いなさいよ。話が変わってくるでしょう」
来客用の応接間に通された私たちがソファーに腰を下ろすと同時に、叔母が親しげな声音で私に話しかけてきた。
いつものきつい口調とは正反対なので、私は驚いてポカンとしてしまう。
鳴宮財閥に取り入ろうと思っているのかな。拝金主義の叔母の行動はある意味わかりやすい。
「琉輝さんのお父様は……?」
「父はスターレイルエアの社長をしております。ちなみに祖父が会長で」
「では、ゆくゆくはあなたがスターレイルエアを継ぐことに?」
その問いかけに、彼が静かにうなずいた。
「でも……この話、本当に信じていいのかしら?」
叔母の懐疑的な視線が容赦なく彼に突き刺さった。