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疲れた目をしたリカルド様に、思い切って言ってみる。リカルド様はやや遅れて「ああ」と返事をくれた。
うんうん、そうだよね。反応速度も遅くなるよね。
「どうせこのあと、残りの魔物の肉とか取りに、レッドラップ山の麓の拠点に戻るじゃないですか」
「そうだな。……いや、今すぐ戻ろう。もう話しかけられたくない」
ハッとしたようにリカルド様があたしに差し伸べた。もはや違和感もなくその手をとって、二人して拠点へと転移する。そのままいつものイスとテーブルに落ち着いたあたしたちは、突っ伏してハアー……とため息をついた。
「落ち着く……」
「ですねえ」
顔を見合わせて、なんとなく目を細め合った。たった一週間程度しか一緒じゃなかったっていうのに、なんだろうこの安心感。
「そうだ、さっき提案があると言っていたようだが……すまない、話の腰を折ってしまった」
「ああ、いえいえ、いいんです。また誰かに話しかけられても困るし」
「提案とは?」
「いや、できればでいいんですけど、ここでもう一泊しません?」
「もう一泊? 確かに結果報告後は、演習の最終期限日まで何をしていようと自由なはずだから別に問題ないが……」
そうなんだよね。この演習は二週間の期限だから、あたしたちはあと一週間くらいはゆっくりできる筈なんだ。
「寮に帰ったら絶対に質問攻めにあうと思うんですよね」
「なるほど。俺も家に帰ったら間違いなく質問攻めにあうな」
「でしょう? でも今日はもう、ものすごく疲れたじゃないですか、ほんと色々あったし。だからとりあえずゆっくり寝たいな、と思って」
「同感だ」
完全に同意してくれたリカルド様と結託して、今日はもう残りのお肉の運搬も拠点の撤収も何もかも後回しにして、ただただゆっくりして美味しくご飯を食べて、気持ちよく眠ろうってことになった。
いやぁ、だらだらタイム、最高!!!!!
火渡り鳥のフワフワ羽毛とリカルド様が大量に狩った魔獣たちの毛皮をなめして清浄したものを幾重にも重ねて、今やあたしたちのお布団はふっかふかのホワホワだ。ダラダラしがいがあることこの上ない。
夕ご飯を食べてダラダラしているうちに本格的に夜になって、お星様がキラキラと輝き出したもんだから、もうそのまま寝ちゃおうかって話になった。
「あー、幸せぇ」
「ははは、ユーリンは本当に幸せそうに笑うな」
「……っ」
あっ……リカルド様が、声を出して笑った……!
なかなか見られないレアな光景に、心臓が急激に打ち始める。いつも無表情だからなのか、優しげに細められた目も、口元からわずかに見える白い歯も、破壊力がスゴイ。
ああ、勇気を出してもう一泊しようって提案して良かった。まさかこんなご褒美がもらえるとは。
嬉しくってついマジマジと見てしまったけれど、リカルド様は笑いながらゆっくりと視線を星空へと移していく。いつも通りの穏やかな顔で、満天の星空を見つめる姿はそれはそれで眼福だ。
鼻の稜線が綺麗だなぁ、ああ意外と睫毛長いんだ。ジェイドさんやアリシア様ほどじゃないけど。
新たな発見のひとつひとつが新鮮で嬉しい。
「この綺麗な星空も見納めか」
リカルド様の横顔に見惚れていたあたしとは違って、リカルド様は星空に見惚れていたらしい。ふかふかお布団に寝転んだままあたしも星空を見上げてみた。青白い光が無数にチラチラと揺れていて、王都の明るい夜の街では決して見ることができない美しさだ。
「そうですねぇ、こんな綺麗な星空は王都では見られないですもんね」
「ああ、穏やかで気持ちいい夜だな。今回の演習で、野宿が楽しいと初めて知った」
「あたしも!」
寝転んだまま二人で目を合わせて微笑み合う。演習が始まるときには、リカルド様とこんなに仲良くなれるなんて思ってもみなかった。だからこそ、この距離感がとても嬉しい。
「リカルド様、これからも魔法、時々教えてくれますか?」
「もちろんだ。……今回の闘技場破壊に関しても責任を感じているしな」
ああっ! 急にリカルド様がシュンとなってしまった。悲しそうに垂れた犬耳の幻が見える。
「そんな! リカルド様が責任を感じる必要なんてカケラもないですってば!」
「いや、君の魔力のパワーは誰よりも俺が理解していた。あの場であの惨状を抑止できたのは俺だけだったのだから、あれは間違いなく俺の責任だ」
なんてこった。せっかく楽しかったのに、リカルド様のスイッチを押してしまったらしい。あたしのバカ!
生真面目だからこそ、自分を責めがちなリカルド様。でも、そーじゃないんだよ!
思わずバッと起き上がる。驚いた顔のリカルド様を見下ろして、あたしは勢い込んで言った。
「リカルド様はなんでもかんでも自分のせいにしすぎです! あたしが言うのもなんだけど学長が言ってたとおり、あの場で一番的確に状況を判断すべきだったのは学年主任の先生だと思うし、そもそも自分の魔力を理解しとかないといけないのはあたしだと思うし……っ」
一気に言い過ぎてそれ以上続けられなかった。
「ユ、ユーリン」
「だから! リカルド様は気にする必要これっぽっちもなくって、あたし……!」
「すまない、ちょっと、待ってくれ」
急に顔をしかめて、リカルド様が眉間を抑える。そのまま苦々しい表情で起き上がるから、あたしは急に不安になってしまった。
もしかして、あたし、リカルド様を怒らせた?