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ウイルス性のインフルエンザをずいぶん長い事、患っている店長がとうとう退職願いを出してから1か月、私は一生懸命クレープ屋で店長の代わりを勤めていた
しかしオーナーが「鈴ちゃんが大変だろうから」と他店のレストランから新しい社員さんを店長候補としてこちらへ回してくれた
新しく店長になるその女性は、私より5歳年上の女性で榊原さんという人だった
彼女は電車通勤で身だしなみになかり気を使う人だった、ゆるふわパーマのかかった彼女は、クレープ屋の制服を脱ぐといかにも洗練された大人の女性の雰囲気を漂わせていた
身長は私と同じぐらいだが、はるかに私よりスリムでスタイルがよかった
やや吊り上がりめの瞳で美人だけど飲食店にしてはメイクが少し濃いかなとも思っていた
彼女はかなりお客様に感じが良く
頼りない感じの透明感がある声でお客様に接していたが
やや媚びを打っているような語尾が上がる
口調だった
初めのうち私は彼女ととても仲良しだった
いや仲良くしようと努力していたのかもしれない
お客様がいない時はいつも彼女と世間話をしていたし
また派遣されたばかりの彼女が快適に仕事が
出来るように気を使っていた
お店が終わった後も近所の居酒屋に二人で
繰り出しいろんな事を話した
私は職場で友人が出来たことが純粋に嬉しかった
気が付くと私は彼女に離婚したことや
ここのオーナーと共同経営の兄の拓哉の事も
なんでも包み隠さず話していた
彼女は最初私の兄は櫻崎拓哉だと聞いて
驚いていたが
特にそれを気にすることなく接してくれていた
一方彼女の方も最近離婚したばかりだという
辛い事実を打ち明けてくれた
よくよく彼女の話を聞くと
彼女の別れた夫もどこか俊哉と共通点のある
傲慢さが見え私は彼女に大いに同情した
二人で色んな話をし泣いたり
または笑ったりした
彼女が言うには自分にはもう仕事しかなく
最初は私が自分の地位を脅かす存在なのではないか
と警戒していたと素直に打ち明けてくれた
私は「とんでもない」と彼女に叱咤した
今自分はやっと自分自身を成形している最中で
あの店で一生やっていくという覚悟は無いと彼女に
率直に語った
とにかく何でもいいから働きたかったので
兄に紹介してもらったこの仕事を気に入っては
いるがやはりまだ一生をかけてやりたい仕事は
他にあるんじゃないかと思っていると告げた
榊原さんは共同経営者の
兄のコネでこの仕事について
アルバイト社員の割には高いお給料をもらっている
私と違い
離婚してからあちこちで職を変え飲食のキャリアを積んでようやく今のオーナーの信頼を勝ち取り
ここを任せてもらえたことに
感謝していると私に言った
正直に言えば人より多くお給料をもらっていることに
少しばかり引け目を感じていたけど
私としても何かとお金はいるし貯金もしたかったのでそのことはありがたく受け止めていた
「私達・・・上手くやっていけそうね」
そう言って私と彼女はにっこり笑った
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