私の働くクレープ屋さんは
一週間に金曜日だけ顔を出すオーナー他
雇われ店長の榊原さんアルバイト社員の私
そして昼間のパートの奥様3人に
午後と休日に活動できる学生アルバイト8人だった
兄の友人のオーナーの優しい雰囲気に影響を受けて
いるせいかみんな陽気でリラックスした雰囲気で
仕事の姿勢はゆるかったのだが
ある日を境に榊原さんが店の事は
かなり厳しく取り仕切り出した
レジ打ちのミスは一切許されなく
打ち間違いの訂正レシートが一枚でも
上がってくると厳しくバイトの子に叱咤した
中では泣き出す子もいて
いつ辞められるかとヒヤヒヤした
私は彼女の仕事の姿勢だけは感心していたので
色々学ばせてもらうつもりだったけど
従業員のしかも学生のアルバイトの子に
対しての酷い叱咤はちょっと行き過ぎでは
ないだろうかとさえ思ってしまっていた
食品ロスにもかなり厳しく今までコーヒーなどは
従業員はタダで飲めていたのに
いちいちレジを通してお金を払わないと
飲めないようにしてしまっていた
そのくせ自分が気に入ったお客様には
コーヒーのサービスなどを勝手にしていた
もちろんそのお客は類に漏れず男性客のみだった
そしてある日彼女の公私混同があまりにも
見逃せない域に達したので
少し私はアルバイト代表として彼女に意見をした
それから彼女の私に対するある種の「いじめ」的なものがはじまった
そのやり口には覚えがあった
私が俊哉によく使われていた手だった
ある日ロッカーの中の私のキッチンシューズが
おかしなことに無くなっていた
このロッカーは鍵がなく学校の教室にあるような
下駄箱的なもので出勤してきてここで普通の靴を
キッチンシューズと履き替えるために
置き靴をしていたのだが
何度あたりを探してみても
私のキッチンシューズが無いので
その日は通勤に履いていたスニーカーでキッチンに入った
途端に彼女の怒鳴り声が響く
「どうしてキッチンシューズを履かないの!」
「無くなっていたんです 」
彼女は最初は驚いた風な表情を
作ってさらに怒りを発する
「うそおっしゃい!あなたってどうして自分が物忘れをしてるのに、いかにも他の人のせいにして!本当にいい加減な人ね! 」
隣の店舗に聞こえるぐらい大きな声で怒鳴る
私が何か紛失したように見せかけて、他の従業員にいかにも私は注意散漫でだらしのない人間だという印象を植え付けようとするのだ
しかし彼女が意図してそういう意地悪をしていると決めつける証拠もない
そして帰宅時になるとおかしなことに下駄箱には、私のキッチンシューズがどこからともなく現れてキチンと元に戻っている
私が何かミスをしたような扱いをうけて、怒鳴られるのを心配そうに学生のアルバイト
の子達が私を伺っている
私は肩をすくめて両掌を上に向けて、アメリカのコメディアンのようにおどけて見せる
「これぐらいなんともないわよ」
とばかりに
学生バイトの子は安心したような表情になる、いずれも彼女のおかげで以前のように明るくて、アットホームな職場にはもう戻れないような気がする
榊原さんの気分や要求を予測するのは不可能だった
新作クレープを一人ひとりテストすると言って5回も焼かされたあげく、やっぱり一番最初のほうがよかったと言われた
ショッピングモールの店長会議に彼女の代わりに出席してくれと頼まれた時などは、彼女から会議の開始時間は1時半からだと言われたのに、行ってみれば私だけ30分の遅刻ということもあった
しかしそんな時必ず彼女は私にこう言った
「まさか!私は1時からだとちゃんと言ったわよ、あなたが聞き間違いをしていただけでしょ、まったく会議もまともに出席できないなんてこの仕事辞めたら?」
そして私は彼女に告げる
「いいえ!絶対辞めません!」
ほんの数週間前とはまったく違い、私たちはしばらくにらみ合った
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